トリコ
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眩しい水光と、白の砂浜。特に、月の引力で波の満ち引きがある訳でもない、ここは“洞窟の砂浜”。静かな水際に足先を触れて見れば、少し冷たくも。二人だけが居るこの空間は、さながらリゾート地同然である。冷たな水温に足首から慣らして行き、徐々に奥へと進めば あっという間。腰まで隠れる程、滑らかな水に身体が包まれるのだった。
「気持良い、連れて来てくれてありがとう、トミー」
透きとおる水を両手で
『別に』
そんな途方に暮れる迷宮に加え、洞窟にはデビル大蛇を始めとする凶暴な猛獣たちが数多く生息しており、息を潜めては 足を運ぶハンターたちを血肉の糧としている。その為、今居る砂浜へ辿り着けるのは、プロの美食屋でも千人に一人と言われている程 難易度の高い危険地帯。しかし、そんな危険を諸共せず、平然と。ただの道を歩くような感覚で 私をここへ連れて来てくれた彼は、瞳に映す水面の綺麗さへ、特に感情を崩さぬまま。泳ぐ私を 半ば退屈そうな表情で覗いているだけ。
「トミーったら、凄いのね。デビル大蛇にアゲハコウモリの群れまで、平気で倒しちゃうんだもの」
『戦ったのは僕じゃない、虫だ』
照れ隠しなのか、
「それでも、ありがとう」
『良いから、好きに泳ぎな』
「トミーは、入らないの」
『僕はいいよ、昼寝する。君が飽きたら帰るから、そん時に起こしてくれれば良い』
そう言うと、本当にその身を横にして。暫くしないうちに 静かな寝息を立てるのであった。せっかく来たのだ、周りにはハンターも美食屋一人居ない。出来れば一緒に水へ入り、水光の綺麗さを共に味わいたかったが。日頃、任務での疲労もあるだろうし、そもそも自身の時間を
「可愛いの、着て来たんだけどな…」
水着を持って来い、と言われた訳だから、当たり前にプールか海を予想していた。唐突な誘いだった事もあり、新調は出来なくも、手持ちで一番可愛いビキニを手に。それと、らしくない雰囲気のワンピースで待ち合わせしたのがつい数時間前。――…期待して居なかった、と言えば嘘になる。雰囲気の違うワンピースも、今着ているビキニだって。その沢山の複眼で映したあとに、何かしら反応があっても良いのでは、と思ってしまう自分が居る。面倒臭い恋人だと思われたくないが為に、わざわざ声にしないが。
「デート、嫌だったのかな」
水面に視線を落とせば、鏡のよう自身の顔がこの目に映る。なんて、浮かない顔。本当は、久しぶりの休日、身体を休める為にどこにも出掛けたくなかったのかもしれない。今日着て来たワンピースも、彼の好みじゃなかったかもしれないし、身に着けたビキニだって、似合って居なかったのかもしれない。そんなネガティブな想像を頭に流し込めば、何だか 早々に帰った方が良い気がして来て。私は、水に浸かった身体を引き上げ、砂浜に寝転がる彼へ近づきながら声にする。
「…ねえ、トミー、もう帰ろっか」
『……わっ、』
余りにも驚いた表情と声を出す物だから、こちらも肩が揺れてしまう。いきなり声を掛けたからだろうか、「起こしちゃって、ごめんね」と彼が横になる傍へ膝を付けば、より一層と慌て、今まで寝ていたその筋肉質な身体を勢い良く縦にするのだった。
「ごめんね。本当は出掛けないで、ゆっくりしたかったよね、無理に連れ出して…こんな風に付き合わせちゃって、ごめんなさい」
『……いや、違』
「とっても綺麗で楽しかった。短い時間だったけど、今日の事、ずっと想い出にするね。さ、帰ろ」
そうして、手荷物に入れてきた厚地のバスタオルを取り出そうとした時だ。彼の大きな手が伸びて来ては、私の手首を捕まえる。突然に触れられた肌の感触に驚き、捉えられた手首から、彼の手を伝い上り、視線を瞳へ重ねると。少しの紅潮、砂浜が白い
「トミー…」
『まだ、泳いだばっかじゃん』
「…」
『もうちょっと、愉しめば良いんじゃないの』
意外だった。てっきり、早めに帰宅したいと思っていたのに。着替えようとした私の手を止めるなんて。しかし、その肌の紅潮は何を意味するのだろう。未だ私の手首にある その掌は、気の所為じゃなければ熱、体温が上がっている。
「ありがとう、そうする」
『ん』
短い返事のあと、その熱は肌を離れて行った。私は彼の言葉通り、甘える形でまた。煌めく水光が待つ 水際へ静かと足を向かわせる。最中、背中に。きっと、雑音の一つでもあれば聞き逃して居たであろう、低く。そんな、小さな声が届くのだった。
『――…困るんだよ、その格好』
風の音でもなければ、聞き間違いでもない。届いた言葉は、紛れもない彼の音。水際へ向かわせた足を止め、水で濡れた身体で振り返る。そうして瞳の先に在るは、彼らしくない。気恥ずかしさを含む、赤面のそれ。普段、情事の際は暗闇に包まれて、彼の表情を覗く事は勿論、この目に映した試しがない。声だって、果てはするものの 甘い言葉が漏れる事などなく、耳に響くは荒い吐息だけ。海蛍が居る所為か、極端に明るい洞窟の砂浜。もしかして普段、暗闇に紛れた時。常、そんな表情をしていたのかも知れない、そう、ふと頭に
『――…何なんだよ、その水着、それじゃまるで下着同然だろ、谷間も、尻のラインも丸見えで、仮に誰か来たらどうする気だよ』
「……えっ、」
『それに、今日のワンピースだって、あの丈…短か過ぎだろ、男受け狙ってんのか、あ?』
「ま、待って、待って、トミーったら」
『君は』
息継ぎを忘れていたのか。一気に吐き出した言葉の切れ端は、荒く途切れていて。暫くの沈黙、何度目かの深呼吸のあと、恐らく。今日、彼が一番伝えたかった事が呟かれる。
『君は、僕だけに受けてりゃ良いんだよ』
あんまりにも、嬉しくて、おかしくて。それでも、吹き出してしまえば機嫌を損ねるに違いない。だから今度は私が、上がった体温をそのままに。砂浜に腰掛ける彼の太い手首を捕まえて。白く煌めき帯びる水光の中へと、彼を