一織ワンドロライ



5月2日のお題【クラスマッチor部活】








高3になって、初めての球技大会。
バスケで参加中の俺のクラスチームは、昨日の予選リーグと今日の決勝トーナメント戦とを順当に勝ち進み、現在、優勝決定戦の真っ最中だ。
対戦相手は、なんの因果か井上のクラス。
当然ながら、彼女が応援するのは自分のクラスのチームであり、頑張って!…という言葉を添えながら彼女が口にする名の中に、俺の名が混じることは無い。

去年、一昨年…と同じクラスだった時には、あの鈴の音のような声に名を呼ばれるとそれだけで、疲れが吹き飛び、勝負を焦る心が落ち着いたものだ。
井上の声援のない状態で臨むことが、こんなにも心許なさを産み、一抹どころで無い寂しさを感じさせようとは、正直、今日の今日までチラとも思い寄らなかったことだ。

「………くそっ…」

チーム力はほぼ互角で、点差のない状況が続いたこと、加えて、井上の声援にヤニ下がる相手チームの男子の表情が嫌が応にも目に入ることで、苛立ちは限界値一歩手前、疲労もピークに達したところで、俺は相手チームのファウルによるフリースローの機会に恵まれた。

試合時間は残り1分を切り、点差は1点。
俺のゴールが決まれば逆転優勝という状況に、体育館の中は静まり返っている。お陰で、無駄に緊張感が高まる俺の胸の内。

位置に着き、ボールを幾度か床に弾ませながら、呼吸と気持ちとを落ち着けようとして。その最中、さり気なさを装いつつ視線を井上の方へと向ければ、それに気づいた井上の口が、微かに開いた。

………頑張って!

井上の唇が確かにその五つの音の形に動いたのを目にして、とくり…とひとつ高鳴ったのち、すっと静まっていく鼓動。
ゴールに向き合い、狙いを定めてボールを放れば、それは綺麗な放物線を描いてゴールネットへと吸い込まれていった。
湧き上がる歓声、そして試合終了の笛の音。
集まってきたチームメイトが俺を揉みくちゃにしながら、これで担任にアイスを奢って貰えると笑う。

ちらりと横目に相手コートを見れば、井上を含む相手クラスの女子が、バスケチームの男子を労いながら教室へと引き上げていくところだった。
遠去かる胡桃色の頭髪を見送りながら、アイスは井上に渡そうと、心密かに決意する。
幸い、弁当を入れてきたランチバッグは、保冷性のあるやつだ。
アイスを受け取ったらすぐにバッグに仕舞って、ショートホームルームが終わり次第、手芸部の部室に差し入れだと言って届けに行こう。
願わくば、担任の用意したアイスの中に、井上の好きな苺味のものがありますように……。







終

こちらへの格納にあたり、若干の加筆修正を行っております。
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