旧サイトでの拍手御礼短文



※「蜘蛛の糸」「フライング」の二人の、クリスマスイブ当日
(一護は死神の力を失わなかったことになっています)







【ぽかぽか、ふわふわ】





今年のクリスマスは、井上と付き合い始めてから、初めてのクリスマス。
だから……彼氏である俺としては、やっぱりイブは彼女と過ごしたいし。
出来ればそれは、二人きりがいいな………って思っていたから。
家族パーティーをどうやって逃れようか……と。
ここ数日、無い知恵を一生懸命振り絞っていたのだけれど。

いくつか考えていた言い訳は、全部無駄になった。
………と、言うのも。

いったい全体、どんなルートで知れたのかわからないのだが。
よりにもよってイブ2日前には、親父にバレ、自動的に妹達の耳にまで入っていたのである。

三人は俺には何も言わずに井上のバイト先に押し掛け、家族パーティーに誘ってしまい………。
井上もそれを、承諾した。

………まぁ、あの三人にあの勢いで押し掛けられたら、断るのはまず無理だったろう。
しかもバイト先で勤務中ともなれば、他の店員さんや客の目もあっただろうし………。

とりあえず、二人きりではないにしろ、イブに一緒に過ごせるのには違いないのだし。
家族団欒と無縁で生きてきた井上にとっても、良い事かもしれない………とも思い直して、当日を迎えた。



夕方、約束の時間になって。
井上は自分の身体の倍ほどの幅もある大きな包みを抱え、肩からぱんぱんに膨れたトートバックを下げてやってきた。

乾杯をし、みんなで大騒ぎしながらケーキと料理をたらふく平らげて。
親父が押し入れ奥から引っ張りだしてきた人生ゲームで、異様なほどに盛り上がって。

最後のプレゼント交換。
井上は抱えてきた包みとバッグの中から、俺たち家族全員分のプレゼントを取りだして渡してくれた。


親父には、医院の椅子用のミニクッション。
遊子には、苺模様のエプロン。
夏梨には、サッカーボールのアップリケの付いた、シューズケース。

そして。

一番大きな包みから出てきた、俺へのプレゼントは。
黒に近い濃い灰色無地の生地で作られた……どてら、だった。
しかも……背中には黒無地の生地を使って、代行証のドクロマークが縫いつけられている。

何故にどてら……と思いつつ、家族に囃されるままに羽織ってみれば。
「う…わ、あったけぇ………」
はっきり言って、これ着てたら暖房なんて要らねぇ感じで。

ありがとう……と礼を言えば。
井上はそれはそれは嬉しそうに、にっこりと笑ってくれたのだった。



その後。
もう大分遅い時間だから……と、井上のマンションまで彼女を送ることになって。
暗い夜道、未だ何処か気恥ずかしく慣れないながらも、手を繋いでゆっくりと歩く。

途中、人通りの少ない道の端、電柱の影に隠れるようにして、初めて彼女に口付けた。
先日、クラスの奴らとのパーティーの時、先手越されて頬にされちまって。
嬉しかったけど、悔しくて………。

だから。

ちゃんとしたの、は。
絶対に絶対に俺から………って、決めてたんだ。

影から出て、街灯の淡い光の下で顔を見合わせれば、お互い茹で蛸のように真っ赤になっているのがバレバレで。
そこからはもう、お互い照れて何にも言えなくなって。

そのまま、井上のマンション下まで来てしまった。
………はいはい…どうせヘタレですよ、俺は。


翌日のクリスマスは、今度こそ二人でデートすることになっていたから。
「また、明日な」と、手を振って。
自宅へ向けて、踵を返そうとした……その時。
井上が、俺のコートの袖を引いた。

どうしたのかと問う俺の目の前で、彼女は鞄を探って。
中から白い封筒を取り出し、俺の胸元に押しつけた。

「家に帰ってから、開けてね?」

俺が封筒を手に取るなり、そう言い残して、エレベータホールに駆け込む井上。

おやすみなさい………と彼女が手を振り、エレベータの扉が閉まるのを見届けて。
冴え冴えとした冬の夜空の下、俺は小走りで家路についた。



帰宅後。
井上に貰ったどてらを来て、ベッドに仰向けに寝ころんで。
封筒を、開く。

綺麗なクリスマスカードと一緒に、封筒の中から出てきたのは。
細長く切り取られた、画用紙。
ペンや色鉛筆で可愛らしく飾られたその紙切れの真ん中、書かれた文字を追う。

「お泊まりけ………………え?! えええええっ?!」

思わず、飛び起きた。
何度読み直しても、そこにあるのは「お泊まり」の文字。

身体がやたらぽかぽかして、心臓がどくどく騒いで。
まるで、風呂で上せたような状態に陥っている、のは。
絶対に、絶対に、どてらの保温力のせいだけじゃない。

「う、わー…………」

ぼふ………っと。
今度はうつ伏せに、ベッドの上に倒れ込む。

「女って……案外、大胆なんだなー………」

だって……俺たち未だ、今日初めてキスしたばっかりで。
お泊まりなんて…お泊まりなんて………俺には、ハードル高すぎだって
!!!

あ………いやだけど、あの天然娘の考える事だ。
本当に単純に、泊まるだけ………ってオチは、十分あり得る。

あり得る、けど………。





暖かい、どてら。
ぽかぽか、ぽかぽか……心まで、ほんわかと温まるような。

井上、そのもののような………。



もしも井上を、抱きしめて眠れたなら。
布団の中は、どんだけ暖かくなるのかな………。

どんだけ幸せだって……俺は感じられるんかな………。





うとうと……と、襲ってくる睡魔。
慌てて目を擦り、起きあがって。
とりあえず、「お泊まり券」を財布にしまう。

「まぁ……いつかは、な」

何気なく、呟いて。
その呟きの意味に、自分自身でぎょっとして、赤面して。

どてらを椅子の背にかけて、慌てて布団に潜り込む。





とりあえず。
明日は、デート。
井上と、デート。


もしも、叶うなら。
明日も、キスくらいは…したい。出来れば。



触れたい、よ。
あの、マシュマロみたいな…柔らかい唇に………。






「おやすみ、井上………」










夢の中。
パステルカラーの、雪が降る。

ふわふわの……それは、マシュマロで出来た雪。


そのマシュマロ雪原の、ど真ん中。
これ以上ないってくらい、幸せそうな笑顔で。



サンタドレスを着た井上が、俺に向かって手を振った………。









終
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