終わりに見る景色に、は
俺の背、に。
彼女を護る為の翼は、もう無い……。
二月下旬、黄昏時。
気だるく自室のベッドに寝転んでいる俺の耳に、インタフォンを連打する音が届いた。
一体、誰だ?……と、無意識に玄関付近の霊圧を探ろうとして。
はた……と、思い出す。
俺にはもう、そんな能力は無いのだ……と
「……そろそろ三ヶ月経つのに…情けねぇな…」
自嘲気味に口の端をつり上げたのと同時に、階下で玄関の戸が開く音がして。
「…ちょっと、お邪魔するね」
「え? ちょ、ちょっと、たつきちゃんっ?!」
戸惑う遊子の声を打ち消すように、階段を駆け上がる足音が響いたかと思ったら。
俺の部屋のドアが、大きな音を立てて開かれた。
「……ノックぐらいしろよ」
そう俺が言い切らないうちに、部屋に飛び込んできた竜貴に、力一杯横っ面を張り飛ばされる。
たまらず吹っ飛び、床に転がった。
「………痛ってぇ…」
呻きながらゆっくりと身を起こし、視線を上へと向ければ。
目尻をつり上げ、眉を逆立てた黒髪の幼馴染みが、肩で息をしながら俺を睨みつけていて。
「あんた、よくも……よくも織姫を泣かせたわね?!」
怒りに震える声が、竜貴の口から押し出される。
「……井上は、何て?」
緩慢な動作で立ち上がりながらの、俺の問いかけに。
しかしながら竜貴は、盛大な溜息をつきつつ首を横に振った。
「何も」
「何、も……?」
「そう。織姫は何も言っていない。あんたが何をしたのかも…そもそもあんたが原因だって事すら、言ってない」
「……それならどうして、俺の所に来た?」
「だって…あの子があんな風にぐちゃぐちゃに泣きじゃくるなんて事は、滅多に無いんだ!
その滅多な事が起こり得るとしたら、その元凶はあんた以外に考えられないでしょうよっ?!」
「……なるほど、ね」
「ねぇ、一護……あんた一体、あの子に何をしたの? 一体全体、何を言ったの?!」
俺に詰め寄り、俺の胸ぐらを掴みながら、怒りに燃える瞳で問いつめてくる竜貴。
そう……彼女には、そうするだけの権利がある。
そして俺には、それに答える義務がある。
ずっと、ずっと……。
彼女の隣から井上を奪ってきたのは、他ならぬ俺自身なのだから。
「……もう俺には関わるな、と言ったんだ。俺からも…もう二度と関わろうとはしねぇから……って」
息苦しさを堪えて、声を絞り出す。
すると、霞む視界の向こうで、竜貴が大きくその目を見開いた。
「何、で……どう言う事よ、それって?!」
「言ったままの意味だ。
俺はもう、あいつに関わらない方がいい。
それが、井上の為なんだって……やっと、その事に気づけたから」
「一護……!」
胸元を締め上げていた竜貴の手が、次第に緩んで。
ゆっくりと、俺から離れていく。
急に楽になった呼吸に、反動で激しくせき込んで。
そんな俺を呆然として見つめている竜貴に向かって、薄く笑ってみせた。
「今更、だろ? 俺も…自分で自分に、呆れ果ててる」
「………一体、何があったの…?」
竜貴の問いに対し、俺は再びベッドの縁に腰掛けながら、努めて声に感情を乗せないようにして答えた。
「……怪我、させた」
「え?」
「俺の所為で集中が途切れて…三天結盾を破られて……。
幸い掠り傷程度だったんで、直ぐに治せたみてぇだけど……さ」
一度顔を上げ、複雑な表情を浮かべたまま黙り込む竜貴を振り返って。
それから再び視線を下に落としながら、ぽつり…呟く。
「俺……病院跡に行ったんだ」
「な…っ、?!」
ぎょっ…としたように、竜貴が大きく目をみはった。
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