旧サイトでの拍手御礼短文
【我愛仁】
じっとりと身体にまとわりつくような湿った空気の中、家路を辿って。
ただいま……とアパートの玄関をくぐり、後ろ手に戸を閉めたところで、一護は呆然とその場に立ち尽くした。
「おえりなさい……」
出迎えた織姫が、はにかんで微笑む。
その彼女が身につけているの、は。
薄紅色を基調とした、ふわっふわの……そう、まるで天女が着ているような衣服だった。
「………どうしたんだ、その格好は」
掠れ気味の声での問いかけに、彼女は「えっとね……?」と小首を傾げて。
「今日、七夕だったでしょ? 園でも、それ関連の行事をやってね?
由来の寸劇で、私が織女をやったんだけど……この衣装、洗濯するのに持って帰るって言ったら、同僚の先生方が『洗濯の前に旦那さんに見せてあげたら?』って………」
きっと、姫先生に惚れ直しちゃうぞ?……って。
そう、皆して言うものだから………。
真っ赤になって俯いて、袖口をもじもじといじる織姫。
次第に顔に熱が集まってくるのを自覚しながら、一護はひっそりとため息を吐いた。
焚きつける同僚の先生方も、どうかと思う……が。
それを真に受けて、実行してしまうっていうのも……正直、如何なものだろうか……と。
………だが、しかし。
「あの、一護…君………?」
ちろり……と、前髪の隙間から彼の顔を伺い見て。
………似合わない、デスか?
上目遣いに、消え入りそうな声で問いかけられたりなどすれば。
一護としては、心に白旗揚げて、ただただ苦笑するよりほかなくて。
「大層良くお似合いですよ、奥さん……?」
壊れものでも扱うように、そっと優しく織姫の身体を引き寄せる。
………すると。
腕の中、それはそれは嬉しそうに、極上の笑顔で彼女は彼を見上げた。
一護もまた、自然に口元を綻ばせて。
こつん……と、彼女の額に自分のそれをくっつけて、静かに目を閉じる。
「………ねぇ?」
「ん?」
瞼を落としたまま、織姫の声に耳を傾けると。
囁くように、彼女が言った。
「毎日一緒に居られるって……やっぱり凄く、嬉しいね………?」
「織姫………」
少し身体を離して、澄んだ薄茶の瞳をのぞき込めば。
………織姫さまと彦星さまには、申し訳ないけど…ね?
そう言って…幼子のようにぺろりと舌を出して肩を竦める織姫。
その仕草に、思わず一護は破顔して。
ホントだな……と言いながら、その腕に強く強く彼女を抱きしめる。
彼女もまた、彼の胸元に額を擦りつけては、くすくすと笑う。
「ずっと、一緒だ……」
「うん……!」
空に煌めく、夏の大三角。
その星々に誓う、永遠。
夜空にぽかり…浮かんだ月が、笑った。
寄り添う二人に、幸多かれと………。
終