HUNTER×HUNTER
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傷は浅い。よくよく凝視した訳ではないが、ちらと視た所、肌色のストッキングに少し血が滲むくらいで済んだようだ。―――ヨークシンシティ、幻影旅団は予定通り、オークションへ潜入。そこへ参加していたマフィアらを一人残らず殺害すると言う強行に出た。我々、ネオン護衛団を務めたノストラードファミリーの面々も、其処、地下競売での襲撃に遭い、無惨にも死亡を確認している。なんて、なんて、惨事なのだ。
「クラピカ、クラピカってば、」
『黙れ、訊こえている』
散々な襲撃から逃れた彼女は、それでも片足に銃弾を浴びていて。これ以上護衛が減ってはいよいよ収集がつかない。兎に角、一旦態勢を整えるため、私は彼女を担ぎながら、拠点とするホテルへ、今、こうして駆けている。
「こんなの掠り傷よ、下ろして、普通に走れるわ」
惨劇の最中、
『断る。ホテルに着いたら、センリツに怪我の手当をして貰え』
「……」
『返事をしろ、訊こえなかったか』
「解ったわ」
強く促せば、渋々ながらも大人しくなる。初めからそうして居ればいいものを。全く。―――綺羅びやかなヨークシンシティ。安寧の裏で繰り広げられる襲撃とは、酷く掛け離れた潤いある街だ。ブランド物の服飾、靴、ジュエリー、眼に映る様々な物たちが、月にも負けぬほど。煌々と耀き帯びている。人々もまた、男女で共に在る事が多く、手を繋いだり、腕を絡ませたり、肩を寄り添いながら、夜の街を愉しんでいるように視えた。対して私たちはどうだ、緩やかに流れる時の中、彼女を担ぎ駆け足で居る。当たり前だが、自身より軽い人間を運ぶのは容易い、けれど、長距離を走るには、息も段々に苦しくなってくるもの。そんな異質な光景に、はたから見れば、人たちは首を傾ぐ事だろう。穏やかな街を焦燥に駆け抜ける、二人組、全く、笑わせてくれる。そうして、乱れる息のもと、道行く何人かの恋人たちをこの眼に映した時である。ふい、今ある状況に、突如、別の焦燥が湧き上がるのだった。それは。
『す、すまない、』
「え、……あ、やっぱり重いわよね、大丈夫よ、私の事は下ろして」
『違う、軽い…!』
意識してしまえば、なんて馬鹿馬鹿しい。思わず声が大になってしまったではないか。彼女もまた、響く私の声に無意識と身体が反応し、肩をぴくりと震わせた。―――きっと初めてだ。異性と手を繋ぐ機会さえなくここまで来た。それが今、ヨークシンシティの街の中、溢れる恋人たちに紛れ。彼女をしかと胸へ抱き、ブライダルキャリーをしている事実。恋人なら手を繋いだって、腕を絡ませたって不思議でも何でもない。だが、危機的状況下にしろ、知り合って間もない女性である事に変わりはないのだ。彼女からしてもそうだ、よくよく素性も知り得ない、自身の事を頑なと口にしない男に急に抱き上げられては。支えるためにと肩や腿まで触れられている始末。なんて、なんて事をしているのだ、私は。
『緊急とはいえ、軽率だった』
「え、」
『恋人でもない女性の身体に、許可なく触れてるなど、どうかしている』
「……」
『君が下ろせと言うのも真っ当だ、不快な思いをさせて、すまなかった』
拠点としているホテルが眼の先に視えた。ここまでくれば、多少なりとも慌てず歩いたっていいだろう。競売で、仲間が無惨に殺された
「いいえ、本当はね、痛くてどうしようもなかったの。助かったわクラピカ、ありがとう」
『いや、君が無事ならいい。ホテルまですぐだ、歩けそうか』
「ええ」
やや片足を引き
「そういえば、街中、恋人だらけだったわね」
『………そうか、私は。特に気が付かなかったが』
真っ赤な嘘である。本当は、待ちゆく男女を眼にした果て、腕に抱いた彼女を意識してしまったのだから。嘘とばれぬよう、声色に十分注意し、その問いに応えてみせれば。街の光の所為だろうか、彼女の溢す笑みが、それは柔らかくて、温かで、心地良く思えた。同時、先までの焦燥も、ぶり返すに容易い。
「あらそう。素敵だったわよ、私たちみたいにね、お姫様抱っこしながら。ブライダルフォトを撮っていたカップルが居たの」
『……成る程、それで?』
「私を抱き上げてくれたクラピカが、タキシードを着た新郎に視えちゃった」
『な…っ……』
熱い、夜なのに、何故、こんなにも熱い。その熱さは、決して陽の所為ではない事も了知。彼女の言葉ひとつで、芯から燃えるように上がった体温は、頬を紅潮させるのに十分だった。私は無意識、隣を歩く彼女から視線を外す。そうでもしなければ、羞恥でどうにかなりそうだったのだ。対し、彼女と言えば、特に意識などしていないよう。街に吹く涼しい風を浴びながら、ホテルへ脚を向かわせている。情けない私は、驚きで狭くなった喉から、途切れ途切れ。ようやく声を出すので精一杯だと言うのに。
『生憎、君と私は恋人でも何でもない』
「……」
『任務中に、これ以上私を混乱させるのはやめてくれ』
ホテルに着いたら、センリツが居る。この
「なら、この混沌が終わったら」
―――この躍動は、どうも隠しようがないらしい。
「終わったその時、お互いきちんと生きていたなら、ドレスを着るわ。そうしたらまた、さっきみたいに、私を抱き上げてくれる」
『検討しておく』
心音じゃなくても。女性の感とやらは大概良く当たるらしい。私の胸の内側も、彼女が知り得るに
『やはり、その、白……がいいのか』
「やだ、クラピカ、のりのりね」
『もういい、黙ってくれ』