HUNTER×HUNTER
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すっかり
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『遠慮なんかしていない』
「いいから、ほら、後ろを向いて」
この呆れたやり取りが、今夜を以て、幾度目になるか解らない。風呂上がりの事だ。以前、長い毛束でも速乾するというターバンタオルを購入し、彼へ預けた事があった。濡れた髪の毛先までをきちんと覆い、水分を超吸水する優れ物である。数分放置するだけで、仕上げのドライヤー時間を短縮出来るといった利点が、世間の女性たちの人気を博している。勿論、女性に人気、と云う点は伝えていないが。
「私が乾かしたいのよ、ね。一生のお願い」
何の記念日でも無いただの日。青のリボンに奇麗と包装されたターバンタオルを手渡せば。視上げ繋いだその瞳が、解り易く揺れた事を今でも鮮明に思い出せる。後、“すまん、今日は何の記念日だ”、“埋め合わせはないがいい”と慌て繕う姿もまた、思い出しただけで胸に陽が灯る。
『お前の“一生のお願い”は、一体、何度使えるんだ』
「羨ましいでしょう」
『………全く、叶わないな、好きにしてくれ』
「ありがとう」
この恋人は、予想以上に。私が預けたさり気ない物を大切にしてくれる人だと知った。直近のタオルは、晴れの日に洗濯をする際。長く使えるよう柔らかなネットに入れてくれたり。その前は、特にデザインを気にしない白色のトップスだったか。手間の掛かぬよう、アイロン要らずの物を渡したはずなのに、律儀な事だ。干して乾いたあとは、毎度。皺のない生地へ、大事そうと熱を充てる
「ドライヤー充てるわね、熱かったら云って頂戴」
『了解』
今夜もまた、彼は私に髪を乾かす事を赦してくれた。常、“自分の事は自分で出来る”と云って聞かない。けれど、こうして少しの駄々を真似ると。最後は必ず、やれやれ、そう瞼を伏せて折れてくれるのだ。だって、このさらさらの髪の毛を幾人が触れられよう。親しい仕事仲間、家族、友人。そのどれにも当てはまらず、特別に位置しているのが恋人である。私は彼の、恋人である。
そうして、彼と共。ラバトリーからドライヤーを持ち出して。二人、リビングのソファへ腰掛けるのだった。長い長い髪の毛だ、乾かすのに時間を要すし、背の高い彼の髪を
「ターバンタオルにしてから、少しだけ乾きが早いように感じるわ」
『お前のお陰だ。この髪を乾かすのに、だいぶ時間が掛かって仕方がなかった』
細い毛が絡まぬよう、指で
「星みたい」
『………星? ブラインドはさっき閉めたはずだが』
「違うわ、あなたの髪の事よ。銀色に流れていくの、星みたいに」
『新手の口説き文句みたいだな』
「何度だって、口説くわ、好きなんだもの」
『………参ったな』
羞恥が勝るのか、ふい。ほんの少し俯く彼の耳元が
『名前、』
「な、に……」
駆け足になる、肌に埋まる心臓は、痛み。この痛みは、熱になり、想いになり、愛になって。
『一生のお願いなんて、無縁な物だと思っていた。それでも、もし赦されるなら』
贅沢な夜だった。尤も、月の姿が無い、贅沢な日。夜の主役とも云えよう、月灯りは
『傍にいてくれ』
「
『厭か』
「厭な訳ないじゃない。星が、落ちてくるみたいで、とても温かい」
『……いい、夜だな』
贅沢な日だった。だって、宇宙に在る全ての星を集めたみたいに、ここには。銀色の耀りと、あなたしかいないのだから。