HUNTER×HUNTER
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面倒だと思われるのが嫌で、嫌で、仕方がなくて。今にも溢れてしまいそうな、瞳に溜まった水を。必死と落とさぬよう、奥歯を噛み締め堪えて居たのに。次に放たれた彼の億劫たる声が、ついにそれを雫として地へ落とすのであった。
『はあ、…面倒くさ』
私の“心配”を
「どうしてそんな事言うのよ、私、あなたの事が」
『余計な御世話』
「………心配する事すら
『赦すもなにも、始めに教えたよね』
―――伝説の暗殺者一家、ゾルディック家。以前だ、いざと言う時のため、幼少の頃より毒や拷問の
『そもそも骨一本折れたくらいで仕事に影響出る程、アマチュアじゃないし』
「…仕事、行くの」
『行くよ、割に合わないけど。このタイミングでヒソカから依頼受けちゃってるしね』
『そうだ、あとで依頼額の交渉しよう』と、独り言のよう呟いては。深く黒色の眼が、静寂を刻む壁掛け時計に向けられる。恐らく間もないうち、拠点として
「……イルミ、私はただ」
痛み一つ感じる様子のない彼と視線を絡める。するとどうだろう、まるで、彼の以つ痛みが私の体内に流るるよう、肌に埋まる波打つ躍動が早まって。痛くて、痛くて、仕方がなくなる。しかし、言葉の続きを早くも悟ったのか。彼は今日二度目の大きな溜息を付いては、その綺麗で艶やかな黒髪を乱暴に掻いてみせるのだった。
『泣くとか有り得ないんだけど』
「…ごめ、ごめんなさ、…」
『嗚呼、そう言うの無理。ていうかもう、出てって来んない』
―――出てけ。心配する事も、傍に居る事も。もう何も、何も、何もかも駄目ならば。私が彼と居る理由なんて、ほとほと見当たらない気がした。そう脳内を巡った瞬間である、先まで湧いて止まらずにいた瞳の水膜が、徐々、静かに乾いて行く感覚がした。
『勝手に泣いてる人間を慰めるほど、暇してないし、俺』
確かな終わりを意とする瞳の乾きは。足早に駆ける躍動をも落ち着かせる物で。視線を外した彼の瞳は今、私の知らない行く末へ充てられている。驚くほど静かになった心臓は、体を循環する血液の熱さえ奪い去り、そうしてこの身を冷やして行くのであった。そんな冷えた身で立ち尽くしていれば、視線こそ
『俺の話し聞いてた、いつまで居る気』
冷たな声を境、金縛りに遭っていたよう重たい身体がようやくと動いた。彼は言った、“いつまで居る気か”と。もう、その“いつか”は―――何処を探したって、無い。
「さようなら、イルミ」
『は?』
短く告げた別れの言葉。あれだけ共に居たいと願っていたにも関わらず、自身の口から容易と溢れたそれは、あまりにも空虚で、呆気ない物。突然のそれに、背を向けていた彼が聞き返すよう振り向けば。黒色の深い瞳は、兎に角、次の言葉を望んでいる。
「駄目ね私、あなたの隣に居る覚悟、全然、足りてなかったみたい」
『なにそれ』
「傷付くあなたの傍に、平気で居られる程、強くなくてごめんなさい。だから、さよならしたい……ごめんなさい、」
『意味解んないんだけど』
言葉の最後は、僅か、苛立ちが籠もった物だった。常、感情を剥き出しにする事など殆どない。情事の時だってそうだ、耳に届くは上から落ちて来る吐息だけ。好きだ、愛してる、そんな
『勝手に心配して勝手に泣いてさ、挙げ句にさよならってなに。俺の事振り回してどうしたい訳』
「耐えられないの、イルミが傷付く姿。見てると苦しくて仕方がないのよ……せめて心配させて欲しいけれど、それも叶わないんでしょう」
『別にお前に迷惑掛けてないじゃん、いちいち、大袈裟なんだよ』
―――苛々、苛々。徐々に剥き出しになる感情が声色に現れて、空気を揺らしていく。
「あなたにとっては大袈裟じゃないかも知れないけど、私は、」
『嗚呼もう、うざったいな…!』
言葉の端は、彼により制された。苛立ちそのままに、張り上げた声と共。彼は無傷の左腕を伸ばし、私の手首を掴むのだ。冷たい掌の感触は、少しばかり汗ばんでいて。それが怒りからくる物なのか、はたまた焦燥から来る物なのか定かではない。それでも、次に彼の唇が開くと同時、それが両方の意を成す事と知る。
『じゃあなに、これから先、一生。俺が怪我しませんよって今ここで誓えば、さっきの“さよなら”撤回するって事でいい訳…!』
「―――……」
『なに、その顔』
大になった声のあと。静まり返ったホテルの一室には、時計の秒針音だけが、ただ時を刻んでいる。投げ掛けられた彼の言葉に、思わず瞳を丸くした私を視るや否や。深黒の瞳が怪訝そうとこちらを覗いていて。だって、そうだろう。
「“一生”、……居てくれるんだって、思ったから……」
きっと、この頬は紅潮帯びて居るに違いない。彼の眼に、私という人間がどう映っているのか、ようやく解った瞬間だった。彼と言えば、先に勢い任せと自身が口にした言葉を思い起こしたのだろう、そうしてその細い眉を 酷く歪ませては、大きな息を一つ。
『っとに、ムカつく…………もしかして、ハメた?』
「まさか」
唇を尖らせた彼はまた、視線を外して。分が悪そうに頬を掻いている。そんな様子に、何だか小さな悦びを感じてしまう私は、おかしいだろうか。
「イルミ」
『ん』
「私、傍に居て、いいのよね」
『
前言は撤回。さよならに、さよならをする。後、私は、彼の傷付いた右腕へ そっと指先を伸ばしては。薄い硝子を扱うよう、その皮膚に寄り添う。なんて、熱い。―――初めて、初めてだった。彼の芯在る熱に、触れた気がしたのは。