HUNTER×HUNTER
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ヨルビアン大陸西海岸都市、ヨークシンシティ。夢、ファッション、経済、様々な発信力があり、観光地としても実に有名所だ。刺激、多様性、自由に溢れていて、一度は観光で脚を運びたいと思う者も多いだろう。そんな日々ハイペースと前進し続けるこの街で、毎年九月に行われる催しが、世界最大の“オークション”である。開催月となる九月には、財宝を求め世界各地より人が集まり大いに賑わう。さらに、オークション開催期間の十日間は、ヨークシンシティのあらゆる場所で大小様々な競売が行われる仕様にあった。
「日中は賑わってるから平気だけど、夜はあまり治安良くないみたいよ」
最大オークションへは、入場料だけでも千二百万ジェニー。到底馬鹿馬鹿しいよう聞こえるが 勿論、暴利などではない。集められた品はひとえに、財宝、アンティーク。そんな金を積めば手に入るような在り来りな物ではなく、要はマニア向けの珍品、貴重品が主。中には犯罪組織による闇のオークションも多数存在し、それに掛けられた競り目当てで、金持ちや一攫千金を狙う輩が集まり、最大規模の大競り市になると言う。
「犯罪も横行するって聞いたけど、あなたが居れば平気よね」
『愚問ね』
幻影旅団は予定通り明日、オークション会場へ潜入する。会場内の客、マフィア、有象無象を殺害し、オークション品全てを手中に納める運びとなっていた。今夜はオークション前夜、事を成す前の最終的視察と言った所である。出掛けの前、アジト内で重たい腰を上げた彼は、面倒な面持ちを隠そうともせず。さらには
「あ、ねえ見てフェイタン。あそこのお店、キラキラしていて可愛い、何屋さんかしら」
『さあ』
最終的視察、恐らくは特に何の問題もなく終わりを告げるだろう。せいぜいあと一時間しないうち、この任務から撤収し明日に備える事となる。当然、特段重要と思えぬ任務は、どの団員も皆面倒がって行きたがらない訳で、ペアはコイントスで決めた始末。彼の眉の潜め方と来たら、酷い物だった。―――しかし、私は違う。私にとって今夜の任務は、明日のオークションと同価と言っていい。目的である煌々と輝く財宝、世界に一つしかない珍品の押収は勿論重要だ。だが、それに劣らず今在る状況こそ、値の付けがたい空間に相違ない、そう、私にとっては。
「フェイ、どうしよう。これ、デートよね」
『これの何処がデートか。コインで決また、偶然よ』
「偶然でも嬉しいの。フェイとヨークシンの夜、二人きりになれるなんて夢みたい。やっと恋人らしい事が出来たわ」
『恋人らしい事、ね』
彼と恋仲となり暫く経つも、旅団内で知る者は居ない。日々の任務と度重なる戦慄に、甘い雰囲気に成る時間はおろか、二人きりになる機会にすら恵まれずに居た。当たり前だが少しの触れ合いだってない。そんな時だ、こうして偶然にも夜景が流るる夜に、恋人と並んで歩けるなんて、夢のよう思える。高揚する気を隠せず居る私とは裏腹、彼は表情一つ崩さずに。ただ前を見据えて歩を成すのだ。それでも、それだけでもいい、限られた時間だが、恋人の隣を歩ける。貴重な時の流れは、どんな財宝にだって叶わない事、今が幸せなら、それでいいのだ。
『さきの』
「ん、」
『ジェラート売てるらしいよ。名前が言てた、あの店』
「ええ、そうなんだ、美味しそう。ちょっと買ってきてもいいかな」
『律儀ね。仮にも盗賊なら盗む一択よ』
「もう、オークションは明日なの。こんな所で目立って居られないじゃない。ちゃんとお金払って来るから、あなたはここで待ってて」
煌々と。燐き帯びる夜の街。恋人と静か、歩を進め、甘い甘いジェラートと口にする。なんてデートらしいのだ。思わず、浮足立つ身体は。気付けばスキップでもしてしまいそうだった。
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「フェイ、お待たせ。どっちがいい、苺とチョコ」
『…何でワタシの分もあるか。頼んでないよ』
赤、黄、青。装飾された、クリスマスでも彷彿させる如く光 輝く樹の下。彼はベンチに腰を下ろし、本を片手にそこに居て。人気店だったのか、注文から会計までだいぶ時間を要した事もり、案の定。彼の眉間の皺は濃くあった。
「あなたと一緒に食べたかったの。ね、どっちがいい」
『………苺』
細い溜息の後、読んで居た本を閉じては、代わり。その繊細な手がこちらへ伸びるのだ。可愛らしい紙のカップへ乗った冷たなジェラート。半ば無理矢理と差し出せば、受け取る彼の指先と、微か触れた。瞬間、底より上がる体温は、手にするジェラートを熔かしてしまいそうな程に、心臓を足早にさせる。こんな些細な触れ合いで躍動が大きくなってしまうのだ。いざ唇を重ね、身体を合わせる時が来たならば、どうしたって心臓一つでは足りないよう思える。
『…甘、』
「甘くて美味しいね」
しかし、偶然が重ならなければこうした時間と空間は生まれない物。次の機会に恵まれるなど、そうそう無い事だ。折角の二人きり、少しばかり関係を進展させたい、そう思いを馳せて居るのは私だけだろうか。―――ふと、思う。そもそもだ、彼の口から好きだの、愛しているだの。ジェラートのよう甘い言葉なんて一言も耳した事がない。今夜の任務だってそう。面倒な面持ちと眉間に寓せられた皺に、僅か、心に
『……名前、』
「あ、やだ、ごめんなさい。どうしたの」
『ジェラート、熔けてるよ。ささと食べた方がいいね』
「………そう、ね。何だろう……自分で買ったのに変なの、あまりお腹空いてなかったみたい」
嘘を付いた。不明瞭な不安に今にも胸が潰されて、喉奥へ上手く通って行かないのだ。金を払って置きながら、駄目にしてしまうなんて。混雑に彼を待たせた挙げ句、結局要らないとするなんて。何をやっているのだろう。ふい、ベンチの上に架かるよう樹の枝、其処へ装飾された色とりどりの煌々たる光が、電波障害か何なのか、ちかちか点滅しては、一つ、また一つと消えていく。淋しく消え入る 光の装飾のよう、徐々に暗く成る
「アジトに戻ろうか、特に何の問題もないみたいだし」
辺りが暗くなったベンチから、立ち上がろうとした時だった。彼の掌が、私の手首をしかと掴まえたのは。驚きと共、バランスが崩れた手元より、
「フェイタン…」
『払うよ』
「え……」
『ジェラート。案外、旨かたね』
「い、いいのよ、お金なんて。私が押し付けたような物だから、安かったし。私の方こそ、付き合って貰っちゃってごめんね」
触れられた皮膚が、熱くて、熱くて、仕方がない。離れようとするも、それは頑なに彼の力で制されるのだ。彼の行動が
『誰が金で返す、言たか』
「……」
『“恋人らしく”』
引かれた手首ごと、身体は。彼の腰を下ろすベンチに寄せられた。咄嗟、短な悲鳴と共、態勢を整えるよう着いた掌の先は、彼の固い胸板。そこから伝わる、波打つ躍動の早さが、全ての応えを教えてくれている。好きだの、愛している、だの。そんな物は要らなかったのだ。近付いた額、黒色の髪の毛が、肌を
『身体で払うね』
重ねた唇は、冷たくて。仄か、苺の味がした。