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【wisteria】
(初出:2020.04.29)





仕上がったケーキと下拵えの済んだ食材を、冷蔵庫に納めて。
エプロンを外しながらリビングを横切り、掃き出し窓から庭を見渡せば、愛しい我が子と夫は、芝生に敷いたビニールシートの上で、身を寄せ合うようにして昼寝をしていた。

「あらあら…」

心和むその光景に、思わず口元が緩む。
ダイニングテーブルまで引き返し、スマホを手に取って再び窓際へと移動すると、ばしゃり…と一枚写真を撮った。
写り具合を確認しながら、縁側に腰を下ろす。
我ながら良く撮れた…と心中で自画自賛しながら顔を上げれば、仄かに甘い香りのする風が髪をふわりと揺らした。

「いい気持ち……」

目を細めて、青い空を見上げる。
視線をゆっくり下げていけば、ゆうらり、ゆうらり……とそよ風に揺れる紫色の花房が視界に入った。
今年始めて花を咲かせたその藤の木は、一護君が役所に出生届を出しに行ったときに、記念樹として貰ってきてくれたもの。

「てっきり、みかんの苗が良いと言うと思ったんだけど……念のために、確認の電話入れて正解だったな」

そう言いながら苗を植える穴を掘りつつ、何か理由があったのか…と問いかけてきた一護君に、私はただ曖昧に微笑んでその場を誤魔化した。
一護君から二度目の告白を受けたとき、私たちの頭上で揺れていたのが藤の花だったから…そう白状するのはどうにも照れくさ過ぎて、数年を経た今でも内緒にしたままだ。

4月29日の誕生花が藤だと知ったのは、それから少し後のこと。
こんな素敵な偶然ならば、人生いつだって大歓迎だ…そう思ったことを覚えている。

………とは、言うものの。

初めて花をつけた、その時期に。
一勇もまた初の死神化をした…という偶然には、ちょっとばかり考え込むこともあるのだけれど。

それでも。

藤の木も一勇も、大病にかかることもなく、すくすくと無事に育ってくれている。
親から愛された記憶のない私に、育児など務まるだろうか…と不安に震えた夜が遠い昔に感じるほど、日々は穏やかに過ぎていく。

「……このままずっと、みんなで幸せに暮らしていけたらいいな」

ぽつり…と呟いた私の髪を、風がやさしくなぶっていった。
その感触は、幼い頃、お兄ちゃんの大きな掌に頭を撫でられたときのそれに良く似ていて……懐かしさにしばし目を閉じ、過去の時空へと心を飛ばす。

「…う…ん……」

微かに耳に届いた声に慌てて目を見開けば、一勇がもぞもぞと動いていた。
そのまま目を覚ますのか…と、無意識に息を詰めて様子を見守る。
しかしながら、一勇はころり…とひとつ寝返りをうっただけで、ふたたびすぅすぅと安らかな寝息を立て始めた。
その姿を目にしたとたん、盛大に吹き出しそうになって慌てて口元を押さえる。
何故ならば……寝返り後の一勇の格好が、すぐ隣で寝ている一護君と全く同じになっていたからだ。

「親子だねぇ……」

くつくつと喉の奥で笑いながら、もう一度スマホのカメラレンズを二人に向ける。
撮れたての写真は、その場でホーム画面に設定した。

「後で、一護君にも転送してあげよう」

そんなことを考えながら、サンダルをつっかけて庭に降りる。
眠り続ける二人の身体に、乾きたてのお昼寝ケットを掛けるために……。







終

※書いた当時は未だ読み切り発表前だったため、庭付き一戸建ての設定で書いていました。
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