銀河ステーション



「…………寒っ」

すっかり夜の闇に沈んだ、店の外。
優しい灯の点る、住宅街。

昼間とはうって変わった冷んやりとした空気に、来るときには暑くて腕に掛けてきた筈の上着を、慌てて羽織る。

時計を見れば、もう少しで22時を回ろうかと言うところ。

「約、10時間強か……あっちから申し出てくれた事とは言え、随分と長居しちゃったなぁ………」



店の正規の閉店時間は、18時という事だった。

しかしながら、いつまで経っても話題の尽きそうにない私達の様子に、カレーとサラダ程度で良ければ、実費で夕飯も出そうか……と。
店主が、申し出てくれて。

一も二も無くその提案に飛びついた私達、は。
せめて何か手伝いを………と。
おしゃべりを続けながら野菜の皮剥きを手伝ったり、サラダ用のレタスを千切ったりして。

その最中、店内を飾る天体写真は店主のご主人の撮影したものだという事がわかり。

屋根裏部屋には、極小さいけれども私設観測ドームまであるのだと聞かされた、男子の目の色が変わり。

そこへ丁度、外出していたご主人が帰宅して。
そのまま話の流れで、食後に店内の片づけを手伝った後、屋根裏部屋にお邪魔して、急遽月面観測会の開催と相成ったのだった。



「いくらなんでも、厚意に甘え過ぎたかなぁ………」

織姫言うところの『檸檬の月』と星を見上げながら、独りごちた時。
背後でドアが開き、会計を済ませるために残っていた鈴が姿を現した。

「お疲れ様。今日は本当にありがとうね」
「いえいえ、行き届かない事ばかりで……ごめんね?」
「そんな事無いよ。私は凄く楽しかったし…多分、皆もそうだと思うよ?」

門の外、時間が時間だから多少声のトーンは落としつつも、未だ談笑を続ける仲間達に視線を向ける。

「うん……確かに、楽しかったわ。色々愚痴とかも聞かせちゃって、悪かったけど」
「それは、お互い様。
皆それぞれ悩み事とか弱音口にしてたし、私自身、随分と毒吐いて憂さ晴らしさせてもらったよ?
そういう時間も、時には必要なんじゃないかな。どうせ私ら、今更恰好付けたり取り繕ったりって間柄じゃないんだし……さ。
溜まってるもの吐き出して、すっきりして。
結果、明日からまた、皆それぞれ前向きになって頑張れるなら……それで良いじゃない」
「そっか…うん、そうだね………。それにしても、さ」

くすり……と、小さく鈴が笑う。

「黒崎君と織姫には、ちょっと気の毒だったかなぁ……見事なまでにスケープゴート」
「まぁね。でも半分は自業自得……って言うか。天然程始末が悪いものは無いって、私、今日改めて思い知ったわ」
「あはは、違いない!
でも………あの二人を見てると、それだけで何だか気持ちが落ち着くわ。
今日がどんな一日でも、その向こう側には絶対に、新しい朝が待ってる………って。
そんな気に、させられちゃうのよね」

我ながら、クッサイ事言ったわぁ………と。
苦笑いする鈴の肩を、自分も同じだと打ち明けつつ叩く。

「また、さ……機会作って、こうやって皆で集まろうよ」
「うん……あ、店長さんが、またいつでも声かけてくれ………ってさ」
「ええっ?! それは社交辞令ってもんじゃないの? こんな騒がしくて長々居座った客に………」
「んー……そんな感じはしなかったよ?
私らがお酒飲めるようになるまでに、美味しいビールの注ぎ方と、女性に人気のあるカクテルの作り方くらい、旦那さんに勉強させとくからって……さ」
「へぇっ?!」

目を丸くする私に、にっ……と笑って。
それから門の外へと目を向けた鈴は、みちるにお釣りが出来たと声をかけながら、私の側を離れていった。

私も一歩、踏み出しかけて。
ふと、背後のドアを…そこに掛けられた店名プレートを振り返る。



“銀河ステーション”



………例えば、人生を「旅」に例える事があるけれど。
それに倣って言うなら……さしずめ私達は、「空座一高」と言う名の列車に乗り合わせ、三年の間、共に旅をしてきたと乗客というところだろうか。

そして、今。
それぞれの夢を目指して、皆、別々の列車に乗り替え、旅を続けている。



銀河を掛け巡る、スターダストトレイン。
それぞれが、それぞれの軌道をひた走る。

それは自由で楽しくも……時に辛く、孤独な旅路。


だけど………。





何処まで行っても。
何処で何をしていようとも。

時には連絡を取り合い、反対方向の列車に乗って。
辿ってきた道を振り返りながら、私達は『此処』に戻ってくるのだろう。



“銀河ステーション”
宇宙の真ん中にある、人生の『中央ターミナル』へと………。



そこへ帰る事は決して「後退する」事ではなく。
帰郷に要した距離を、もっと遠くへ、と…もっと先の未来に飛び立つ為の、助走路に変えるべく。
その為の勇気を、皆で分けあって。
私達は再び、『此処』を離れていく。


幾度も、幾度も……出逢いと別れを繰り返して。

この先の世界を生きていく。
旅を、続けるんだ。



どこまでも…いつまでも…………。










「たつきちゃーん!」

親友の呼び声に、はっと我に返る。
目をしばたかせながら門の外へと視線を戻せば、一護と織姫が並んでこっちを見ていた。

「何、ぼぅっとしてんだよ竜貴! お前ん家、俺らの家の直ぐ側なんだから……一緒に帰ろうぜ?」
「私が居たら、お邪魔じゃ無いの?」
「はぁ?! 何、馬鹿な事言ってるんだよ!!」
「そうだよ、たつきちゃん! もう遅いし……早く帰ろう?」

さっさと来いよ………と。
笑いながら手招く一護の声に、駆け足で門を抜ける。
そして両腕を広げ、走ってきた勢いそのままに二人に飛びついた。

「きゃあっ?!」
「うっ、わっ……?! バッカ、何すんだよ竜貴!!」
「……………大好きよ」
「ふぇ?」
「は?」
「二人とも……これからもずっと、私の大事なダチでツレだ…!」

急にどうしたの、たつきちゃん………と。
笑いながら、私を抱きしめ返してくれる織姫。

コーヒーで酔っぱらったのか、お前は………と。
呆れたような顔をして、私の頭を手の甲で小突く一護。

うん、ちょっと…ね………なんて。
二人の肩口に額を押しつけたまま、曖昧に返事して。

涙を、堪える。





ねぇ……大好きよ、二人とも。
あんた達に出逢えて、本当に良かった。

高校時代を共に過ごしたのが。
今日、ここに集まった…この仲間達で、本当に良かった………。










「ちょと、そこ! 三人で何やってんの?! 早く行こうよ!!」
「は?! まさか私たちに内緒でこの後の打ち合わせ?! どこかにシケ込んで3Pとか計画し……ふがっ」
「バカ千鶴! 夜更けの住宅街で何叫ぶ気よ?! まったく、もう! いい加減そのピンクな脳味噌どうにかしなっ!!!」
「人間そう簡単に、変われるもんじゃないですよね、浅野さん?」
「何故ソコで俺に振る? しかも何故に敬語?!」
「馬鹿につける薬は無いって事だよ。馬鹿は死ななきゃ治らないとも言うな。ああ、もちろん君も含めてね」
「……酷っ! 石田、お前それが医者目指してる人間の吐く台詞かぁ?!
あ…チャド!! お前まで、何、笑ってるんだよぉぉおっ?!」
「石田君……いくらなんでも、言い過ぎなんじゃないかなぁ?」
「いや、このくらい厳しく言わないと彼には効かないんだ。そう…荒療治ってやつだね。
だから、小川さんが心配することは何も無いんだよ?」
「そうなんだ?」
「納得するな、小川ぁあっ」
「ちょっと! 私をその馬鹿男と一緒にしないでよね! 
私はただ、ぼんきゅぼんでむちむちぷりーんな可愛い女の子が好きなだけよぅっ!!」
「だーかーら、夜の公道で滅多な事口走るんじゃないっつーの!!」

少し離れた電信柱の足元、外灯の下。
ぎゃいぎゃいと揉めあい、収拾つかなくなり始めた仲間達。

一護と織姫と私。
三人、顔を見合わせて。
くすり……と小さく、苦笑する。


「こらー、みんな近所迷惑だよ! 
折角また利用してくれって店長さん言ってくれたってのに……苦情来て出入禁止なんて事になっても知らないから!!」

そんなふうに、声を掛けながら。
三人「せーの」で、夜道を駆け出す。



大切な大切な、仲間達の元へと………。















終
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