log:petits fours
【発芽】
初出:2019.10.31
バイトで夜遅くに家に帰ったら、テーブルの上に遊子の字で書かれたメモが置かれていた。井上の勤務先で買ったかぼちゃプリンが、冷蔵庫に入っていると言う。
疲弊した体に甘味は有り難く、早速取り出して頬張っていると、テーブルの上の携帯が震えてメールの着信告げた。
送り主は、竜貴。
「貸しひとつ」と言うタイトルに何のことやらと首を傾げつつ開封すれば、画面いっぱいに映し出されたのは照れ臭そうに微笑む井上の写真。
見慣れた職場の制服姿の彼女は、しかしながらその頭から兎の耳を生やしていた。
………やべ、可愛い。
思わず緩みかける、俺の眉間。
しかし次の瞬間には、再び深い皺を刻み込んでいた。
今日一日、彼女はこの姿で客の前に出ていたのだろうか。
そしてその姿を、一体どれだけの男たちが、締まりなくヤニ下がりながら視界に収めたのだろうか。
心の内側が、不快にざらついていく。
一方で、痛いくらいに甘い音を立てて、心臓が鳴った。
ため息を吐きつつスマホをテーブルに置き、ぐったりと椅子の背に体重を預けて目を閉じる。
卒業して、半年。
高校時代のように毎日井上に逢うことのなくなった日々の中で、彼女に対して抱いていたぼんやりとした想いが、少しずつ明確な形を取り始めていた。
終