log:未来狂詩曲



【やめられない】
(初出:2015.8.4)







友達に誘われて、花火大会に行くことになった。
母に話したら、母の若い頃のお下がりでよければ浴衣を貸そうか……と。
取り敢えず見せて…とタンスの奥から出して貰ったその浴衣は、白地に紺で花と鳥が描いてあって、大人っぽくてなかなか素敵で。
有り難く着させていただくことにした、今日がその花火大会当日だった。

両親の寝室で着付けて貰い、リビングへと降りて行くと、父が缶ビール片手に新聞を読んでいるところで。
私の姿を見留めて僅かに目を見開いたあと、「懐かしいな」と柔らかく目を細めて微笑んだ。


……ほんっと、母が絡むといつもの眉間皺と仏頂面は、あららら一体どこへ行ったやら。
無駄にダンディでイケメンな別人28号と化すんだから、嫌になる。


「可愛い娘には、何か言うことないの?」

幾分むっとして問いかければ、「…あー、良くお似合いですよ」と、まるっきり棒読みの社交辞令が返ってきた。
世間一般では父親は娘にとかく甘いとか言うけれど、父にとっては母以外の女性は例え実の娘と言えども道端の小石に等しく、ただただ面倒臭いだけの存在らしい。

……まあ、無暗やたらとベタつかれるよりは、よっぽとマシだとは思うけど。
決して無関心ってわけじゃない、親子としての愛情についてはきちんと注いで貰っていると、充分理解しているしね。

それでも……面白くないものは、どうしたって面白くないので。
あたしは父に、軽い復讐を試みることにした。



「親父さぁ」
「……何だ」
「これ着た母さんと、デートしたことあるんだよね?」
「まぁ、な」
「ふーん……んでさー、やっぱりさー、デートの締めくくりは、お代官様ごっこで決まり?」



途端に、ぶはっとビールを吹き出す父。
そして、どんがらがっしゃん…と台所の床に鍋が落ちる音。

「さくらっ! お前、ほんっといい加減にしろよ!!」

鬼の形相で父がソファから立ち上がるより先に、行ってきます…とリビングを飛び出す。


ああやっぱり、うちの親で遊ぶのはやめられないわー…と。
茜空の下、下駄をかろんころん鳴らして歩きながら、ひとりほくそ笑んだ。










終
7/10ページ
スキ