HUNTER×HUNTER
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『何が楽しくて、このクソ暑い中歩かなきゃならねえんだ』
「いいじゃない、暇だったでしょう」
『酷でえ女』
そう、あからさまと溜息を
『炎天下の中 連れ出しといてよ、自分だけ日陰を歩きやがる』
「陽に焼けちゃうじゃない」
『俺だってそうだ』
「え、ノブナガも日焼けとか気にするの」
黙って居ても汗の落ちる炎天下の夏、爪先が赤紫に悴み震える真冬。どの季節だっていい、こうして男と女が二人揃って歩いて居る時、周りはどう視るだろう。細い街の歩道、上手く見つけた木陰を頼りにする彼女をちらと横目で捉える。首筋に浮かんだ薄い汗が、木漏れ陽に照らされ煌々としていた。奇麗だった。
『馬あ鹿、普通に暑ちいんだよ。俺にもそっち歩かせろ』
「あ、やだ、くっつかないでよ、変態」
『お前なあ』
汗をかいている癖、触れた肌は冷たい。皮膚の熱に明らかな差を感じると、無意識に落胆してしまう。きっと、意識しているのは自分だけ。小さな歩幅に合わせ、時折ふざけて身を寄せて。他愛も無い会話を繰り返す。現状、端から視ればどう映る。仕事仲間、友人、はたまた兄妹。否、恋人であって欲しい、そう思うのは。きっと、俺だけで。先に感じた肌の熱が、
『それで』
今の時代、子供だって暑い日射の中、わざわざわ外遊びを選んだりはしない。ここ数年の暑さは異常。毎年、熱中症で救急搬送される人間は約九千人に上り。うち四十人は簡単と命を落とす。それ故、余程 外出する理由がある奴を覗き、殆どが冷房の効いた室内に居る事だろう。誰だって死にたくはない。それなのに、だ。空調の整った心地良い部屋で身を横にして居た俺を半ば無理矢理引っ張っては。こうして炎天下を歩かせる彼女。
『何で連れ出されてんだ、俺』
妙な淡い期待を寄せてしまったのも束の間。この場合、
「今日はね、買い物に付き合って貰いたくて」
『買い物…、』
律儀に復唱してみるが、ただ単、呆気に取られただけである。そもそも買い物なら、何を買うにしろ女同士が一番いい。服、小物、香水、靴。この色が似合うわね、あれもどうかしら、なんて。買い物と言うのは、物を手にした瞬間と同じくらい、そこに至るまでのプロセスが愉しいと、訊いた事があるような無いような。いずれにしろ、むさい男を捕まえて行く買い物など、その愉しさに意味があるのかすら解らない程に。
『それならパクやマチと一緒に行きゃあいい、シズクだっている』
「駄目よ、こんな炎天下の中歩かせたら、具合悪くなっちゃうでしょう」
『おいおい、俺への配慮はねえってか』
「ノブナガは頑丈だから、どうせ」
どうせとは、何だ、どうせとは。要は女共へは気を遣い、誘うに誘えなかったと言う訳か。先、少しでも淡い期待が募った胸の内には―――脈なし。そんな言葉が擦れ過る。
『そういや何買うか、訊いてねえな』
「そう言えば、そうね」
そう。無理矢理引っ張られた割、買い物の行き先すら告げられずこうして居る。一体何処へ向かっているのか。そうして暫く歩けば、大きな通りが視えて来て。其処、栄えた街通りには、幾つもの洒落た洋服店や宝石屋、靴の専門店など様々に在る。ふとその時だった、ここでようやく、事の運びに察しがついたのは。
『成る程』
「え、」
『俺あ、さながら荷物っつう事だ』
「………」
『相当重い
額から玉汗が落ちる。地面に転がった雫は、熱により瞬く間に蒸発。陽炎さえ視える炎天下だ、女に荷物持ちなど頼めるはずがない。一人合致がいき、二、三度大きく頷くと、また。今度はこめかみに伝う汗が、はたはたと垂れる。暑い。
『いいぜ、何処行きてえ、ウボォー程じゃねえが、力には自信がある』
彼女が行きたい店で、欲しい物を選び、終わったら荷物を俺が受け取る。想像に容易いそれは、茹だる暑さの中でも瞬時に導き出される程、簡易だった。後、丁度大きな通りへ入った時である。次に届いた彼女の声に、思わずこの耳を疑った。
「海」
『…………は』
何を言っているのだ。此処は洒落た店が並ぶ大通り。松林の生えた海は全くの逆方面である。暑さの
「海へ行きたいの」
『いやお前、海行きてえなら、街くる意味あったか』
「勿論、あるわよ」
『………』
木陰が消え、照りつける陽の下を二人並んで歩く。応えは、暑い、暑い、夏が教えてくれた。ほんの少の、恥じらいの色を以て。
「水着を買いたいのよ、私、一着も持ってないから」
『………はあ』
「それでね、ここでお洒落で可愛い水着を買って、海へ行きたいの」
『………おう』
「ノブナガと一緒に」
『………お、…………オ゙?』
俺と? そんな短い声にも関わらず、喉奥に言葉を詰まらせてしまい次が続かない。慌てる姿を見、彼女はまたもや愉しそうとするのだから、まるで格好が付かない。もう、暑さの、陽炎の所為にしていいだろうか。格好が付かないのも、淡い期待も、一方的な想いも全部。全部、夏の暑さの所為にしてしまいたい。
「付き合ってくれない」
『………そいつは、海にか。それとも、』
“恋仲になる”の意か、なんてのは、どうも切り出し難く。しかし、繋げる矢先。彼女の細い指先が、この手に触れる。先ほどまで冷たな体温だった彼女の肌。それが今、自身と同じくらいの熱で居た。問わずとも、応えはそれで十分で。―――陽炎が揺らめく中、海への道を二人、遠回りする。暑い。