トリコ
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晴れた陽、雲一つない晴天の下。重たな鐘が空気を揺らすと同時に、互い、一生涯の誓いを以て唇を重ねる
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「おう、滝丸少年」
『オジさん』
相も変わらずそう呼べば、自身より遥か体躯の良いマッチはその肩を落とし苦笑を浮かべる。彼とはアイスヘルが出会いの為、幾分付き合いも長くなって来た物。しかし、世界を揺るがすような事態でも無ければ ヤクザと
「まさかトリコが結婚するだなんてな。しかも相手は四天王の一人、軟弱くんの妹と来た」
『サニーさんに張り倒されますよ』
「へえ、俺が負けるとでも」
『オジさんになら、僕でも勝てる』
「…………お前、暫く会わないうちに、イイ性格になってんな」
前からか、そう意地の悪い視線を流されては。この一連のやり取りに温かい懐かしささえ覚える。未だ、重たな鐘が青空に響き渡る最中、チャペルでの式は静かに幕を閉じていた。新郎新婦は既に忙しくその場を後にして、案外話し掛ける暇は無さそうな状況下。感動的な式であったが、当人たちは次の準備に追われているようで 大変だな、と言うのが率直な感想である。これから披露宴が始まる為、男臭いオジさんと横並びで歩きながら会場へ向かっている。何でも披露宴では、あのトリコのフルコースを コンビである小松シェフが調理を務めると聞く。会場は大変な盛り上がりと感動を呼ぶ物だになるだろうが、正直、今は花より団子状態も良い所。
「それより、いいのか」
『何がです。ああ、エルーだったら、来る先に在ったIGOの第一ビオトープに預けて来たんですよ。餌も、施設職員の方が管理してくれるって言ってました』
此処へ辿るまでは、足代わりといつも行動を共にするエルーと訪れていて。主催者に、式場へは愛馬で向かうと伝た際、ビオトープで預かろうか、そう気遣いを受けたのだ。あそこなら、安心して置いて行けるし、帰り際に少しだけ、研究所内の見学だって出来るかもしれない。式も楽しみだが、普段見慣れない施設を探検出来るのも、心踊る物がある。しかし、てっきり、愛馬であるメチニスホースの事を問われていると思った矢先。見上げた彼の視線は、きつく細められて居て。
「馬鹿、違えよ、前見ろ、前」
『え…』
顎先で促され、向けた目線の先には。淡いブルーのドレスを纏った彼女の姿。彼女もこの式に参列するとは聞いていたが。行事がない限り見慣れないドレス着と、赤い口紅を引いたその表情は、一段と綺麗で、思わず息を飲んでしまう程に。ふと、そんな彼女の眉に険しさが上る。膝を折り、しきりにヒールのストラップを調整している物だから、何となく合致がいった。
『オジさん、一人で披露宴会場まで行ける』
「どんな方向音痴だよ、さっさと行ってやれ」
彼の言葉に首を縦と振り、腰を屈める彼女の元へ足早に駆けるのだった。始め、彼女との面識は癒やしの国、ライフだった。アイスヘルで美食會、ボギーウッズと痛み分けとなった身体の治療に脚を運んだ際。偶然にも、治療の手助けをしてくれたのがきっかけで知り合ったのだ。恥ずかしながら一目惚れと言っていい。落ち着く声遣いに、柔らかな指先、気が回る優しい性格。幼少から、修行、修行の日々の
『名前さん、』
「あ、滝丸くん、こんにちは。久しぶりね」
『お久しぶりでした、って言っても、案外ライフには怪我する度に行ってるんで」
「確かにそうね。あ、そうだ、これから披露宴が始まるみたいだし、良ければ会場まで一緒に行かない」
『喜んでエスコートしますよ』
調子良いったら、と笑う彼女は 折り畳んでいた膝を真っ直ぐに伸ばした。咄嗟、気付かれないようにと俯いたのか。しかしながら、その短く潜めた眉の動きを見過ごす自身ではない。
『名前さん、靴擦れしてますよね』
「やだ、バレちゃってたのね」
聞けば普段、高さのあるヒールを履かない所為。まして、行事でしか出番のない固いエナメル靴に、丁度脚の腱の部分が赤く滲んでしまっていると言う。腰を落とし、屈んで彼女の足元に目を配れば、何とも痛々しそうな様。式はまだ始まったばかりなのだ、これから会食や二次会も兼ね、暫く立ったり歩いたりする事だろう。
「こんな日に限って絆創膏忘れちゃうんだから」
苦笑と共、眉を八の字に肩を落とす彼女へ。今朝、ハンカチとポケットティッシュと一緒に、スーツの後ろポケットへ忍ばせて来た絆創膏を取り出せば。彼女の大きな瞳が、さらに大きくなる物だから、綺麗で、綺麗で、堪らない。因みに、持たせてくれたのは他でもない、命の恩人とも言えよう愛丸だ。グルメ騎士の本拠地である粗食の丘から出発する前、「嗜みとして一式持って行け」と、促されたのである。昔から彼の言う事は何でも聞いて来たが、今回もまた、素直に聞き入れて正解だったと深く頷ける。
『嗜みって奴です。まあ、いつも怪我でお世話になってるんで、今日は僕の番って事で』
「ありがとう」
丁度良い所にベンチが在った為、彼女には腰掛けて貰い。エナメルの靴を脱がせては、自身の屈んだ膝へと その綺麗で細い脚を乗せるのだった。初めて触れた肌の感触、心臓がぴくり跳ねた音が、どうか彼女へは届かぬよう祈るばかり。自然と駆け足になる鼓動に笑みを被せ、
『赤くなってる所に貼りますね、ちょっと待ってて下さい』
「………た、きまるくん」
『はい』
ベンチに座る彼女の声が、何故だろう、途切れ途切れに落とされる。不思議に思い、膝に乗せた脚を辿って彼女を見上げれば。どう言う訳か、白色の頬が紅潮を寄せていて。
『どうかしましたか』
「…………えと、そ、それも……た、嗜み、なの」
『は?』
暫くの沈黙。彼女の視線は、自身が屈んだ地面の底へ。ふと、絆創膏を取り出した際だろうか、後ろポケットから、入れた覚えのない物が同時と飛び出していた事に。彼女に連れ、身体の芯から熱が吹き出す感覚に、羞恥を知る。
『―――……っ』
地面に落ちて居るのは、誰がどう見ても一目で解る、薄い薄い避妊具。前述、愛丸が、嗜みとして一式持って行け、と言うその“嗜み”の中に。まさかそんな物まで詰められて居たなんて。自身の目で一度確認すれば良かったのだが、完全に信用している手前、特に何とも疑わず礼まで言った事を思い出しては、ふつふつと頭に血が上る。
『あ、こ……これは、違、違うんです、俺、そう言う目であなたを見てた訳じゃ…っ…』
駄目だ、言い訳をすればする程
「じゃあ、どんな目で見てくれてた」
問いには、何と応えるべきか。必要な事は多岐に渡って教わって来たはずが。生憎、色恋に対しての回答は、まだ教わっていない。