log:petits fours
【honey morning】
(初出:2018.11.22 よもやま,pixiv いい夫婦の日)
髪を優しく梳かれる感覚に、ゆっくりと意識が浮上していく。
静かに瞼を持ち上げれば、ちょっぴり困ったような顔をした旦那様の顔で、視界の殆どが占められた。
「悪ぃ…起こしちまったか……?」
囁くような問いかけの声に、小さく首を横にする。
すると一護くんは、ふ…と至極微かな溜息を吐きながら、口の端をわずかに持ち上げた。
「はよ…織姫……」
大きな掌が頬を包むように置き直され、頬骨のあたりを親指でそっと撫でられる。
その優しい感覚にうっとりと目を閉じていると、一護君が軽く身を乗り出す気配がして。
直後、ふに……と。
唇に、柔らかな感触。
思わず「ぱちっ」と音がしそうな勢いで、目を開ければ。
そこにはまるで、してやったり……と言わんばかりの、悪戯っ子のような笑顔があった。
「…っ、」
何か言おうとして…でも、言葉にならなくて。
開きかけた口を閉じたところで、再び一護君の指が私の頬を撫で始める。
私を映す瞳からは、既に悪戯な光は消えて。
注がれる眼差しは、ただひたすらに穏やかだ。
カーテンの隙間から漏れる朝日に、いつもは大地の色をした力強い瞳が、今は蜂蜜色に煌めいていて。
綺麗だなぁ…と、吸い込まれるように見入っていたら、今度は背中へと移動した手に身体ごと引き寄せられ、額に、頬に、くちびるに…と順にくちづけを落とされた。
軽くリップ音を残して離れていく気配に、反射的に閉じていた目を開けば、視線を受け止めてくれるのは、一段と優しく細められた蜂蜜色。
その色のままに、私の心もまた、甘い幸福感にゆるりと溶かされ、奥底まで満たされていく。
優しい人だということは、ずっと前からわかっていた。
だけど……。
こんなにも甘く微笑うこともできるのだ…と知ったのは、割と最近のことだ。
そして。
……存外、キス魔だ…と、いうことも。
「さて……そろそろ起きねぇと、な」
「うん」
本当はもっともっとこうして、仔猫のように二人で微睡んで居たいけれど。
残念ながら、今日は平日。
私にも一護君にも、仕事がある。
「今日は目玉焼きがいいな」
「あ、昨日ハム買ってきたよ」
「やった! んじゃ、ハムエッグ!」
無邪気に笑う、その笑顔がどうしようもなく愛しくて。
なんてことない会話に、胸の奥が痛むほどの幸福を感じて。
もしこれが夢だったらどうしよう…そんな不安を打ち消したくて、ベッドから降りかけていた一護君の腕を引き、彼が振り向きざまに、掠めるようにくちづける。
一瞬、呆けたような顔をして私を見て。
次に苦笑めいた笑顔を浮かべながら、一護君はその逞しい腕の中に、私をすっぽりと囲ってくれた。
まるで、雛を護る親鳥のように……。
終