一織ワンドロライ



5月6日のお題【好きな一織】





女の子が涙を流す姿を、間近にして。
綺麗だな…などと感じたのは、恐らくあの時が生まれて初めてだったと思う。
ましてや相手は、俺が命あることを言祝いで泣いているのだ。
そのことに仰天しながらも、とても素直な気持ちで「嬉しい」と感じたことを覚えている。

相手は、全くの赤の他人。
それも、ほんの数ヶ月前に、存在を認識したばかりの…だ。

………だけど。

だからこそ、その流す涙を。
そこに込められた、気持ちを。
嘘偽りの無い真実として、すんなりと受け止められたのかもしれない。

親父や妹達の俺への想いは、間違いなく本物だ……そう、頭では理解と判断をしつつも。
あの日に命を落としたのは、どうしてお袋の方でなければならなかったのか……そんな仄暗い気持ちを、多かれ少なかれ、家族は俺に対して抱いているのではないだろうか……と。
そんな懐疑を、俺はどうしても消せずにいたから。


生きていて、いいんだ。
幸せになって、いいんだ。


そんな心の奥底からの確信と安堵をくれたのは、あの日の井上。
その頬を伝って、綺麗な雫がこぼれ落ちた瞬間…俺は、もう一度生まれ直したんだ。


なぁ、井上。
お前は、ルキアが俺の世界を「変えた」と言う。
でも、それを言うならば。
お前は俺に、「世界」そのものをくれたんだ。
俺が「俺」を生きていい世界を。
後ろめたさを感じることなく、呼吸のできる場所を。





「……ありがとう…井上……」





あの日、俺の傍に居てくれた君に。
何かを護って死ぬのではなく、護るために生きてゆく人生をくれた、君に。
心からの感謝を……。









そして、もうひとつ。
泣いて震えていた、華奢な肩…それを腕の中にそっと引き寄せて、ただ静かに寄り添っていたい……そんな気持ちを井上に対して覚えたのも、あの日、あの瞬間だった。
但し俺が、その想いを何と呼び表せば良いのかを知るのは、そこから大分、先の話になるのだけれど……。







終

Twitterに掲載した際には、時間不足で納得の行く出来では無い箇所が複数ありまして、こちらへの掲載にあたって、かなりの加筆修正を行っております。
ご了承ください。
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