一織ワンドロライ
5月3日のお題【おそろいorペアルック】
「そう言えば…2人でお揃いのものを身につけるのって、これが初めてだね」
眼前に手をかざし、細い薬指に嵌められた銀の指輪を見つめながら、織姫がぽつりと呟く。
言われてみれば、確かにそうだな…と頷いて。
例えば、服や時計など、これまでにも揃いで身につけたいと思ったことがあったか?と問いかけてみた。
俺自身は某テーマパークで帽子から靴まで同一のものを身につけたカップルなどを眺めていても、特段、羨ましいなどと思わぬ人間だから良いけれど、もし織姫にそういった願望が多少なりともあったのだとしたら、気づいてやれなかったことを申し訳なく思ったからだ。
……といっても。
恋人として付き合ってから結婚式までの期間がかなり短かったから、式の打ち合わせ以外のデートなんて、殆どしたこともなかったのだが。
織姫は少しの間思案するそぶりを見せた後、微笑みを浮かべながらゆっくりと首を横に振った。
「くろさ…じゃなかった、一護くんと私とじゃ、好みの方向性も似合う色合いなんかも、だいぶ違うでしょ。そういうの諸々曲げてまで、同じものを身につけたいとは思わないかなぁ。
それに…なんか照れ臭いって気持ちの方が先に立っちゃうし……。
あ、でもね!
共通のモチーフなんかがさりげなくあしらってあるようなのは、結構好きかな。他人にはちょっとやそっとじゃ気づかれないくらいの…でも、お互いだけはわかってるのって、なんとなく素敵じゃない?
……ほら、以前お義父さまからお借りした簪と、一護くんのショールの柄の組み合わせみたいな!」
ふふ…と笑いながら、肩口に額を擦り寄せてくる織姫。
その胡桃色の髪を、同じく銀色の指輪の嵌った指で梳きながら、この上もない幸福感に満たされて微睡んだ……あの、記念すべき夜から、かれこれ3年。
今、俺の目の前には、ショーケースに飾られている3体のマネキンが立っている。
親子を模したそれらが身につけている衣服はそれぞれ、形状やメインの色使いこそ違えども、部分的にあしらわれた布テープの模様は共通。そして子供用の前身頃に大きく描かれた紋章のような模様は、それぞれ大人ものの胸ポケットや袖に、ごく小さなワッペンとして縫い付けられていた。
本来はふんわりとしたロングスカートやブラウスを好む織姫も、出産後…特に、一勇が歩くようになってからは、身動きし易いから…と、ニットのトップスにデニムのパンツという組み合わせで服を着ることが多くなった。そして目の前の女性のマネキンが着ているシャツは、織姫が痩せて見えるのだと話していたデザインそのものである。
さらに付け加えれば、男性もののデザインは俺の好みのど真ん中だったし、子供服に使われているメインの色は、織姫が一勇に良く似合うと言って、好んで着せているものだった。
「……これは、買い…………かな?」
口の中で、呟いて。
一つ呼吸をしたのち、店の扉に片手をかける。
まだ二十代半ばの安月給の身には少しばかり懐に痛い買い物なのだが、織姫と一勇の笑顔という誘惑には、どうしたって勝てやしない。
もう一度、深呼吸をして。
扉を押す手に、ぐっ…と力を込めた。
終
格納にあたり、若干の修正を行っております。