log:petits fours
【初めての〝いい夫婦の日〟】
(初出:2020.11.25)
「うわぁ…!」
俺の、向かい側。
テーブルの上に並んだ、素材も形も色合いも様々なケーキを映す織姫の瞳が、きらきらと輝く。
「これ…本当に全部食べていいの……?」
そろり…と上目遣い俺を窺う様子に、笑い出したくなるのを堪えながら頷けば。
それはそれは幸福そうに微笑んで、織姫はデザートフォークを手に取った。
「美味しい…!」と。
それこそ蕩けそうな表情で、ケーキを平らげていく織姫。
時々眉根を顰めて考え込んでいるのは、味が気に入らないということではなく、恐らくは職業柄、材料や製作の過程を推測し、今後に活かそうとしているからだろう。
ひとつひとつ携帯電話で写真を撮り、何事かを打ち込んでいる姿からも、俺の推察は多分間違っていないと思う。
「…お茶のおかわり、いる?」
「あ…うん、欲しいです!」
「了解」
空になったマグカップを手に立ち上がり、キッチンへ向かうべく踵を返せば、背中越しに躊躇いがちな「……ごめんね」が聞こえた。
振り返れば、目に映るのは肩を丸めて俯く織姫の姿。
思わず眉間に、深い縦皺を刻んでしまう。
「……何も謝られるようなこと、されてねぇけど」
「でも…今日は朝からずっと、家事から何から全部やってもらってて、甘やかされてばかりだから……」
消え入りそうな声に、ひそり…と小さくため息を吐いた。
謙虚だったり家事労働を厭わないのは織姫の長所ではあるけれど、折角家族になったのだから、もう少し甘えたり委ねたりすることにも慣れてほしいものだ。
それに…今の織姫は、織姫だけの身体じゃない。
「気にするな…つっても、お前の性格的に無理かもしれないけど……とりあえず今日は、大人しく甘やかされとけよ。
悪阻でケーキどころじゃなかった、誕生日祝いの振替兼ねてるんだし、さ」
「一護くん…」
「職場の先輩が言ってたぞ。
産む前は早く出てきて欲しいと思っていたけど、生まれてから暫くは、いっそ腹に戻したいって思っちまうくらい忙しくて大変だったって。
だからのんびり出来るうちは、存分にそうしとけよ」
「……うん!」
それじゃ、遠慮なく…と。
はにかんだ笑みを浮かべながら、織姫が新たなケーキへと手を伸ばす。
「夜は出来るだけ低カロリー、高タンパクな夕飯作るからな。体重増やしすぎても、やばいんだろ?」
「うん、ありがと。期待してるね!」
「おう、任せとけ」
にっ…と口の端を釣り上げながら、再び踵を返してキッチンへと向かう。
ポットに茶葉を入れ、お湯を注いで抽出を待ちながら、メニューを検索すべくポケットから携帯を取り出した。
終