【ゴルトレ♀】消えない。
ゴールドシップと同棲を始めてもうかなりの年月が経過している。お互いに歳を重ねたからか、多少落ち着きはしたものの相変わらず私たちは仲がいい。
ちなみに、そろそろ秋も本格的になってきたというのに彼女はいまだに半袖で部屋をうろうろしている。
「そろそろ、ケッコン? とか考えてもいいかもなー。アタシ、もう30目前だし。トレーナーはとっくに30過ぎて……」
「言わんでよろしい!!」
私は即座にツッコミをいれて、揶揄うようにしてこちらを見ていたゴールドシップの頭に軽くチョップを喰らわせた。
結婚のことは何度も考えていたけれど、なかなか言い出す勇気が持てず、この歳になってしまった。ゴールドシップはそういった事柄にあまり興味がなさそうだったからだ。
だから、まさか彼女の口から「結婚」のワードが出るとは思ってもいなかった。
「それならやっぱ、アレが必要だな。1番のマストアイテム」
私はしばらくうーんと唸り、それが何かを考えた。そして出た結論は、
「あ! ゼクシィね!! 確かに1番必要……」
「ちげーーーーーーよ!! あんぽんたん! 指輪だよ、指輪!!!! エンゲージリング!!!」
このときは、珍しくゴールドシップの方がツッコミを入れてきた。私は、そっかぁと彼女に言われて指輪の存在を思い出していた。
「さて! どこに探しに行く!? ジャングルか? アマゾン川か!? はたまた宇宙か!!!!」
こう叫びながらゴールドシップは物置へと走り去ってしまった。まあ、おそらくは虫かごと虫網を取りに行ったのだろう。
――結婚指輪。私はあまり式典ごとというのが好きでは無いから、式をあげることはしないだろう。けれど、やっぱり私たちが家族であるという証として、指輪は欲しい。
「あ。指輪といえば……」
どんな指輪にしよう、なんて考えているうちに私は昔読んだ小説を思い出していた。
その小説の内容は、指輪として一生消えない刺青をお互いの左手薬指に彫るというものだった。
当時の私は永遠の愛を誓うのにこれほど素敵なものはないであろう、と感動した覚えがある。
しかし、子供ながらにその感覚があまり周囲の理解を得られないであろうことを私は知っていた。
「わ! それで外は流石に寒くない?」
物置のある方向からばたばたと彼女の走る音が聞こえたと思えば、目の前に立っていたゴールドシップは、半袖半ズボンに虫かごをぶら下げ虫網を構えた夏の虫取り少年ルックをしていた。
「それでよー、指輪をゲッチューする場所は決まったか!?」
彼女はそわそわと足踏みをしながら捲し立てるように私に質問した。
「えーっと……うーん」
私の頭には、幾度となく読んだあの小説のワンシーンがべっとりとこびりついていて、ほかのことなんて考えられなくなっていた。
「ゴルシちゃん、その……ちょっと変かもなんだけど…………」
私がいつになく真面目なトーンで話を始めたので、彼女の目も自然と真剣なものになっていた。
「……薬指に刺青?」
ゴールドシップが不思議そうな顔でこちらを見ている。当たり前だ、こんな気持ちの悪い提案受け入れてもらえるわけが――
「いいぜ! 無くしたりもねぇしピッタリだな!」
「え? え???」
彼女がいいアイデア、なんてテンションで快諾してくれたものだから、私は驚いて素っ頓狂な声を出してしまった。
「んな驚くなよ。オメーが言ったんだろ」
「確かにそうだけど……」
んじゃ、やり方調べてみようぜ! というと、彼女はスマートフォンを取り出して、素人でもできる刺青の入れ方を調べていた。
そして、数日後。万が一に備えて、2人とも休日の日曜日を選び、私たちはお互いの指に墨の結婚指輪を刻んだ。
針先に墨をつけて皮膚に刺し、少しずつ輪を描いていくという昔ながらのやり方。もちろんかなり痛かったけれど、ゴールドシップが私に与えるものだと思うと、痛みでさえも愛おしく思えた。
しばらく時間がかかったけれど、ようやく私たちの指に黒い、少し不恰好な結婚指輪が刻まれた。
「……後悔、してない? これでもう私たちはずっと指輪を外せないってことなん――」
「してるわけねーだろ。むしろ嬉しいぜ。アンタにアタシを刻み込んだみたいで。永遠に消えねぇ、愛の証だ」
そう言うと彼女は?愛おしそうに自分の薬指を撫でた。
「一生離さねーから、覚悟しろよな。トレーナーこそ後悔すんなよ? アタシの愛が重いのはアンタもご存知の通りだ」
指がまだじんじんと痛んでいる。でもこれは彼女が刻みつけてくれた、愛の証だ。
――この痛みが、ずっと消えなければいいのに。
五感、痛覚、全てで常にゴールドシップを感じていたい。いつもそばにいて、いっそのこと同化してしまいたい。
そのことを口にすると、彼女は
「アタシたちは似たもの同士だな。ゴルシちゃんも今、同じようなこと考えてたぜ」
と言っておかしそうに、でも嬉しそうに笑った。
ちなみに、そろそろ秋も本格的になってきたというのに彼女はいまだに半袖で部屋をうろうろしている。
「そろそろ、ケッコン? とか考えてもいいかもなー。アタシ、もう30目前だし。トレーナーはとっくに30過ぎて……」
「言わんでよろしい!!」
私は即座にツッコミをいれて、揶揄うようにしてこちらを見ていたゴールドシップの頭に軽くチョップを喰らわせた。
結婚のことは何度も考えていたけれど、なかなか言い出す勇気が持てず、この歳になってしまった。ゴールドシップはそういった事柄にあまり興味がなさそうだったからだ。
だから、まさか彼女の口から「結婚」のワードが出るとは思ってもいなかった。
「それならやっぱ、アレが必要だな。1番のマストアイテム」
私はしばらくうーんと唸り、それが何かを考えた。そして出た結論は、
「あ! ゼクシィね!! 確かに1番必要……」
「ちげーーーーーーよ!! あんぽんたん! 指輪だよ、指輪!!!! エンゲージリング!!!」
このときは、珍しくゴールドシップの方がツッコミを入れてきた。私は、そっかぁと彼女に言われて指輪の存在を思い出していた。
「さて! どこに探しに行く!? ジャングルか? アマゾン川か!? はたまた宇宙か!!!!」
こう叫びながらゴールドシップは物置へと走り去ってしまった。まあ、おそらくは虫かごと虫網を取りに行ったのだろう。
――結婚指輪。私はあまり式典ごとというのが好きでは無いから、式をあげることはしないだろう。けれど、やっぱり私たちが家族であるという証として、指輪は欲しい。
「あ。指輪といえば……」
どんな指輪にしよう、なんて考えているうちに私は昔読んだ小説を思い出していた。
その小説の内容は、指輪として一生消えない刺青をお互いの左手薬指に彫るというものだった。
当時の私は永遠の愛を誓うのにこれほど素敵なものはないであろう、と感動した覚えがある。
しかし、子供ながらにその感覚があまり周囲の理解を得られないであろうことを私は知っていた。
「わ! それで外は流石に寒くない?」
物置のある方向からばたばたと彼女の走る音が聞こえたと思えば、目の前に立っていたゴールドシップは、半袖半ズボンに虫かごをぶら下げ虫網を構えた夏の虫取り少年ルックをしていた。
「それでよー、指輪をゲッチューする場所は決まったか!?」
彼女はそわそわと足踏みをしながら捲し立てるように私に質問した。
「えーっと……うーん」
私の頭には、幾度となく読んだあの小説のワンシーンがべっとりとこびりついていて、ほかのことなんて考えられなくなっていた。
「ゴルシちゃん、その……ちょっと変かもなんだけど…………」
私がいつになく真面目なトーンで話を始めたので、彼女の目も自然と真剣なものになっていた。
「……薬指に刺青?」
ゴールドシップが不思議そうな顔でこちらを見ている。当たり前だ、こんな気持ちの悪い提案受け入れてもらえるわけが――
「いいぜ! 無くしたりもねぇしピッタリだな!」
「え? え???」
彼女がいいアイデア、なんてテンションで快諾してくれたものだから、私は驚いて素っ頓狂な声を出してしまった。
「んな驚くなよ。オメーが言ったんだろ」
「確かにそうだけど……」
んじゃ、やり方調べてみようぜ! というと、彼女はスマートフォンを取り出して、素人でもできる刺青の入れ方を調べていた。
そして、数日後。万が一に備えて、2人とも休日の日曜日を選び、私たちはお互いの指に墨の結婚指輪を刻んだ。
針先に墨をつけて皮膚に刺し、少しずつ輪を描いていくという昔ながらのやり方。もちろんかなり痛かったけれど、ゴールドシップが私に与えるものだと思うと、痛みでさえも愛おしく思えた。
しばらく時間がかかったけれど、ようやく私たちの指に黒い、少し不恰好な結婚指輪が刻まれた。
「……後悔、してない? これでもう私たちはずっと指輪を外せないってことなん――」
「してるわけねーだろ。むしろ嬉しいぜ。アンタにアタシを刻み込んだみたいで。永遠に消えねぇ、愛の証だ」
そう言うと彼女は?愛おしそうに自分の薬指を撫でた。
「一生離さねーから、覚悟しろよな。トレーナーこそ後悔すんなよ? アタシの愛が重いのはアンタもご存知の通りだ」
指がまだじんじんと痛んでいる。でもこれは彼女が刻みつけてくれた、愛の証だ。
――この痛みが、ずっと消えなければいいのに。
五感、痛覚、全てで常にゴールドシップを感じていたい。いつもそばにいて、いっそのこと同化してしまいたい。
そのことを口にすると、彼女は
「アタシたちは似たもの同士だな。ゴルシちゃんも今、同じようなこと考えてたぜ」
と言っておかしそうに、でも嬉しそうに笑った。
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