一織ワンドロライ

ここからは、2019年の5月1日~6日にかけて、まひょ様(一織アンソロジーの執筆者のお一人でいらっしゃいます)主催で行われた際の参加作となります。










5月1日のお題【着物or浴衣】








職場で最も親しくしている先輩と定休日に出かけたデパートの催事場で、とある呉服屋さんの展示即売会が開かれていた。
布用の印刷機を用いたオリジナルプリントの製品が売りだそうで、古典柄を転写したものから、有名な西洋絵画や浮世絵をモチーフにした斬新なデザインのものまで、多種多彩な製品が並んでいる。
丁度浴衣を新調したかったのだ…と浮き立つような足取りで会場を回る先輩。その後ろをぷらぷらと付いて回っていた私が思わず足を止めてしまったのは、美しい星空をそのまま生地に写し取ったような浴衣を着ているマネキンの前だった。
定番の花柄のような華やかさはないけれど、生地全体に散らされた星々と、裾の街並みに向かってほんのりグラデーションになっている空の色に、なんとも言えず心惹かれるものがある。
さらりとした薄手の生地は、速乾性で冷涼感のある新素材なのだ…そんな製品紹介を聞くとも無しに聞いていた私が、まるでばね仕掛けの人形のような勢いで店員さんの顔を振り返ってしまったのは、希望する日時の星空を再現できると説明されたから。

「ご購入くださった方からは、お誕生日や、ご家族共通の記念日などでご依頼頂くことが多いですね」

続く説明の言葉を半ば上の空で聞き流す私の頭の中で、とある日付と、貯金の残高、来月末に貰えるはずのボーナスの予想額などがぐるぐると渦を巻き始める。
軽い目眩と嘔吐感すら覚えるほど悩み抜いた結果、私は店員さんに購入の意思を伝えた。
では、こちらに…と奥に案内されて採寸をしてもらい、注文書に必要事項を書き込んでいく。

「はい、ご記入ありがとうございます! ええと…プリントする夜空の日付は、◯◯年の7月15日でよろしいですね?」

確認を求める店員さんの言葉、に。
一瞬の躊躇の後、こくり…と小さく首を縦に振った。





終

作中の浴衣は、ゴフクヤサンドットコム様の実在の商品です。
いつか買いたい…
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