トリコ
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『おい、鈴。ンなとこで寝んなし』
「トリコ〜…えへへへ」
今しがた、幸福たる夢の中へと
「サニー、良いから、寝かせてあげて」
『…ったく』
彼の袖を軽く引っ張ると、細い溜め息の末 鈴を静かに夢へと置いてやる事とした。ぶつぶつ文句を言うものの、本当は こんな所で寝たら風邪引くぞ、と無理矢理にでも起こしベッドで寝かせたいはずで居る。子供の頃から相も変わらず、妹想いな兄である。
『それにしたって、リコたち遅くね』
「マンサム会長からいくつかお酒を貰って来るから 先に始めててって言われたけど、……少し遅いわね」
クッキングフェスから始まった目まぐるしいGOD争奪戦。その後も繰り広げられたグルメ界での戦いも終止符とされ。国際グルメ機構IGOも、新体制を敷いている。会長であった一龍が惜しまれるも逝き、代わり。世代を担うのは当時所長だったマンサムだ。所長の席へは新た、鈴が務める事となり、日々 多忙を極めていて。そんな最中。鈴がトリコと婚約した事により、結婚式前、幼馴染の皆で彼らを一番に祝おうと私の家へ集合としたのだが。なかなかどうして、暫く経っても他四天王三人が集まらない。これも変わらず、マイペースな事だ。
『せっかく名前が飯作ってくれてんのによ』
「良いわよ、来たらまた温め直せばいいだけだし。鈴は嬉しさで もう酔い潰れちゃったみたいだけど」
『本ッ当、世話が焼ける奴ばっか』
二度目の溜め息を溢す彼だが、妹を含め、四天王四人全員が集まれる場を設けた事に、微かながら笑みを覗かせている。言葉とは裏腹、きっと穏やかに酒を飲み交わす事が楽しみで仕方がないのだ。初めは、皆が集まってからアルコールを開けようとしていたが、集合の遅れに既、何本かの瓶は空になっている。彼もまた、私が出したオードブルを摘みながら ウイスキーを唇に充てていた。
「サニーも、まだ潰れないでよ」
『アホか、ガキじゃねえんだ、酒の飲み方くらい知ってる。そもそも、こんなんで酔わねえし』
私の言葉に唇を尖らせた彼は、まだコルクを弾いていないウイスキーへと手を伸ばす。アードベッグ、度数にして四十六%。確かに、このくらいで酔うような彼ではないか。高い音を響かせコルクが抜けると、瓶の縁から燻製に近い香りが鼻を
『なあ、名前』
「なに」
『キス、しねえ』
「――…」
一瞬、時が止まったかのよう感覚に陥る。問われた短な声を脳内で
「……き…急にどうしたの」
精一杯の言葉に、苦笑を共にした。きっと、冗談だ、冗談に決まっている。鈴が寝てしまい、他四天王の集まらない退屈な空間。冗談の一つや二つを口にしたくなる気も解らなくない。洒落には洒落で返すのが鉄則だ。真に受けて、真剣に応えるだけ 場の雰囲気を乱す事になる。しかし、若干と引きつった笑みで返したのも束の間。
『ガキの頃は良くしてたじゃん』
「それは…子供の時の話しでしょう…。私たちだって、もう大人で、…それに、ただの幼馴染じゃない」
ふいに、彼の繊細な指先が私の手に触れゆく。先に流し込んだアルコールの
『
「サニー…、酔ってる」
『は、……んじゃ、酔ってるっつう事にしとけ』
瞬間、アードベッグの、スモーキーで重たな香りと 彼の肌の匂いに紛れ。熱が籠もった唇が、交わるよう合わさった。
「――っ……」
頭を翻弄する強い度数のアルコールに、全身の血が沸く。先程まで触れていた指先は、私の頬を辿り、髪を分け、後頭部を支えているのだから、離れようにも上手く行かない。咄嗟、厚い胸板を掌で押し返すも、ぴくりとも動かないのは、これが冗談ではないという事実そのもの。
「サニー……んっ、待……って、」
『鈴、起きちまうから、んな声だすな』
息継ぎの途中で開いた唇、隙間からぬるりと絡まるのは、唾液に塗れた火照り以つ舌。逃げる私の舌を捕まえ、彼のそれが合わさると、より一層、匂いで酔いが回る気がする。吐いた息まで飲み込まれ、代わり、与えられるは熱を伴う欲情の眼差し。ふい、視線の端で彼のその眼光を捉えれば、頭に浮かぶのは、これまで築いた関係の
「……どうしよう…私、」
『ン』
「気持ち、全然、追いつかないのに……、凄い、緊張しちゃう……おかしくなりそう」
初めに交わしたキスから、躍動の駆け足は収まらない。今も尚、
『なら、
「……サニー…、」
『お前ホント鈍感過ぎな。もう大概、スパークして良くね』
舌先が、熱い。匂いに酔って、どうにかなりそうだ。どうにかなりそうなのに、今は。このまま彼を感じて居たいと思ってしまう自分がいて。鈴には未だ、深い眠りで居て欲しいし、他四天王も、もう少し遅れて来れば良い。そんな不埒な事を考える私は、既、大した事ないアルコールで、酔っているのだろうか。幼少の頃の可愛気あるキスとは違う、濃厚な大人のそれ。全身が
『――堪能しな』
瞬間、幼馴染に、さよならを告げる。