log:petits fours


【聖母の涙】
(初出:2013.4.28 「拍手御礼短文」内【君影草】その後)













「……へえ、『聖母の涙』なんて呼び名もあるのか」

パソコンの前で、独り呟く。





今日、井上に鈴蘭の鉢植えを届けた。

夕方逢った時に、何だか元気が無さそうで。
少しでも彼女の気が晴れるなら……と。
そう、思って。



願っていた通り、井上は嬉しそうに笑ってくれた。
………その後で泣かれてしまったのは、想定外だったけれど。



自宅に戻って、夕食と入浴を済ませて。
自室に引き上げようとしたところで、ふと思い立って親父のパソコンを借りた。

遊子が、鈴蘭は井上のイメージだと言って、その通りだな……と俺も思って。
だから、何となく。
鈴蘭について、もうちょっとだけ調べてみたくなったんだ。





「聖母、か………」


二年半前、虚圏での事が脳裏に甦る。

たとえ敵であろうとも。
救えなかった命があれば、その死を悼んで涙を流していた井上。

その姿、は。

白くて裾の長い破面服とも相まって、いつだったか写真で見たことのある、白亜の聖母像を思い起こさせた。





「やっぱ…『井上の花』、だよな………。純粋、なんて花言葉にしても、さ」

得心したように、小さくため息を吐いて。

でも……、と。
パソコンの電源を落としながら、俺は軽く唇を噛む。





「あいつはやっぱり、笑ってる方がいい」






だからこそ。

………強くなろう。
今よりも、もっと。
もっと…ずっとずっと、強く。

もう二度と、彼女が泣かなくて済むように………。







「護るよ、井上。今度こそ、きっと……」











終
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