BLUE BLUE BLUE
新学期………。
いつものとおり、水色と一緒に登校して。
靴を脱いでいるときに、良く知るソプラノの声が耳に届いた。
屈みこんで靴を取り上げ、立ち上がったところで、昇降口に飛び込んできた胡桃色の頭髪。
仲の良い女友達と数人と、楽しそうにおしゃべりをして、笑って。
その薄茶の瞳が、俺を捕らえて僅かに円くなる。
「おはよう、黒崎君!」
元気に弾む、声。
「はよ、井上」
俺もまた、笑って挨拶を返しながら。
何故か感じる、強烈な違和感………。
「あれ? 井上さん、髪型変えたんだね」
隣から、水色の声が上がって。
ようやく違和感の正体に気づく。
そうか、髪型が………て。
おい、ちょっと待て?!
「井上っ!!!」
彼女の肩を掴み、ぐい……と身体をこちらに向けさせる。
薄茶の瞳が、まん丸に見開かれて………。
「く、くろさきっ、くん?!」
「お前、ヘアピンはどうしたっ?!」
噛みつかんばかりの勢いで、そう問いつめた俺に向かって。
最初、ぽかんとして俺を見上げていた彼女が、ふわり……と鮮やかに微笑んだ。
そして、前に流していた髪を一房、持ち上げる。
そこには。
胸ポケットに並べて刺された、六花があった。
脱力し、思わず大きく安堵の息を吐く。
そんな俺を見上げて、くすり……と。
彼女は可笑しそうに、小さく笑った。
それから、小首を傾げて。
「………どう、かな?」
「え?……あ、ああ!」
顔に熱が集まってくるのを感じながら。
「に……似合ってんじゃ、ね?」
どうにかこうにか、それだけを伝えて。
すると彼女は、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
「良かった!」
じゃ、ね?………と。
踵を返した彼女の背に向かって、小さな声で呟く。
「……………俺の、所為か?」
「え?」
きょとんとして俺を振り向いた彼女に、なんでもねぇよ……と、返して。
「じゃ、な」
軽く、手を挙げる。
笑顔で手を振りながら、くるりと俺に背を向けて。
自分の教室へと向かう、彼女の背中、を。
廊下の曲がり角、胡桃色の頭髪が翻って……そして壁の向こうに消えるまで。
俺は黙って、見送っていた。
踵を返し、俺もまた自分のHRへと向かう。
教室に入り、クラスメイトと挨拶を交わしながら、窓際の席まで進んで。
机に鞄を、放る。
ふと、外に目を向けて。
窓枠に手をかけ、空を見上げる。
見事な、晴天。
だけど………。
井上と、アイスを食べた日のような。
二人で蝶を放した日のような。
目に染み入るような鮮やかさは、なかった。
そこに、あったのは。
どこまでも、どこまでも、高く澄んだ………秋空。
未だ…残暑の厳しい日は続きそうだけど。
季節は確実に巡りつづけているのだと言うことを、俺は悟らざるを得なかった。
過ぎてゆく。
過ぎ去って、ゆく。
力を取り戻す方法を、何一つ見つけられないままに………。
そして
17歳の、夏が終わる
17歳の、夏が終わる
終