トリコ
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――…安らぎが欲しかった、記憶が欲しかった。時折、胸を
煌々と、辺り一面まるで宝石に抱かれるよう その場所は。凶暴な外見からは想像出来ない程に美しかった。広大なリーガル島に生息する、リーガルマンモスの体内、捕獲レベルは四十八と 人間界にしてはなかなか凶暴だとも。GTロボの操縦時、当たり前にだが自身が無傷となるよう 痛覚は遮断するのが常。しかし何故だろう、奴との拳の交えは 明らかに生身での戦闘を欲する事。
『“洞窟”の砂浜以来か、生身で逢うのが愉しみだ』
GTロボから身を離し、血で汚れた口元を拭う。久々、抑え切れぬ高揚が全身に電流の如く駆け巡るのであった。しかし、GTロボと生身では、こんなにも自身の動きに誤差が生じる物か。機器の精度を上げるよう、あとでジョージョーに伝えて置くとする。そうして、シバの兜をこの手に取り顔元へと身に付ければ、鉄の匂いが鼻を
『なかなか、良い時間となった』
気晴らしであるGTロボ試乗のあとは、任務が待つ。目的地へ辿る為、予めと呼び付けて置いたビックバンシャークの元へ向かおう。一つの光もない、黒黒とする美食會本拠地を背にすれば。黒い、黒い、影。大きなそれは、空へ不気味に浮かんで居る。そんな獰猛な獣に、既、一人が身を乗せていた。
「スタージュン」
不思議だ、以前から私の言う事しか聞かぬと思っていた猛獣が 彼女の声を聞き背に乗せるなど。恐らくはタイミングを図り、ここ、美食會本拠地の入口へ、この影を連れて来たのも彼女である。
『随分と
「匂いを覚えたのよ、前より、余り警戒しなくなってくれた」
そう言う物なのか。関心と疑心を含んだため息を溢し、自身もビックバンシャークへ乗れば、ジェット機さながら。目的地へと風を切るよう空を走り出すのだった。雲を抜け、青く広がる空は、少しだけ気分が良い気がした。しかし、高い上空は地上よりも幾分冷える物。隣に居る彼女も、その薄い肩を短く震わせるが、
「トミーはセンチュリースープ捕獲にバリーたちと。グリンはBBコーンを捕獲にジャックエレファントと向かってる」
声のあと、「はず」と付け加えられた物だから思わず苦笑してしまう。確かに、奴らが忠実真面目に任務を
「スター、怪我してるの」
『すぐ治る』
「血の匂いがする」
『放おって置け』
淡々に言い離すと、最中。彼女がその身を少しと寄せ、背を伸ばしてはシバの兜に触れるのだ。
『何の真似だ』
「どの程度の傷か確かめさせて。これから向かう任務に差し支えると困る」
触れた細い腕を払い除けようとするが、途端の出来事の為 反応が遅れてしまった。彼女の指先により外された兜は、重たな音を立て、足元へ置かれる。常、兜越しで会話をする物だが、今。初めて素顔で対話する事に、何故か心臓が焦燥した。そうして、伸びた指先が、唇に触れ、拭い切れず やや固まり始めたその赤を優しく擦っていくのだった。
「大した傷じゃなくて良かった」
『だから放って置けと言ったはずだ』
どうも、素顔のままに視線を合わせると落ち着かない。足元に置かれた兜をその手に広い上げようとした時だ。風で
「スター、その顔の痣」
『………』
「さっき怪我したの」
『生まれつきだ』
「そう」
自分の事じゃないのにも関わらず、肩を下ろし安堵する彼女に、鼓動が早まるのは何故なのだ。心臓が、躍動が、まるで
「ねえ、少し屈んでくれない」
『何故』
「良いから」
言いなりになる覚えはないが、拒否する理由も大してない。そうして少し考えたあと、膝を折り、彼女の背丈まで腰を屈ませる。
『――…温かい、穏やかだ』
肌に触れた彼女の手へ、自身の掌を静かに重ねる。躍動が、強くなる。傍にあるその小さな手は、やがて、声と共に熱を増す。
「どうかな」
『何の話だ』
「任務以外も、こうして。たまには二人で、散歩でもしない」
『………』
「一緒に作ろう、沢山、楽しい記憶」
素顔のまま、視線が合わさる。それは、冗談でも何でもない、柔らかな真実。突飛な言葉は、自身、心の痛みを埋めるには十分過ぎるほど。
「まずは、遊園地にでも行こうか」
『幾ら何でも、はしゃぎ過ぎだろう』
思わず、苦笑ではない素の笑いが飛び出せば、彼女もまた。白い肌を紅潮させるのだ。安らぎも、記憶も。常、探して居た物は、こんなにも近く。全ては、此処にあったのだ。