log:petits fours
【てのひら】
(初出:2017.8.20 pixiv)
そっと前髪を払ってから、額に当てられる掌。
平熱の低めな一護くんの手は、冷やりとして心地よく、私をゆるゆると眠りの淵へと誘っていく。
「軽い夏バテだろ。今日は一日、ゆっくり寝てるんだな」
「ん…」
目を閉じたまま大人しく頷けば、今度は労わるように頭髪を撫でられた。
そんな、私を思いっきり甘やかしてくれる仕草に、幼い日、お兄ちゃんと二人きりで過ごしたいくつもの夜を思いだす。
体調も影響しているのだろうか。
急激にこみ上げてきた切ない気持ちに、私は目を開けて一護くんを見上げると、抱擁を強請る子供のように腕を伸ばした。
「…甘ったれ」
苦笑気味に目を細めた一護くんが、私を潰さないように気をつけながら、覆い被さってくる。
一度ぎゅう…っと、息ができなくなるくらいに強く私を抱きしめて。
そのあと、ポンポンっと頭のてっぺんあたりを軽く叩いたあと、ゆっくり離れていく一護くんの身体。
離れ際、こめかみにひとつ、口づけを落としながら……。
「……さぁ、少し寝ろ。寝付くまで、側に居てやるから」
再び私へと、伸ばされる腕。
私に瞼を閉じさせた掌が、先刻と同じように額へと乗せられる。
「冷却シート、貼ってやろうか?」
「……一護くんの手の方が、いい」
「そうか」
ふっ…と漏れ聞こえた、笑い含みの吐息。
照れたのか、呆れたのか……。
願わくば、前者であって欲しいと切に願う。
一護くんの隣はいつも、暖かくて幸せで。
だけど……ほんのちょっとだけ、不安になるの。
「おやすみ、織姫」
お兄ちゃんのように、優しくて。
でも、お兄ちゃんの声よりもずっと甘い響きを持つ声が、眠りに落ちる寸前の私の耳に、微かに届いた。
終
(完全に寝ちまうまで、好きだ…の一言も言ってやれないあたり、俺も大概ヘタレが過ぎる……)