HUNTER×HUNTER
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烈しい運動をした訳でも、無理な体勢をとった訳でもない。それなのに、この酷い筋肉痛ときたら、恐らく三日はまともに動けないだろう。―――ヨルビアン大陸を中心に暴走を続ける蟻、キメラアント。中でも少し頭の出来た蟲たちは、外部に情報の漏れない地域を絞って侵略を成しているとか。事実、そんな事は大した問題ではない、ただその地域の一つとして占拠された土地が、かつて自身らが身を置いていた街、流星街となれば、話は別である。
『相っ変わらず、灰とゴミの匂いに埋もれた街だよ……痛てて、』
古巣に住み着いたキメラアントを討伐する際、アンテナによって動きを制した所までは完璧だった。しかし、ほんの少しの安堵が生んだ隙が仇となる。今、思い出すだけで溜息が漏れるほど。動きを封じたと思ったそれは
「シャル、良かった、無事で」
『生憎、無傷じゃないけどね』
正直使いたくなかった奥の手だった。その
「傷見せて、マチじゃないから裂傷は治せないけど、応急処置くらいは出来るから」
恐らくは、現在。フェイタンが女王を名乗るサソリ型のキメラアントと一戦を交えている頃だ。他の連中も、早々に討伐を済ませ、見物がてら同様の場所へ向かっているに違いない。自身も高みの見物といきたい物だが、何せ身体の隅から隅まで鉛のようなのだ。―――競争。フェイタンが負ければ、別の誰かが討伐に繰り出す約束となってはいるが、そもそも、彼が負けるなど有り得ないのだ、自身に順番が回ってくる事はないだろう。となれば、今は
『ああ、無傷じゃないってのは、あくまで筋肉痛の事』
「自動操作モードにしたの」
『そ。本当は使いたくなかったんだけどね、身体、こんなんなっちゃうし』
「そう、傷じゃないなら平気ね。筋肉痛なら二、三日で回復するでしょう」
彼女は安堵の表情を浮かべた
『フェイタンの戦闘、見なくていいの』
「いいの、どうせ勝つでしょう」
『俺も。名前と同じ事思ってた』
この匂いが好きだ。灰と、血と、ゴミ溜まりの匂いに慣れた鼻。新鮮な空気など吸った記憶なんて無い。しかし、彼女と居る時は特別なのだ。無惨に転がった死体で溢れる場所、地に張り付いた血液が窪みを作る場所、頬に浴びた返り血が乾く風の強い場所。どんな濁った場所でも、彼女が傍に居るだけで、不思議とその場は 澄んだ空気へ変わっていく。まるで、水光が煌めく穏やかな湖の
『名前』
「…やっぱりどこか痛むの」
『うん、ごめん、痩せ我慢してた。悪いんだけど、ちょっと傷見てくれる』
“大変、見せて” 思惑通り。慌て、彼女がこちらへ身を寄せた際。触れた白色の肌を捕まえる。短な悲鳴を上げた彼女の 細い綺麗な髪を掻き分け、後頭部へ回した掌。咄嗟、体勢が崩れぬよう、この胸に添えられた小さな手が、確かな温もりを与えてくれている。
「……シ、シャル…、傷は」
『本気にした?』
いい、匂いがした。引き寄せた細い身体は、少し力を加えたら簡単に折れてしまいそうで、か弱くて。所々触れる体温に上昇の
『ねえ、キスで治して』
「……筋肉痛は、キスじゃ治らないわよ」
『試してみる』
何か言い掛けた彼女の薄い唇に、自身のそれを重ねていく。瞬間、頭の天辺から足の爪先まで、素早い電流が駆けた気がした。淡色の唇が、心地良く肌に纏まり付いて、底に疼く熱を押し上げていく。戦闘を終えたばかりだと言うのに、アドレナリンが
「――待っ、…シャル、……んう、」
『困った顔しても駄目、それじゃ俺が悦ぶだけだよ』
「……やっ、…シャル、ナーク…ってば、…」
『不思議だ、筋肉痛、治って来たみたい』
「嘘ばっかり……んっ…、」
胸に充たる彼女の手を取り、自分の指先と絡めていく。繋いだ指は、熱くて、柔らかで、やっぱり、いい匂いがした。そうして彼女の後頭部を抑えたまま、覆い被さるよう、地に押し倒す。笑える程に、酷い、筋肉痛だった。
『本当だよ、何なら確かめてみる』
「……」
『どれだけ俺が動けるか』
ふいに反れた彼女の視線は、四つ這いに膝を着いた俺の下腹部へ充てられていた。幾ら身体が鈍い痛みに包まれようが、こちらはお構い無しに動けるようで。布を通して解る、その張り合いに、彼女の頬が紅潮する様子が 己をさらに掻き立てる。“嫌”そんな言葉は聞こえない振りをして、先まで合さっていたこの唇を 彼女の白色の首筋へ落としていく。赤く、赤く、染まればいい。体内を流れる血のように、赤く。
「あっ、駄目、シャル…っ…」
―――無惨に転がった死体で溢れる場所、地に張り付いた血液が窪みを作る場所、頬に浴びた返り血が乾く風の強い場所。どんな濁った場所でも、彼女が傍に居るだけで、不思議とその場は 澄んだ空気へ変わっていく。まるで、水光が煌めく穏やかな湖の辺のように。そこに咲いた、揺れる一輪の花のように。甘く、柔らかい、澄み切ったそれ。ならば。
『好きなんだ』
それを汚すのが、大好きだ。育った場所を恨んじゃいない、けれど、身に
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