カードの精霊たちの日常

「みんな大変!ピケルとクランがサイコ・ショッカーの幹部に捕まってしまったわ!みんなの元気な声でフェザーマンを呼んで!せーのっ!」

『フェザーマーン!!!』

「とーぅ!正義の味方!エレメンタルヒーロー・フェザーマン!ここに見参!!」

主役の登場に会場の多種多様のちびっこモンスターたちのはしゃぐ声が湧き上がる。
ちなみに会場の席には子供たちだけでなく、同伴の保護者の姿も見られる。
勿論その中にはブラック・マジシャン・ガールの姿もーーー。

(一緒にはしゃいでる辺り、ガールも子供と変わらんがな)

真の保護者・ブラック・マジシャンは会場から少し離れたカフェスペースの席で、モンスターたちの隙間から見える、最前列に座った弟子の姿を視界に捉えながら紙コップのコーヒーを一口含んだ。






時は遡って今朝のこと。
ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールが丁度朝食を終えた頃にガガガマジシャンとガガガガール が屋敷に訪れた。
二人の子供を連れてーーー。

「どうしたのガガガちゃん?その子たちは?」
「ごめんなさいガール先輩。実はアタシの妹・ガガガシスターとこっちのガガガキッドの事でお願いがあるんです」
「お願いって?」
「実は今日、エレメンタルヒーローショーがあるんですけど急に他校から果たし状叩きつけられたんですよ。しかも学校総出で」
「あ〜喧嘩売られちゃったんだ?」
「そーなんですよ〜。でも妹たちのヒーローショーについて行くって約束を破る訳にもいかないし・・・だから今日一日だけ妹たちの面倒見ててくれませんか?ヒーローショーについてってくれるだけでいいんで!」

パンッと両手を合わせて頭を下げてお願いするガガガガールに勿論ブラック・マジシャン・ガールは快諾した。

「うん、いいよ!今日一日私とお師匠サマが面倒見てるから!いいですよね、お師匠サマ?」
「ああ、構わんぞ」
「ガール先輩、師匠の人、マジ感謝です!ほら、アンタたちもお礼を言いな」
「ありがとうございます。今日は宜しくお願いします。妹のガガガシスターです」
「オイラはガガガキッド!あんちゃんねぇちゃん宜しくな!」
「宜しくお願いしますブラック・マジシャン様、ブラック・マジシャン・ガール様だろ」

わんぱく坊主なガガガキッドの頭を無理矢理下げさせながらガガガマジシャンがドスの効いた声で訂正させる。
ガガガキッドは「お願いしますぅ・・・ブラック・マジシャン様、ブラック・マジシャン・ガール様ぁ・・・」と言い直した。

「キッドくんは先輩さんの弟?」
「いえ、違います。ただの近所の子供です」
「オイラはアニキの舎弟だぜ!覚えててくれよな、ねぇちゃん!」
「覚えて下さいだろ。それからブラック・マジシャン・ガール様、或いはお弟子様だ」

また無理矢理頭を下げさせて更にドスの効いた声で訂正させるガガガマジシャン。
どうやら上下関係・目上への言葉遣いや態度に関しては徹底教育しているようである。
そんな二人のやり取りに苦笑しつつ二人はヒーローショーの時間と場所を聞いてガガガシスターとガガガキッドを引き取った。
そして話もそこそこに決闘場所へ向かう二人にガガガシスターとガガガキッドが声援を送る。

「お姉ちゃーん!今日も百人斬り頑張ってねー!」
「アニキー!他校の奴らなんざ血祭りに上げちゃえー!」

こんなにも物騒な声援があるだろうか。
しかしガガガマジシャンは左腕を、ガガガガールは右腕を横に伸ばすとグッと親指を上に向けて立てた。
それに二人が「キャー!」だの「イカすぜアニキー!」だの声を上げてはしゃぐ。
今時の子供はこういうものなのだろうか・・・いや、もう何もツッコむまいとブラック・マジシャンは考えるのをやめるのであった。

「さ、お師匠サマ、早速私達も支度をしましょう!」
「そんなに慌てなくても時間ならまだ十分過ぎる程あるだろう」
「そんな悠長な事言ってると一番前の席が取られちゃいますよ!」
「ねぇちゃんの言う通りだぜ!席は早いもん勝ちだから早く行かないといい席取られちまうぜ!」
「です!」

無駄に強い意思の篭った瞳で大きな子供と二人の小さな子供に迫られ、ブラック・マジシャンは半歩ほど後退りしてから「わ、分かった・・・」と白旗を上げるのであった






「この間のバブルマンが正気に戻るシーンは面白かったよなー!」
「分かるー!洗脳が解けてフェザーマンたちを助けたところすっこぐ感動しちゃった!」
「最後にエレメンタルヒーロー四人で力を合わせて大幹部・ヘルポエマーを倒したところは今も印象に強く残ってます!」

会場へ向かう道すがら、ブラック・マジシャン・ガールはガガガシスターとガガガキッドとヒーローショーの元となっている番組『エレメンタル戦隊グレートヒーローズ』の話に花を咲かせていた。
機械族モンスターの提供によって現実世界と同じ『テレビ』なるものが存在するこの精霊界では所謂『特撮番組』というものが配信されていた。
その特撮番組というものが今三人が話題にしている『エレメンタル戦隊グレートヒーローズ』の事であり、種族を問わず子供は勿論、大人にも人気の番組だ。
話の内容は至って単純で、エレメンタルヒーロー・フェザーマンたちが悪の組織・人造人間サイコ・ショッカー軍と戦うという王道のヒーローものである。
ブラック・マジシャンはあまり興味がないのだが、この手のものが大好きなブラック・マジシャン・ガールは瞬く間にファンになった。
いつもは眠たいだの何だの言ってぐずる癖にこの番組が始まる時だけ朝早く時間きっかりに目覚めて真剣な顔つきで集中して視聴しているのである。
その真剣さと集中力を修行や座学にも生かしてほしいものだと思いながらブラック・マジシャンはソファで彼女の隣に座りながらぼんやりとテレビを眺めたり本を読んだりして聞き流していた。
その為、番組の内容に対して知識はあるが、所詮は知識があるというだけで熱く語れる程のものでもない。
けれどブラック・マジシャン・ガールが同じ目線になって二人の子供の話し相手になってくれているのに関しては内心助かっていた。
人間だった頃に幼いマナの面倒を見ていた経験があるとはいえ、今と昔では子供の有り様も随分と変わっている。
だから手がつけられなかったらどうしようかと悩んでいたのだが、それも杞憂に終わった。
手がかかるのはブラック・マジシャン・ガールだけでいい。
嫌味でも何でもなく、ブラック・マジシャンはふとそんな事を思った。


それから程なくして会場に到着し、ブラック・マジシャン・ガールたちが一番前の席を確保するのとほぼ同じタイミングで他のモンスターたちも続々と集まってきた。
ブラック・マジシャンは自分の高身長が後ろに座るモンスターの視界を遮ってしまうと言ってブラック・マジシャン・ガールにくれぐれも子供たちから目を離さないようにと言い付けてカフェスペースに移動し、そして冒頭に戻るのである。

「それにしても凄い人気だな・・・」
「本当にね」

自分の独り言に言葉を返す者がいたので振り向いたら同じように紙コップコーヒーを手に持ったサイレント・マジシャンが傍に佇んでこちらに微笑みかけていた。

「サイレント・マジシャンか」
「こんにちは、ブラック・マジシャン。お隣いいかしら?」
「ああ、構わんぞ」
「ガールちゃんの付き添い?」
「付き添いの付き添いだ。知り合いの兄妹の面倒を見る事になったんだ。ガールは今、その子供たちと一緒に最前列に座っている」
「まぁ、そうなの」
「そういうお前は何故ここに?」
「貴方と似たようなものよ。ソードマンが見に行きたいっていうから」
「そういえばアイツもそっちタイプだったな・・・今どこに座ってるんだ?」
「ガールちゃんの隣」
「え?」

思わず変な声を出してしまい、観客の隙間からガールの隣の席を窺った。
すると、サイレント・マジシャンの言う通り、サイレント・ソードマンがブラック・マジシャン・ガールの隣に座って同じようにヒーローショーを楽しんでいた。
しかもレベル0の姿で。

「・・・」
「ごめんなさいね、今この時あの空間ではガールちゃんをソードマンの保護者にしてくれないかしら」
「それがまかり・・・通ったな」

話の冒頭でフェザーマンを呼ぶように子供達に呼び掛けたりなど舞台の司会進行役を務めているサイバーチュチュがフェザーマンと一緒に戦う子供を探し、そこにサイレント・ソードマンが指名された。
その時にサイバーチュチュは「誰と一緒に来たのかな?」と質問するとサイレント・ソードマンはしれっと「このおねえちゃんとだよ!」と言って隣に座るブラック・マジシャン・ガールを見上げた。
当のブラック・マジシャン・ガールは一瞬驚いたようだが、サイレント・ソードマンだと察するとすぐに調子を合わせて「はい!一緒に来ました!」と答えた。
呆れやら情けなさやらでブラック・マジシャンは軽く溜息を吐く。

「何をやっているんだろうな、あの二人は・・・」
「まぁまぁ、仲が良くていいじゃない」

穏やかに微笑むサイレント・マジシャンと溜息を吐く自分。
恐らくこの違いはそもそもの性格の違いによるものだろう。
自分もサイレント・マジシャンを見習って真面目になり過ぎず、もう少し柔軟な思考と寛容さを身に付けて溜息の数を減らそうか、なんて少し考えた。

それから程なくしてヒーローショーは恙無く幕を閉じ、モンスター混みの中から子供たちと手を繋いだブラック・マジシャン・ガールとちゃっかりレベル7に変身したサイレント・ソードマンが戻ってきた。

「お師匠サマ!私とシスターちゃんとキッドくん、ただいま戻りました!」
「うむ、ちゃんと全員いるようだな」
「戻ったぞ、サイマジ」
「お帰りなさい。ちゃんとガールちゃんにお礼言った?」
「勿論だ」
「・・・お前と言う奴は自分の特性を利用して子供の特権を得るなど大人気ないと思わないのか」
「なんだブラック・マジシャン、もしかして子供にも大人にもなれる俺が羨ましいのか?」
「むしろ卑怯だと思っている。悪い意味でな」
「ブラック・マジシャンの言う通りよ、ソードマン。レベル0で子供になれるとはいえ、貴方も十分大人の部類なんだから子供の楽しみを奪っちゃダメよ」
「大丈夫だ、今回のでヒーローと一緒に共演するという夢は叶えたからもうしないさ」

あっけらかんと言い退けて笑うサイレント・ソードマンにサイレント・マジシャンは苦笑の溜息を零し、ブラック・マジシャンは肩を竦めた。
サイレント・ソードマンとはこういうモンスターなのである。
サイレント・ソードマンもサイレント・マジシャンも戦闘の時はその名の通り沈黙の戦いを繰り広げるのだが、オフになるとサイレント・ソードマンの方は特に饒舌に喋る。
なんなら陽気だ。
その反動からか、それとも元々なのか、サイレント・マジシャンはお淑やか且つ穏やかな性格をしていて、言動も優しく落ち着いている。
一体この差はどこで出来てしまったのやら。
ちなみに二人は普段はレベル7の姿で活動しており、それより下のレベルになるのはごくたまにといったところ。
そして今回のケースは稀どころか別の意味でイレギュラーである。

さて、そんなブラック・マジシャンたちの所に露店の呼び込みの声が届いてくる。

「エレメンタル戦隊グレートヒーローズのアイスはいかがですかー?ランダムでポストカード付いてきますよー!」

「ポストカード!?ねえちゃんねえちゃん!オイラポストカード欲しい!アイス食べようぜアイス!」
「ダメだよキッドくん、そんな図々しいおねだりしちゃ」
「いいよシスターちゃん、遠慮しないで。みんなでアイス食べよう?」

グイグイとブラック・マジシャン・ガールの手を引っ張るガガガキッドとそれを諌めるガガガシスター。
しかしブラック・マジシャン・ガールが優しく微笑んでそう言うとシスターはにぱーっと嬉しそうに笑って「はい!」と返事をした。

「お師匠サマもどうですか?」
「あんちゃんも食べようぜ!そんでポストカード、オイラにくれよ!」
「えー?キッドくんずるーい!」
「じゃあ私の分のポストカードをシスターちゃんにあげるね。そんな訳でお師匠サマ、何にします?」

全く口を挟む隙もなく決められたデザートタイム。
まぁ別にいいかと思い、ブラック・マジシャンは『サイコ・ショッカーお気に入りのコーヒー味アイス』を頼んだ。
子供達を見ていようかと申し出たが、子供達が自分で選びたいと言い張ったのでブラック・マジシャン・ガールに逸れないようにと言付けてその背中を見送る。

「折角だから俺たちもアイス食べるか。サイマジは何がいい?」
「じゃあ『バーストレディの燃えるリンゴ味』にしようかしら」
「リンゴ味だな、買ってくるから待っててくれ」
「お願いね」

サイレント・ソードマンにゆっくり手を振って見送り、そのままサイレント・マジシャンはブラック・マジシャンと共に席で待機する事となった。

「ガールちゃんは面倒見がいいわね」
「昔からガールは子供の面倒を見るのが上手だったからな」
「でも貴方に似た部分もあるのかもしれないわよ?」
「もっと別の所を似て欲しかったものだが・・・それはそれで嬉しいな」

ブラック・マジシャンの珍しくも素直な感想だった。
勉強嫌いで自由奔放なガールには人間の頃から手を焼かされていた。
ある時なんかは自分は師に向いていないのではと悩んだりもしたが、それでも自分の死後は立派な魔術師として神官職に就き、国へその身を捧げたと聞いた時は涙と感動で崩れ落ちそうになった。
自分の苦労が報われた事、自分なんかがいなくてもマナはしっかり務めを果たせた事、そしてカードの精霊になっても勉強嫌いなどは変わらないとはいえ、自分を師と仰ぎ慕って共にいてくれる事、これほど師匠冥利に尽きるものはない。
加えて自分が教えていない、自分の背中を見てこうして下の者に対して面倒見が良くなったとあればもう言う事はない。
言ってしまったら調子に乗るので言わないが、ブラック・マジシャン・ガールはブラック・マジシャンにとって誇りのある自慢の弟子だった。

「お師匠サマー!買ってきましたよー!」

二人分のアイスを持ったブラック・マジシャン・ガールとそれぞれのアイスを持った子供たち、そしてサイレント・ソードマンがサイレント・マジシャンの分のアイスを持って戻ってくる。
ブラック・マジシャンの注文したアイスはサイコ・ショッカーを模しているのか、魔法による飾り付けでアイスにサイコ・ショッカーの顔が作られていた。
こんな無駄なサービスはいらなかった。

「あんちゃんありがとうな!あんちゃんから貰ったポストカードは大事にするぜ!」
「いいのは出たか?」
「おう!フェザーマンとエレメンタル戦隊の集合絵が出たんだ!」
「それは良かったな。失くさないようになするんだぞ」
「うん!」
「ブラック・マジシャン・ガール様、ポストカードありがとうございます。大事にします」
「うん!ちなみにシスターちゃんは何が出た?」
「大好きなバーストレディとスパークマンです」
「そっか、好きなヒーローのポストカードが出て良かったね」
「はい!」
「ソードマン、貴方は何が出たの?」
「お前から貰った分も合わせてサイコ・ショッカー二枚・・・」
「バチが当たったのよ」
「キッド〜、俺のサイコ・ショッカーとお前のフェザーマンを交換してくれ〜」
「やーだよ!ソードマンのあんちゃんはWショッカーで我慢しろよ」
「そう言うなよ〜!」
「だったら勝負だ!サイコ・ショッカーの手下め!」
「お?ならばすぐそこの公園で決着をつけるぞ、フェザーマンよ!」

ビシィッとお互いに指を刺し合うガガガキッドとサイレント・ソードマン。
サイレント・ソードマンも子供と同じ目線を持っている為、割とこういう事のノリは良い。
そこにガガガシスターも名乗り出て参加したがる。

「私もフェザーマンごっこする!バーストレディがいい!」
「私も私も!」
「ガール、お前はスパークマン役をやってこの間教えた雷魔法を試すんだ」
「はい、お師匠サマ!」
「おい!俺を実験台にするな!」
「じゃあ私はバブルマン役で新しい魔法の実験でもさせてもらおうかしら」
「サイレント・マジシャン!お前もか!?」

サイレント・ソードマンに躙り寄る5人。
その後、サイレント・ソードマンがどうなったかはご想像にお任せます。



さて、時刻は夕方となり、ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールは二人の子供を間に挟んで歩きながら屋敷への帰路を辿っていた。
その途中でのこと。

「あ!お姉ちゃんだ!!」
「アニキー!」

決闘を終えたであろうガガガマジシャンとガガガガールに出くわし、ガガガシスターとガガガキッドは手を振りながら二人に駆け寄った。
二人の服は所々破れてボロボロだったり肌に血の跡が残ってたりしていて熾烈な決闘であった事が窺えた。

「ガガガちゃん大丈夫!?どこか怪我してない!?」
「あー大丈夫ですよ。これ全部返り血なんで」
「そ、そう・・・」
「お姉ちゃん今日も百人斬り出来た?」
「百人斬りどころか五百人斬りしてきたよ」
「わ〜すご〜い!」
「アニキアニキ!今日の闘いの武勇伝を聞かせてくれよ!」
「後でな。それよりブラック・マジシャン様とお弟子様を困らせたりはしなかったか?」
「もっちろんだぜぃ!」
「キッドくんはアイスをおねだりしたでしょ?私もご馳走してもらったけど」
「お前・・・」
「あ、いいのいいの!私が食べようって言ったんだから!」
「すいません、ガール先輩。今度お礼するんで。ほらアンタたちも今日のお礼言いな」
「ブラック・マジシャン様、ブラック・マジシャン・ガール様、今日はありがとうございました。とっても楽しかったです!」
「オイラも楽しかったぜ!あんちゃ・・・ブラック・マジシャン様、ブラック・マジシャン・ガール様・・・」

上から降り注ぐガガガマジシャンの鋭い視線と威圧にぎこちないながらもガガガキッドはブラック・マジシャンたちの呼び名を訂正する。
日中ずっと『あんちゃん・ねえちゃん』呼びだった事は内緒にしてあげる事にした。
挨拶もそこそこにガガガマジシャンたちと別れると二人は並んで夕日に照らされて影が伸びる道を歩いた。

「楽しかったですね、お師匠サマ!」
「ああ、そうだな」
「にしても子供って可愛いですよね〜。無邪気だし手なんかもちっちゃくて!私も人間だった頃に欲しいなって思った時が少しだけありましたけどお師匠サマがいなくなっちゃってからすぐに諦めたっけなぁ」

思わずずっこけそうになって前に倒れる体をなんとかして押しとどめる。
本当にこの弟子は突拍子も無い事を平然と言いのける。
それも爆弾級のセリフを。

「・・・なぜそこで私の名前が出てくる」
「だって私、お師匠サマの子供が欲しかったんだもん」
「私以外の選択肢はなかったのか?」
「ぜーんぜん?縁談とかありましたけど、どの人もこの人も比べちゃ悪いと思いつつもやっぱりお師匠サマには勝てないな〜って。仮にいたとしても、それでも私はお師匠サマがいいからお師匠サマ以外とはぜ〜ったに結婚しない!って決めてましたし」
「・・・悪いが私はそこまでの人間ではなかったぞ。単騎で挑んで結局バクラを葬れなかったしな」
「それでも禁術を使ってまで国やファラオをお守りしようとしたり、今でもファラオとマスターに厚い忠誠を誓ってるお師匠サマは私にとって偉大で立派な大好きなお師匠サマなんです!これだけは間違いありません!」

いつになく強い口調と気迫に押されてブラック・マジシャンは「そ、そうか・・・」と呟くと気恥ずかしさから視線を逸らして頰を掻いた。
ブラック・マジシャン・ガールが普段から自分に好意を示して慕ってくれているのは嫌という程分かってはいたが、改めて言い切られるとどこか照れ臭いものがある。
しかも真剣な眼差しで言われてしまったら尚更その真っ直ぐな瞳を直視する事など出来ない。
上手い返し言葉が見つからず、ブラック・マジシャンは咳払いを一つすると赤くなっているであろう顔を見られまいとそのまま前を歩いて言った。

「・・・そこまで言い切るのであればこれからもとことん付き合ってもらうからな」
「はい!」
「手始めに明日はみっちり座学をやるぞ」
「えっ・・・あ、私明日はちょっと用事がーーー」
「逃げる事は許さんぞ」
「せめて!せめて30分に一回は休憩を挟んで下さい!」
「間隔が短すぎる!2時間に一回だ!」
「そんな〜!」

嘆くブラック・マジシャン・ガールの指に自分の指を絡めて逃すまいとする。
所謂恋人繋ぎというやつで、ブラック・マジシャン・ガールがよく強請る繋ぎ方だ。
普段はあまりやらないのだが、今日は面と向かって愛の告白をされたのでそのお返しにしてあげたのだった。




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