log:未来狂詩曲
【5月23日 キスの日ネタ】
(初出:2013.5.24)
「織姫……」
名を呼びながら、一護がそっと妻の細い腰を引き寄せる。
一瞬、ぴくり…と身を強張らせたものの。
次の瞬間には柔らかく微笑んで、織姫はその身をゆったりと夫に預けた。
ほのかに朱の挿す頬を、大切に大切に包み込むように手を添えて。
静かに瞼が閉じられると同時に、軽く触れるだけの口づけを贈る一護。
深く激しく、重ねるよりも。
こんな風に優しく触れられる方が、どうも織姫は嬉しく思ってくれるらしい……と。
そんな事に気付いたのは、つい最近の事。
長く一緒に過ごしてきた筈なのに、未だに新しく気付くことはあって。
『倦怠期なんて言葉、うちの辞書には不要だな……と。
心の底から湧き上がる妻への愛しさに、腕の力を僅かに強めながら。
一護もまた目を閉じて、甘い香りのする胡桃色の髪にそっと頬を押し当てた………。
「………何やってんの?」
「覗き見」
「うわぁ、悪趣味」
「あたしだって、好きでやってんじゃないわよ」
ドアの隙間から居間を覗いていた咲良は、げんなりした表情で背後に立つ兄を振り返った。
「とてもじゃないけど、こんな状況下に踏み込んでいく勇気なんて、あたしには無い」
「それには、同感」
蒼良もまた、困り果てたような顔をして肩を竦める。
「家庭内別居だの仮面夫婦なんてのよりは、全然良いけど……思春期まっただ中の子供を持つ親だって自覚も、多少は欲しいよねぇ」
「全くだわ……まぁ、親父も連勤続きで久々の休暇なんだし、仕方ないっちゃ仕方ないけどさ」
どほぉぉぉおお……っと。
それはそれは盛大な溜息を吐きながら、咲良はそっとドアから離れた。
「………どうする?」
「いい雰囲気のところ悪いけど…正直あたし今、飢え死に寸前なのよね……」
「んじゃ…そろそろ気付いて貰いますか」
「うん。その代わり部活でヘトヘトだ~っ…とか言って、さっさと風呂入って部屋に引っ込んであげなきゃ、かな」
「そうだねぇ………」
顔を見合わせ、苦笑して。
そろりそろり……と玄関まで後ずさる双子の兄妹。
靴を履き直し、静かにそっとドアを開けて。
それをわざと大きな音を立てて閉めながら、抑えていた霊圧を全開にした。
「ただいまぁっ! あー、お腹空いたぁぁぁああ~っ」
「父さん、母さん、ただいまぁ~」
二人の声が玄関ホールに響いた、その途端。
どたばたと何やら慌ただしい音が、リビングから聞こえてきた。
「お、おおおおおかえりなさい、二人とも! きょ、今日の夕飯はねぇ………」
狼狽えまくりの母の声に、再び顔を見合わせ肩を竦めて。
声を揃えて、二人は呟く。
「天然バカップルの子供でいるのも、楽じゃない!」
終
(うちの親って…色んな意味で、世界最強)