トリコ
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三寒四温とは良く言った物だ。冬と春の丁度
『風邪か』
夕飯を買うついで、以前から気になっていたカフェバーへ共に寄り。赤色の綺麗な、スパイス漂うサングリアを愉しんでいる。先に済ませた買い出しの食材は、便利なグルメケースへ保存しているのだから、全く以て悪くなる心配もない。彼もまた、調和が大事と、途中 赤ワインに合う苺とチーズのカプレーゼをオーダーしては、舌鼓を打つも 何度目かのくしゃみをした私の様子が流石に気掛かりなのか。手にしていたワイングラスを離しては、少しばかり眉を潜めている。
「ううん、平気。寒暖差の
『また急に寒くなったもんな』
「クインは大丈夫」
『ちと寒がってたが、こんなんで へばられたら俺が困る』
「スパルタだ」
私が苦笑を零すと『甘やかすだけが愛情じゃねだろ』と
「この後は、帰って夕飯で良いわよね」
グルメケースに入れてあるのは、夕飯に使うシチューの材料たち。寒い日は、濃いミルクを使った熱々のシチューに限る。ホットワインで暖まった身体だ、これにシチューとなれば 身体の芯から熱が逃げる事もないだろう。そろそろ底を尽きそうなワインへ視線を配べると、ふい。彼が『そだ』と、思い出したよう 椅子の背から紙袋を取り出すのであった。
『これ、ホワイトデーの奴な』
「……嘘、ありがとう」
向かいから手渡される青い紙袋を受け取れば、袋の大きさの割 軽さが目立つ。多忙な彼が 一ヶ月前のバレンタインのお返しを忘れず居てくれた事実も相まって、驚きで睫毛を
『んで嘘なんだよ、俺が今まで そゆイベント忘れた事あったか』
「無いけど……最近、特に忙しそうだったから、お返しが来ると思ってなくて」
『たく。何年、俺の女やってんだ』
「そうよね、ありがとう」
『ン』
そうなのだ、彼は女心と言うか、女性が大事とする記念日やイベント事に関して常、敏感で居てくれる。重荷になっていないか心配した時期もあったが、彼自身、愉しんでいるらしいので安堵出来る物。そう言えば、直近の贈り物は確かクリスマスプレゼントになるだろうか。その時も、センスの良い普段使い出来るカシミアのマフラーを受け取った。寒い時期の贈り物にマフラーは最適、それでは、今。この手に受け取った 軽さのある紙袋の中身は一体何かと考える。そうだ、ここは一つ、子供っぽい事でもしてみよう。
「ね、サニー」
『あ』
「袋の中身を当てれたら。夕飯のシチュー、あなたが作ってよ」
『ふうん、面白れえ、ま、当たらねえと思うけど』
「解らないでしょう」
『なら、外したら。そん中の
特大ヒントだ。“身に付ける”と言う事は、生活雑貨や、消耗品の
「分かった、ネックレスよ」
『訳は』
以前だ、長年愛用していたネックレスが、とうとう切れてしまって。今、胸元には何も飾りがない。不思議な事に、ずっと身に付けて居ると、いざ肌から離れた際、違和感と寂しさを感じる物。ホワイトデーのお返しさえ忘れず居てくれるマメな彼だ、小さな事まで気が回る為 私の胸元へも目を配べていたはず。そうして、堂々そんな解答を口にすれば。彼は勝ち誇ったよう、勝利の美酒の如く、残りのサングリアを喉奥へ流した。
『外れ』
「ええ、九十七%確信があったのに」
『ココかよ』
吹き出す彼に連れ、私も思わず笑ってしまった。しかし、ほぼ確信のあったそれでないとなると。中身の想像が遠く霞んでゆく。
「ねえ、ちなみにニアピン?」
『……ま、胸に付けるって意味じゃ、ニアピンだろうな』
彼の言葉に思考を巡らす。袋の大きさの割に軽い中身、胸元に身に付ける物。ふと、まさかと思うが 怖いもの知りたさで。一瞬、店内を見渡しては、誰に聞かれるでもない この声を小さくし、流れるBGMに紛れさせる。
「……ランジェリー、じゃないわよね」
『お、それが最初に出りゃ、シチュー作りは俺だったわ』
「…………」
ホットワインは、確かに温くなっていたはずなのに。どうしよう、身体の芯から熱が増す。それもそのばす。前述、彼の言葉を想い起こすのだ。
――…外したら。そん中の物を身に付けて、俺の前に見せろよ。
それは、帰宅したあと。シチューを作る前だろうか、あとだろうか。聞かずも、きっと彼の好みに合わせたセットになっている事だ。これじゃまるで、私がプレゼントを貰ったにも関わらず。彼が愉しむイベントに変わってしまう。何だか、嬉しいのか、悔しいのか、恥ずかしいのか。感情の波が一気と押し寄せ。家に帰るまで、少しばかり遠回りしたくなってしまった。
「やだ、ミルク買うの忘れてたわ」
『おいコラ、話しはぐらかすとかナシだし』