log:petits fours



【「お母さん」に、花束を】
(初出:2019.5.12 よもやま)





※ 婚約中…?







生まれて初めて、「お母さん」のためにカーネーションを買った。

遊子ちゃんが戸棚の奥から出してくれた花瓶に活けながら、もしご存命であったなら、どんな顔をして受け取ってくださったかしら…などと考える。
きっと、居間に飾ってある遺影通りの、この花の美しさ、華やかさに負けない笑顔を見せてくださるに違いない…とは思うけれど…。

「………お許しくださったかしら?」

黒崎くんの隣で、生きていくこと。
その権利を私が得ることを、お義父様と同じように喜び、許してくださったかしら…?





「……また何か、ろくでもないことを考えてるんだろ」
「ひゃあっ?!」

深く自分の思考に沈み込んでいたところに急に声をかけられて、思わず変な悲鳴を上げてしまった。
背後を振り返れば、腕を組んで壁に寄りかかった黒崎くんが、呆れたような顔をして私を見ている。

「お茶の準備が出来たってさ。だから、早く居間に戻ってくれ…って」
「あ、うん! ごめんなさい、華道の心得なんてないものだから、時間ばかりかかっちゃって…」

言い訳する私の手から、ひょいと重い花瓶を取り上げる黒崎くん。
そんな彼の「普通だ」という優しさが、堪らなく好きだ。

行くぞ…と、先に立って歩きかけて。
数歩進んだところでふと立ち止まった黒崎くんは、顔半分だけ私を振り返り、独り言のようにつぶやいた。

「………許すも許さないも…お前を選んだのは、俺だ。そのあたりをとやかく言うような人じゃねぇから、余計な心配はしなくていい」
「黒崎くん…」
「むしろ、喜んでるんじゃねぇかな。俺には勿体無いくらいだ…ってさ」

軽く肩を竦めながら、にっ…と笑って。
再び居間へと向かって、歩き出す黒崎くん。
堪らず後を追って後ろから抱きつけば、今度は黒崎君の口から「うぉあああっ?!」と大きな声が上がった。

「お、おま…っ、何考えてんだ?! もう少しで花瓶を落とすところだぞ!!」
「あ……ご、ごめんなさいっ…!!」

思わず半歩飛びすさり、しゅん…と肩を落としてうなだれる。
頭上から落ちてきたため息にぎゅっと目を閉じ身を縮めれば、不意に頭のてっぺんに何やら温かいものが触れた。
慌てて顔を上げれば、今度は霞めるような口づけを唇に落とされる。

ぽかん…として立ち竦む、私に向かって。
ちろり…と小さく舌を出しながら、悪戯が成功した子供のような顔をして黒崎君が微笑った。







終
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