銀河通信
【little love】
大学からバイト先に直行して、深夜近くの帰宅。
ポストを覗いたら、ダイレクトメールの類に混ざって少し厚みのある封筒が入っていた。
「……?」
宛名を確認すると、そこには見慣れた文字で書かれた自分の名前。
リターンアドレスを確認するまでもなく、送り主の笑顔が脳裏に浮かぶ。
慌てて自室に駆け込み、上着を脱ぐのもそこそこに封を切る。
中から出てきたのは、小さなハート型のチョコレートが3つほど張り付いた、可愛いバレンタインカードだった。
未だ暖房の効き目の出ない寒い室内に居る筈なのに、心だけでなく体まで何やらほわりと暖かくなる。
時計を振り仰ぐ。
常識的に考えて、電話をかけるにはちょっとどころでなく遅い時間。
暫し思案するも、声が聞きたいという誘惑にはどうしても勝てず、一護は携帯電話のボタンを押した。
三回だけ。
それで出なかったら、今日は諦めよう……。
そう思いながら、祈るような気持ちで呼び出し音をカウントしていると、丁度二回目が鳴り終わったところで応答があった。
『もしもし?』
柔らかなソプラノが、鼓膜を震わせる。
心臓が、いつもより少しだけ大きな音で、とくん…とその存在を主張する。
「あ、俺……」
『うん』
「もしかして、寝てた?」
『ううん、大丈夫。起きてたよ?』
「なら、良かった」
ほうっと一つ、安堵のため息を吐いて。
「あのさ…チョコありがとう。すっげぇ嬉しかった」
『ああ、良かった! 間に合ったんだ』
電話の向こう側で、織姫の声が嬉しそうに弾む。
『郵便局に持っていったのが昨日だったから、届くか微妙だなーって心配だったんだ』
そして彼女は、一昨日たまたま立ち寄ったデパートで、そのカードを見つけたのだと言う。
『やっぱり、当日にも何かしてあげたいな…って』
そう……バレンタインのプレゼントなら、週末の帰省時にちゃんと手作りのケーキを振る舞って貰ったばかりだった。
だから。
当日の今日、織姫から何かを贈ってもらえるだなんて、一護としては全く想定外の出来事。
遠距離なんだから、仕方がないとはいえ。
やはりバレンタインデーの当日だった今日、大学の構内やバイト先、歩く道すがら、プレゼントの受け渡し中やデートの最中と思われるカップルを目にすると、淋しい……という気持ちがどうしても拭えなくて。
そんなもの悲しい気分のところに届いたチョコとカードは、ささやかな贈り物ながら、彼の心を幸福感で満たすには、十分すぎるほどの効果を発揮してくれたのだった。
何よりも、ふと店先で手に取ったカードから、真っ先に自分を思い浮かべてくれた…という事が、嬉しくてたまらない。
彼女が自分を想ってくれている事を実感できる、それは確かな出来事。
「本当に嬉しかった。ありがとな?」
『どういたしまして』
それから少し、他愛ない会話を交わして……。
「おやすみ」を言って電話を切る。
もう一度、カードを眺めて。
一つだけチョコを外して包み紙から取り出し、口に含んでみた。
……甘い。
微かに、口の端に笑みを浮かべて。
カードを、コルクボードの真ん中に留めつけと、風呂を沸かすべく部屋を出た。
来月のホワイトデーには。
葉書一枚でもいいから、俺からも何かしら送ってみようかな……。
そんな事を、考えながら……。
終