ORANGE DAY/橙色恋歌



「おぅ、帰ったぞ!」
「おかしゃん、ただいまぁ」
「ただーいまぁー」

俺達三人の声に、家の奥から彼女が姿を現す。

「お帰りなさい! おやつの準備が出来てるから、手を洗ってうがいをしてらっしゃい」
「はぁい!」
「わかったぁ!」

元気よく返事して、子供達が洗面所へと走っていく。

「お帰りなさい、一護君」

ふわりとした笑顔は、昔と少しも変わらない。
ただいま…と言いながら軽く頬に口づけると、途端に照れて真っ赤になりつつ、彼女は下を向いた。

「……子供達に、見られるよ?」
「みてねーよ。今、洗面所行ってんだから」
「あなたも行って、ちゃんと手洗いうがいしてください。示しがつかないよ?」
「はいはい、奥様。仰せのとおりに」

彼女の頭をぽんっと軽く叩きながら、その脇をすり抜けて洗面所に向かう。

「ちゃんと石鹸つけて洗ったか?」
「あらったよー」
「うがいもちゃんとしたよぉ!」
「よし! じゃ、おやつ食べに行って良し!」
「わぁいっ!」

駆け出す後ろ姿を見送って、自分もまた手を洗う。

勿論ちゃんとうがいもしてからリビングに入っていくと、織姫がちょうどグラスにジュースを注ぎ分けているところだった。

わぁい、オレンジジュースだ!……と、子供達がぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。

「あれ…このジュース………」

ペットボトルを取り上げて、俺はまじまじとそのパッケージを見つめた。

「一護君の予想通り、ロングセラーになったね」
にっこりと、織姫が笑う。

「一護君はどうする? コーヒーの方が良ければ、急いで煎れるよ?」
「……いや、これでいい」
「そ?」

こぽこぽこぽ。
注がれる、オレンジ色の綺麗な液体。

「はい、どうぞ」
「サンキュ」

グラスを受け取り、一口飲んで。

「やっぱ、美味しいな。これ」
「そうだね。長く売れるだけのことはあるよね」

にこにこと、隣で笑う織姫を見て。
心の中で、そっと呟く。




『予想が当たったのは、ジュースだけじゃないんだぜ?』




初めて…いや、正確に言えば再会だったらしいけど……。
まだまだ固く小さな蕾だった桜の下で、お前と出会った、あの日。

俺に向けてくれた、日溜まりのような笑顔を見て……。
その笑顔が、常に俺の隣に在る未来、を。

あの時確かに…確かに俺は、お前の後ろに透かし見たんだ………。





尤も、あの頃は……決して手の届かない、夢だとばかり思っていたけれど。





「おかわり、要る?」
空になりかけた俺のグラスを見て、織姫が笑顔で問いかける。

「うーん…じゃ、少しだけ。三分の一くらいでいいや」
「はぁい」
「おかしゃん、わたしもー」
「ぼくもー! ぼくはまんたんにしてっ」
「はいはい、みんな順番にね?」

こぽこぽこぽ。
注がれる、ジュース。
注がれる、幸せ。

「きらきらオレンジ、おとしゃんのあたまとおんなじで、きれいねー?」
「そうか?」
笑いながら、娘の頭をくしゃりと撫でて。



ふと、窓の外に目を向ける。
そこには、あの日と同じ綺麗な夕焼け空が広がっていて。

目の前に視線を転じれば。
そこには愛しい彼女が居て。
俺の両脇には、可愛い子供達が居て。



橙色に染まる世界の中。
ああ、幸せだな………と。
心の底から、感じて。



目を瞑り。
俺はゆったりと、ソファに身を預けた…………。













それは実に他愛ない、とある休日の午後のひとこま。






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