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【第一関門まで、お供します】
(初出:2020.03.15)





土日のパン屋、特に朝から昼前後までの時間は、家族の朝食や昼食を買い求める客で賑わうもの。
だから僕や父さんが陽も高くなってからノコノコと起きてきた時には、当然ながら母さんの姿はもう、家の中のどこにもなかった。
父さんと分担してパンを焼いたりコーヒー沸かしたり、卵を焼いたりレタスをちぎったりして作ったブランチを二人で食べ、その後はこれまた二人で分担して、掃除機をかけたり洗濯物を干したり。
粗方の家事を終えてリビングで1時間くらいダラダラしたところで、父さんは再び台所に立った。
手際良く調理していくその姿を、カウンターで宿題を広げながら、ぼんやりと眺める。

「父さんて、料理上手だよね。いつからそんなにできるようになったの?」

僕の問いかけに、父さんは視線を手元に向けたまま、「お前が母さんの腹に居た頃に、覚え始めた」と答えた。

「母さん、悪阻が酷くてな…。とても料理なんてできる状態じゃなかったんだ。
産後の肥立ちもあまり良くなかったし、かと言って母さんには頼れる実家も無い。勿論、遊子や夏梨はよく手伝ってくれたけど、まずは俺がやらなきゃな…って。
幸い、タッパーに材料全部詰めてレンチンすりゃ出来上がるような簡単料理が、動画で紹介されたりし始めた時期だったしな。大人二人分つくるくらいなら、俺なんかでもなんとかやれた」
「ふぅん…」

感心することしきりの僕の目の前で、切られた材料が鍋に移され、火にかけられる。
やがて沸騰した鍋を保温鍋にセットし、ご飯釜のタイマーセットしたところで、父さんは肘までまくっていた袖を下ろした。

「…そろそろ行くぞ」
「うん!」

これから父さんのお供で、花屋に行くのだ。
基本、怖いもの無しの父さんだけど、花屋やケーキ屋など、カラフルな色彩の踊るファンシーな場所に踏み込むには、そこそこ勇気が必要になるらしい。

「今年はどんなのにするの?」
「決めてない。店でお勧め訊いてからにする」
「……訊けるの?」
「……………」

ムッツリと押し黙ってしまった、父さんの隣。
思わずくすり…と笑ってしまったら、乱暴な手つきで髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回された。

「父さんが選んだのなら、母さん何だって喜ぶよ」
「……わかってる。だから、余計に難しいんだ」

ぶっきらぼうに答える父さんの耳が、少し赤い。
こんな父さんの不器用さも、それでも逃げずに何とかしようとするところも、母さんからしてみれば、愛しくて仕方がない父さんの個性の一部分なのだろう。

ふふ…と再び、小さく笑う。
父さんはじろりと横目に僕を睨んだあと、ひそり…と小さくため息を吐いた。





終
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