お礼画面
ありがとうございます。
コンビニ店員メイスさんの続きみたいなもの。
前の話はtextにあります。
どれがいいのだろう、とアイシャドウを睨むように見てかなり時間経った。同僚おすすめのデパコスらしいが、私にはさっぱりわからない。そもそもどの色が自分に合うのかすらもわからない。
今まで使っていたのはドラッグストアで売っているようなプチプラのコスメだった。それを今朝踏み潰したのは他でもない私で、遅刻ギリギリということもありアイシャドウをつける暇も買う暇もないまま出勤した。
キラキラした同僚には今日はさっぱりしてますねぇと嫌味なく…本当に嫌味がなかったのかはわからないが、いわれた。
事実なので何も言い返せず、かといってそのまま言われっぱなしも癪で、アイシャドウを踏み潰したことを言うと、色々とおすすめのコスメを教えてくれたのだった。何かの呪文にしか聞こえず半分は聞き漏らしてしまったけれど。
教えてもらった手前もあり、仕事がいつもより早く終わったこともあり、行くだけ行ってみようと電車に向かう足の行き先を変える。
そして今。真っ直ぐ帰るべきだったかと後悔していた。良いものはそれなりの値段がすることは重々承知の上でいたものの、思っていたより高かった。それに併せて、アイシャドウの種類もなかなかにある。
無難なものはベージュだがベージュといってもパールマットティント等の質感が選べ、ピンクブラウンゴールド……。
首を捻りたくなった。キラキラと輝くアイシャドウは見ているぶんには楽しいのだけれど、その中から選べといわれると途端にわからなくなる。自分の好きな色を使えば良いという単純なものであればよかったのに。
「あ」
「え?」
「どーも、お姉さん。何してるんスか」
見知った声に思わず振り向けば、あのコンビニの若い店員さんが立っていた。黒いマスクにギターケースのようなものを背負っている。エレキギターを弾く姿が瞬時に思い浮かんだ。とてもしっくりくる。
「朝、使ってたアイシャドウを不慮の事故で使えなくしちゃって、せっかくだからいいやつ買おうってきたけど種類が多くて困ってるとこです…」
ここで何か上手い言い訳の一つや二つ、小粋なジョークを一つ言えれば良いけれど私にそんなユーモアはない。
正直に話すと店員さんは「そりゃ大変でしたね」と言った。そして私の持つアイシャドウと私の顔に見比べて少し考えたあとに私の持っているものとは別のアイシャドウをとる。
「お姉さんはこっちの色の方が映えると思います」
目を白黒させている間にも店員さんは私にアイシャドウを手渡す。私が手に取ったことのない色だった。
恐る恐る、同じ色のテスターを指にとって手の甲に塗ってみる。不思議とちぐはぐな印象はうけない、というより普段使っているものよりも肌に馴染むのでは?と感じるほどだ。
「す、すごい!ありがとうございます店員さん!」
「いや、俺ここの店員じゃないんで誤解うけます」
確かに。慌てて口を抑えるが、私たちのことを気にしている人はおらず、ほっと胸を撫で下した。
そうはいっても私はこの店員さんの名前を知らない。いつも疲れきってるせいで名札見てないし、店員さんとのやり取りに特に支障がなかったから意識もしていなかった。
「俺メイスっていいます。店員さんじゃなくてメイスって呼んでくれると有り難いです」
私が名前を覚えていないのを察したのか、店員さん、もといメイスさんが私に名乗る。慌てて私も自分の名前を言った。よろしく、といって握手をしたのは実に学生ぶりではないだろうか。メイスさんの手は私の手よりも遥かに大きく、握手すれば私の手の小ささが際立って悲しくなった。
メイスさんは慣れた手付きで2、3個化粧品を手に取って会計に向かう。私もメイスさんに続く形で会計を済ませた。普段買っているアイシャドウよりも何倍も高い買い物だった。もしかすると最近した大きい買い物かもしれない。
「じゃあ、俺こっちなんで」
「今日はありがとうございました!お気をつけて!」
「お姉さんも暗いんで気をつけてくださいね」
メイスさんは小さく会釈して人混み紛れていく。他の人よりも背が大きいからか少し遠くなってもメイスさんの姿は見つけることができた。
今日は良い買い物だったな、と浮かれてスキップをしそうになる。無意識に鼻歌を歌っていて、お隣さんに聴かれてしまったのは早く記憶から抹消したい。
コンビニ店員メイスさんの続きみたいなもの。
前の話はtextにあります。
どれがいいのだろう、とアイシャドウを睨むように見てかなり時間経った。同僚おすすめのデパコスらしいが、私にはさっぱりわからない。そもそもどの色が自分に合うのかすらもわからない。
今まで使っていたのはドラッグストアで売っているようなプチプラのコスメだった。それを今朝踏み潰したのは他でもない私で、遅刻ギリギリということもありアイシャドウをつける暇も買う暇もないまま出勤した。
キラキラした同僚には今日はさっぱりしてますねぇと嫌味なく…本当に嫌味がなかったのかはわからないが、いわれた。
事実なので何も言い返せず、かといってそのまま言われっぱなしも癪で、アイシャドウを踏み潰したことを言うと、色々とおすすめのコスメを教えてくれたのだった。何かの呪文にしか聞こえず半分は聞き漏らしてしまったけれど。
教えてもらった手前もあり、仕事がいつもより早く終わったこともあり、行くだけ行ってみようと電車に向かう足の行き先を変える。
そして今。真っ直ぐ帰るべきだったかと後悔していた。良いものはそれなりの値段がすることは重々承知の上でいたものの、思っていたより高かった。それに併せて、アイシャドウの種類もなかなかにある。
無難なものはベージュだがベージュといってもパールマットティント等の質感が選べ、ピンクブラウンゴールド……。
首を捻りたくなった。キラキラと輝くアイシャドウは見ているぶんには楽しいのだけれど、その中から選べといわれると途端にわからなくなる。自分の好きな色を使えば良いという単純なものであればよかったのに。
「あ」
「え?」
「どーも、お姉さん。何してるんスか」
見知った声に思わず振り向けば、あのコンビニの若い店員さんが立っていた。黒いマスクにギターケースのようなものを背負っている。エレキギターを弾く姿が瞬時に思い浮かんだ。とてもしっくりくる。
「朝、使ってたアイシャドウを不慮の事故で使えなくしちゃって、せっかくだからいいやつ買おうってきたけど種類が多くて困ってるとこです…」
ここで何か上手い言い訳の一つや二つ、小粋なジョークを一つ言えれば良いけれど私にそんなユーモアはない。
正直に話すと店員さんは「そりゃ大変でしたね」と言った。そして私の持つアイシャドウと私の顔に見比べて少し考えたあとに私の持っているものとは別のアイシャドウをとる。
「お姉さんはこっちの色の方が映えると思います」
目を白黒させている間にも店員さんは私にアイシャドウを手渡す。私が手に取ったことのない色だった。
恐る恐る、同じ色のテスターを指にとって手の甲に塗ってみる。不思議とちぐはぐな印象はうけない、というより普段使っているものよりも肌に馴染むのでは?と感じるほどだ。
「す、すごい!ありがとうございます店員さん!」
「いや、俺ここの店員じゃないんで誤解うけます」
確かに。慌てて口を抑えるが、私たちのことを気にしている人はおらず、ほっと胸を撫で下した。
そうはいっても私はこの店員さんの名前を知らない。いつも疲れきってるせいで名札見てないし、店員さんとのやり取りに特に支障がなかったから意識もしていなかった。
「俺メイスっていいます。店員さんじゃなくてメイスって呼んでくれると有り難いです」
私が名前を覚えていないのを察したのか、店員さん、もといメイスさんが私に名乗る。慌てて私も自分の名前を言った。よろしく、といって握手をしたのは実に学生ぶりではないだろうか。メイスさんの手は私の手よりも遥かに大きく、握手すれば私の手の小ささが際立って悲しくなった。
メイスさんは慣れた手付きで2、3個化粧品を手に取って会計に向かう。私もメイスさんに続く形で会計を済ませた。普段買っているアイシャドウよりも何倍も高い買い物だった。もしかすると最近した大きい買い物かもしれない。
「じゃあ、俺こっちなんで」
「今日はありがとうございました!お気をつけて!」
「お姉さんも暗いんで気をつけてくださいね」
メイスさんは小さく会釈して人混み紛れていく。他の人よりも背が大きいからか少し遠くなってもメイスさんの姿は見つけることができた。
今日は良い買い物だったな、と浮かれてスキップをしそうになる。無意識に鼻歌を歌っていて、お隣さんに聴かれてしまったのは早く記憶から抹消したい。