GIFT



おかえりなさい………と。
窓辺まで迎え出た織姫に挨拶すら返さず、一護は己が腕を彼女の細い身体に回して、強く強く抱きしめた。

「く、くろさ……?」

身体を強ばらせた織姫が、戸惑いの声を上げる。
その耳に、低く掠れた一護の声が届いた。

「……悪ぃ…少し、このままで………ホントに、少しの間でいいから……」
「くろさき…く………」

織姫の身体から、少しずつ強ばりが解けていく。
小さな手がそっと背に回されたのを感じると、一護はより一層腕の力を強めて、胡桃色の髪に顔を埋めた。


「…………逝ったのね?」


織姫からの問いかけに、黙って肯く一護。
すると彼女の掌が、ぽんぽんっ……と優しく彼の背を叩いた。
優しく、そっと……まるで、泣く幼子を慰める母親のように………。





「………お疲れ様でした」





織姫はそれ以上、何も言わず……そして何も訊かなかった。
一護もまた、一言も言葉を発しなかった。

それで良いのだ……と、思った。



『………きっと井上は、全部解ってる』



篤志が一護を呼び出した理由も。
篤志が一護に託そうとした、伝言の内容も。
その内容の殆どが、彼女の為に吐かれた嘘であることも。
そして…嘘の裏側に篤志が隠した、彼の真実の想いさえも………。










『…………あったけぇ…』

織姫の身体から伝わる彼女の体温に、泣きたくなるほどの安堵を覚えて。
全身で鼓動や脈動を感じ取っては、彼女への愛しさを募らせる。

二人共に、此処に在ること。
生きて、呼吸をしていること。


……其れがただ、嬉しかった。















「ごめん、井上……身体、冷えちまってねぇか?」

織姫の体温が、心地良くて。
いつまででも抱きしめて、それを感じていたい一護だったが、霊体の一護は体温を持たない。

暑い夏ならともかく、今は冬。
熱を奪われるばかりでは、織姫の身体にとっては悪影響だろう……そう考えて。
名残惜しさを盛大に感じつつも、一護はゆっくりと織姫から身体を離した。

全然、平気だよ………と。
ふわり…織姫が浮かべた微笑みが、あんまり可愛らしくて。
やっぱり、あともうちょっとだけ……なんて言い出したくなるのを必死に堪えながら立ち上がると、ベッドに凭れて眠っているかのような自分の身体へと戻る。

目を、開けて。
霊体と身体の連携を確かめるように、掌を開閉させていていると。

「ああっ! そう言えば!!」

カーテンを閉めていた織姫が、酷く焦ったような声を上げて、一護を振り返った。

「少し前に、遊子ちゃんから電話があったの! 一応、簡単に事情は説明しておいたのだけど……」
「え?! あ、そうか!! 今、何時だ……って、ええええっ?! うっわ、やっべぇ!!!」

慌てて立ち上がると、コートを手に取り、織姫を振り返る。

「井上、すぐに出掛ける準備出来るか?」
「あ…うん、私もあとはコート着るだけにしてあるから………」
「じゃ、悪いけど急いで出よう! このままじゃ、あいつらにどんだけ叱られるかわかりゃしねぇ!!」
「は、はいっ!」

わたわたと、織姫もコートの袖に腕を通す。


……全くもって、当然の事ながら。
町中に知れ渡った二人の噂は、一護の家族の耳にもしっかり入っていて。
必ず織姫を伴った上で時間厳守で帰宅し、二人仲良く黒崎家のクリスマスパーティーに参加せよ……と。
父と妹たちから厳命されていた、一護なのだった。



ばたばたと二人一緒に転げるように玄関を出て、鍵をかけて。
通路を走り、エレベータに乗り込んで、マンションのエントランスに降り立つ。

窓から顔を出した管理人に、会釈をして。
外の通りに出たところで、強めに吹き付けてきた風に、織姫がバランスを崩してよろめいた。

「わっ……ぷぷ!」
「大丈夫か、井上っ?!」
「か、髪が……口に………」

顔にかかった髪を、掻き上げて。
ふう…と息を吐きながら目を開けた……その次の瞬間。
織姫は、その薄茶の瞳を大きく見張って、空を見上げた。

「雪……?!」
「………いや、風花だ。多分、今の風に乗ってきたんだろう」

ちらちら……と。
街灯の光を反射させながら、小さな冬の化身達が宙を舞う。
その背後の夜空に雲は見あたらず、星がただ静かに瞬いてた。



「ねぇ、黒崎君……」
「ん?」
「雪……篤志君からの贈り物かもしれない…って言ったら…嘲笑う………?」
「井上……?!」
「話したこと、あるの。ホワイトクリスマス……夢なんだって。
東京は暖かくて、まず無理でしょう?
それに、本当に降ったら、電車止まったりして困る人も大勢居るし。
だから、ちょっとだけ…ほんのちょっとだけ、ちらっと降ってくれたらいいのにな……って、そう…」
「いのうえ……」


織姫の肩に、手を回して。
そっと自分の方へと引き寄せながら、一護はゆっくりと肯いた。









「………きっと、お前の言う通りだよ…」



















We wish you a Merry Christmas,
We wish you a Merry Christmas,
We wish you a Merry Christmas,
And a Happy New Year






何処かの家の窓辺から漏れた澄んだ歌声が、佇む二人を優しく包んでいた……。





終
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