ケンガンアシュラ
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――嘘、本当に、うん、ありがとう、嬉しい。あ、若槻さんには内緒よ。またね。
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前戯へは、出来れば執拗に手を加えたい。彼女の反応も眼に収めたいし、何より自身の触れた肌から、薄い体温に変化があると嬉しくなる物だ。常、言葉足らずであるが、何度目かの深い口吻を繰り返す事で、それが言葉へと変わってしまうのだから有り難い。察した彼女もまた、おずおずと細い腕をこの首に回してくれる。――いつもなら、だ。
「わ、かつきさ、…、…っ、や、ちょっと待って、」
白を敷いたシーツに、仰向けになる小柄な身体は、少しでも加減を誤れば 途端に砂のよう崩れてしまいそうでならない。その辺は、幼少期からの適度な加減で無意識下に行える。しかしながら、今日はどうしても優しさを保つ情事は出来なそうで駄目だ。
「何、何に怒ってるの…っ、…あっ、」
『別に何も。怒ってなんかないさ』
真っ赤な嘘は既、お見通しだろう。いつもなら首元へ回る腕を白色のシーツへ押し付けて、加減を忘れそうになる握力に神経を注ぐ。――少し前だった。彼女のシャワーが終わった次に、交代でバスルームへ向かった。湿気と共に浴室へ漂うは、彼女のシャンプーとトリートメントの匂い。近くへ頬を寄せた時、柔らかに髪を
「嘘、怒ってるじゃない、…っ、」
『さあ、どうだろうな』
素直に、“電話の相手は誰だったんだ”、とか“浮気してないよな”なんて訊けば良いものを。この胴体からそんな言葉が飛び出したら、何だか女々しくて、心底情けなく思えた。特段、隠す必要のない電話の内容なら、携帯を手放したあとすぐ報告をくれるのだが。聞き耳を立て届いた声の中に「若槻さんには内緒よ」と はっきり聞こえてしまったのだから、心へ
『兎に角、今夜は元々する予定だったんだ、何だっていいだろ』
投げ掛けたいのは、そんな言葉じゃない。“なあ俺の事、好きだよな”、“愛してるよ”、“傍に居てくれ”。難しい外国語でも何でもない癖、簡単な言葉は喉奥に埋もれ出やしない。我ながらほとほと呆れる。そうして言葉の代わり、ベッドへ着いた片膝で彼女の脚を割っては、まだ
「――……きゃ、」
相変わらず、この華奢な身体に自身が入る余地があるなど信じられない。けれど、きつく抱き締めた腕の中で幾度ない口吻を繰り返せば、溢れゆく熱い体液が潤滑剤となって 奥へ奥へと招いてくれるのだから不思議である。その度に、彼女の気が自分へ向けられている、そう自覚と共に安堵するのだ。大概、もっと歳の近い男と一緒になれば良い物を 何だって俺を選んでしまったのか。それでも、恋人同士になれたからには歳差を埋めれるよう、なりに努力はしている分と言いたい。
『ろくに触ってないのに、濡れるんだな』
「あ、あなたがこうして近くにいるんだもの」
『……そうかい』
「――ねえ、やっぱり怒ってるわよ、理由を教えて。何か気に障ったなら、きちんと謝るから、」
彼女の方が余っ程大人だ。伝えたい事はすぐ声にしてくれるし、言い合いになる手前、
『嫌だ』
「どうしたの、」
滾った自身を彼女の入口へ埋める矢先。口から出た言葉は、何が猛虎か。虎でもなければ成猫にすらなれていない、か弱な子猫もいい所。今まさに 細い腕を押さえ付け、無理矢理成そうとしているにも関わらず、未だ優しい声色へ、どうしたって甘えてしまう俺は、いつか全てのジェラシーを捨て、格好付く大人になれるだろうか。感情の最中、力の加減を忘れてしまわぬうちに、掌で覆っていた手首を解けば。するり、白魚のよう滑らかな指先で、この頬を撫でられる。これじゃまるで、あやされる猫だ。
『……俺に隠れて他の野郎に会うんだろ』
「……え、」
図星を付かれた、そんな表情とは言い難くも、微妙な陰りを落とすその瞳は、何を想っているのだろう。
『すまん。さっき、電話してたのを聞いちまった。正直言っちまうと、浮気は、きつい』
「…え、やだ、聞こえてたの」
『見えない所でなら、仕方がないとも思った。でも、やっぱ無理だ。そもそも、こんなオッサン相手なら、いつか他に
「だからね、若槻さん、」
『でも、はっきり解った、今更お前を手放すなんて考えられん。俺はどうやったら、お前の傍に居れる、頼む、教えてくれ』
言い終わらぬうち、この腕で彼女に覆い被さり、きつくその身を抱き締めるのだ、きつく。女々しい声を上げた手前、そろそろ本当に愛想を尽かされる覚悟をした。心臓の躍動が、今までにないくらい勢いを増して流るる。それは、冷や汗すら湧くほどに。すると、冷たい汗とは裏腹。小さくも、確かな温もりを以て、背に腕が回されていく。温かい。
「もう、話し聞いてってば」
『……』
「隠そうとした私も悪いけど、あなたもいい加減な勘違い起こすんだから」
小さく吹き出した息が頬を掠めた。心地の良い声色でされた説明はこうである。何でも、春に東京ドームで行われる セ・リーグの開幕戦チケットが連番で二枚当選したらしい。毎年、毎年、電話やネットを使って抽選応募するも、恐ろしい倍率から、当たり前に振られ 肩を落とすのが恒例行事と化している。そんな時だ、チケットを取る為、彼女は片っ端から人伝に頼み込み。人数を増やす事で 一人一回の抽選応募の枠を無理矢理増やしたのだと言う。割とズボラな俺から見れば、大概狂気的な行動力と思えた。そして最後の謎解きである、先に耳へ届いた電話の相手は、関林であったのだ。
「他にもね、金田さんに氷室さん、大久保さん、イーティーシー、イーティーシー」
『…さすがにやり過ぎじゃないか』
「開幕戦よ、これだけの人数で応募しても、連番で取れたのは関さんが応募してくれた枠だけだったんだから」
“舐めたら駄目”と、説法を聞かされるが、そもそもだ。特に野球なんて興味のない彼女が何故、こうも必死となるのか。さすがに互いに裸で居るからか、表面の皮膚が冷えて来た。俺は無造作に足元へ追いやっていた毛布を一枚引っ張て、細い身体へ掛けてやる。
『だからって何で、そこまで』
「――好きだからよ」
『……』
「野球ね、本当は全然詳しくないの。けれど、あなたは好きでしょう」
身体に重ねた毛布の所為か、彼女の白色の肩が紅みを帯びていく。連れ、自身の体温が上がるのも、気の所為ではないだろう。
「空手もそう、あなたの事、詳しくなりたいなって、この前 入門書も買ってみたりね。……やだ、愛想尽かされないように必死なの、今のでバレちゃった」
恥ずかしい、と苦笑を溢し、包めた毛布を深く被る様が なんて愛おしい。いつだって、振られ背を向けられるのは自分の方だと疑わなかった。しかし彼女もまた、自身と同じ気で居たのだ、そう思うだけで 胸の締め付けが酷く甘さを増していく。規格外の身体とは違った内面、しかし、その等身大を好いてくれている事実を愛と言わずして何と言えばいい。――…それならば、言いたい事は、きちんと伝えた方が良いに決まっている。一呼吸置いたあと、先程まで喉奥に詰まらせていた声を、ただに預け寄せるのだ。
『名前』
「なあに」
『俺の事、好きだよな』
「勿論、好きよ」
『その…あ、…愛してる』
「私も」
『傍に、居てくれ』
「一生、なんて言ったら、重いかしら」
自身が問いたい事柄は、声にしてみれば、案外簡単な物と知る。深く被った毛布を摘み、彼女の綺麗な瞳と視線を重ねるのだ。柔らかに微笑む唇へ、掠れる程度の軽いキスをし。『俺の方が重いさ』と、仰向けの彼女へこの身を覆い投げれば、「苦しい、苦しい」と可笑しそうに笑う。本音を言えたついでだ、開幕戦へは、ペアルックで行こう、そう提案したら、彼女はどんな表情を魅せるだろう。