log:バレンタインデー/ホワイトデー



【薔薇を一輪】
初出:2022.02.15






父さんは毎年、バレンタインデーには母さんに真紅の薔薇を一輪だけ贈る。
贈る理由は、「海外ではそういう日」だからで、一輪だけの理由は、母さんに対する気遣いなのだそう。

「だって、ここは日本だもの」

母さんはそう言って、少し困ったように笑った。
父さんは、拗ねたような表情でそっぽを向く。

「クリスマスに愛妻の日、バレンタインにホワイトデー…って、四ヶ月も連続でプレゼント貰い続けなのは、流石に気が引けるのよ。
せめてバレンタインデーくらいは、こちらに主導権を渡して貰わないと」
「製菓会社の陰謀に躍らされるこたぁねぇんだよ!」
「それを言ったら、ホワイトデーの方がよっぽどでしょう?
踊らされてるのは、どちら様?」

むう……と、父さんの眉間に深い縦皺が刻まれた。
母さんはくすくす笑いながら、父さんの前にチョコレートケーキの乗った皿と、コーヒーとを置く。

「はい、どうぞ」
「……いただきます」

仏頂面のままで、しかしながら手も口も休めず、父さんが黙々とケーキを平らげていく。
その隣に腰掛けた母さんは、まるで夢見る少女のような表情で、父さんの横顔を見つめていた。

「——ったく、砂ぁ吐きそうだぜ」

カウンターに腰掛けたコンちゃんが、ぶらぶらと足を揺らしつつ、ゲンナリとした口調で呟く。
本当だねぇ…と苦笑混じりに応えながら、僕は軽く肩をすくめた。










おしまい
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