log:未来狂詩曲
【屋上封鎖の原因】
(初出:2013.5.5 「捧げもの」内【GIFT】番外)
「親父ぃいいっ、親父は居るかぁっ?!」
ばんっ!……と。
ド派手な音を立てて、リビングのドアが開いた。
驚いて、飲みかけの珈琲を気管に流し込みそうになり、一護は盛大にむせ込む。
「あ、あなた?!」
慌てて一護の背をさする、織姫。
そんな二人の腰かけているソファーにどすどすと足音を立てて近づくと、咲良はだんっ! とその右足でローテーブルを踏みつけた。
げほごほと苦しげに咳をしながら、視線を上げる一護。
その彼の顔を、眉を逆立て、怒りに頬を紅潮させた娘が、見下ろしている。
「咲…良………おま、その足! 行儀、悪…ごほっ」
「やかましいっ!! 行儀なんぞ、構ってられるか!!!」
咎める一護を、一喝して。
一層憎々しげに父親を見下ろしながら、咲良は怒鳴った。
「うちのガッコの屋上が、生徒の出入り禁止になってんのは親父達の所為だってのは、一体全体、どういう訳だ?!」
ぎくり……と。
ソファの上で身を強張らせる一護と織姫。
「……咲良、それ…一体何処で……」
「越智教頭から聞いた」
「……………まぁた、あの人は何だってそんな余計な事を……!!」
思わず顔を歪め、忌々しげに一護は舌打ちをした。
「25年前間も封鎖され続けるほど、何をやらかしたってんだ、ぁあっ?!」
「………咲良ちゃん…いくら何でも、その言葉遣いと態度は悪すぎるわ」
咲良のあまりの剣幕に言葉も出ない一護の隣で、織姫が静かに娘を窘める。
ちらり……と、その母親の顔を見やった咲良は。
小さくため息を吐くと、素直に足を降ろし、幾分感情を抑えた声で一護へ問い直した。
「……親父様が原因で、我が校の屋上が生徒出入り禁止になった旨、越智教頭から聴き及びました。
25年前、親父様と母上様はあの屋上で、一体全体どんな悪事をやらかしやがったんでありましょうや?
是非ともここは、正直に経緯をお吐きくださるよう、お願いいたしたく」
「……丁寧語で喋れば良いってもんじゃないだろうが」
髪をかき揚げつつ、一護が呆れたようにため息を吐く。
「このジェンダーフリーな時代に、女らしく…なんて事はあまり言いたくないがな、咲良」
「なら、言うな」
「……咲良!」
「親父の魂胆なんて、こちとらお見通しよ! 話を逸らそうったって、そうは行かないんだからね!!」
「何だとぅっ?!」
「………もうやめなよ、咲良ちゃん」
火花が散りそうな勢いで視線をぶつけ合い、睨み合う二人の間に。
咲良に遅れてリビングに入ってきて、我関せずと言った様子で冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲んでいた蒼良が、のほほんと割って入った。
「何でよ?! 兄貴は気にならないの?!」
「そりゃ、気にはなるけど……」
水を満たした硝子のコップを、咲良に差し出して。
妹がそれを受け取り、ぐいーっと一息に飲み干すのを見届けてから、蒼良は両親の顔をゆっくりと交互に眺めて、軽く肩を竦めた。
「母さんが絡むと、良くも悪くも父さんの行動に見境が無くなるのは、いつもの事だもの。
詳細を訊くのは、野暮ってものでしょ」
「……野暮?」
「そ。恐らく最終的に強烈な惚気話に帰結する事は間違いないと思うよ。
そんなの聞かされたら、正直こっちの身が保たないんしゃないかな」
「そ、蒼良くんたら……っ」
真っ赤になって狼狽える織姫と、同じく顔に朱をのぼらせて子供達から視線を逸らせた一護の顔を、咲良もまた交互に見つめて。
やがてそのこめかみに、びきっと青筋が浮かび上がった。
「………要するに、親父が母さんに、その昔ガッコの屋上で、不埒な真似を働いたってことか?! 仮にも学び舎で、いたいけな女子高生相手に何やってんだ、この、エロ医者がぁっ!!!」
「ばっ! 莫迦かお前は?!
俺だってそん時は高校生だぞ、変態呼ばわりするんじゃない! そもそも当時、そこまでの事をやっちゃあいねぇよ!!!」
「い、いいいいいいいい一護くんっ?!」
「そこまでの事……て、んじゃ何処までのコトをやったってんだ、あんたらはっ!!!」
「だーかーらっ、そもそもそういう話じゃないんだって!!!」
「じゃ、どんな話なんだっての! さぁ、吐け! 今すぐ全てを、正直に吐けーーーーっ!!!」
お互いに胸倉を掴みあって怒鳴り合う父娘と、おろおろと立ち竦む母親を眺めて、蒼良は独りため息を吐く。
その彼に、背後から躊躇いがちな緋燕の声が届いた。
「………ただいま。一体、何の騒ぎ?」
「おかえり、ひぃ兄」
まるで従兄弟のように育った幼馴染を振り返って。
何でもないよ……と、蒼良はにっこりと微笑んだ。
「父さんと咲良の、いつものスキンシップ兼コミュニケーションだから」
「………相変わらず、容赦のない親子のふれ合いだね」
苦笑を交わし、肩を竦めう二人の少年。
草の香を運んできた風が、リビングのカーテンを優しく揺らしていた。
そんな五月の、とある昼下がりの出来事………。
この日から一月も経たずに新たな戦いに巻き込まれていく事を、彼らは未だ知らない。
終