ケンガンアシュラ
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最近、夜はめっきり肌寒くなって来た事もあり。シャワーの温度を一℃上げ、ついでに湯船に浸かる事としている。本当は毎日、疲労を落とす為にも湯に浸かった方がいいのだろうが。今年の夏場は特段暑く、湯船に身を沈めたくても、なかなか機会に恵まれずにいて。それでも、きちんと地球の自転に合せ、季節が巡っている証拠。日中はまだ夏の暑さが尾を引くものの、夜は程よいぬるま湯で気分良く過ごせるまでになっていた。
『捕まえちゃうよー、ぎゅっ!』
「やだ、暑いってば、もう」
『ええ、いいじゃん、くっつかせてよ』
夏場の疲労を一気に、とはいかないが。直近までの
『……名前さん、いい匂い、シャンプー変えた』
「凄い、よく気が付いたわね」
せっかく涼しくなり、湯船で身を温めた所。盛り上がった胸板と太い腕に囲われてしまえば、夏の暑さがぶり返す。風呂上がり、触れた体温で汗をかきたく無いのだが。まあ、これがまた心地良いので、毎回、強く引き離す事が出来ずにいる。
『そりゃあ、気付くよ、恋人だもん』
「嬉しい」
堂々、そんな風に言われれば。当然、体温は上昇する訳で。風呂上がりの火照った身体は醒める事を知らず、ただに熱を繰り返すだけ。私は彼の固い背に両腕を回しては、もう湧いた汗など関係なしに、きつく、きつく、抱き締め返すのだった。ふい、互い肌の距離が無くなったからであろうか。なんだか、とてもいい匂いがする。―――金木犀、はたまた濃厚なベリー、それともココナッツ。どこか覚えのある、甘い匂いが鼻を掠めるそれに。私は彼の胸板から頬を離し、再度。二人は視線を重ねるのである。
「ねえ、この匂い、もしかして」
『…やば、バレた』
「え、」
解り易くもたじろぐ彼をじっと視つめていると。少しの
『これ、名前さんのシャンプー……です』
「ねえ」
『ごめんってば』
どうりで。どこかで嗅いだ気がした匂いは、私の記憶違いじゃなかったようだ。それでも、すぐに思い出せないあたり、自身にも呆れが募る。
『……怒、ってる?』
「そんな訳ないでしょう、こんなので怒ってたら、毎日怒ってるわよ」
『え、俺、そんな毎日、やらかしてんの…』
「嘘、嘘、冗談」
『ああもう、イジメないでよ、名前さんの意地悪』
「ごめん、ごめん」
しかし、自身も同じ物を使っているにも関わらず、匂いに鈍感になるのは、きっと。彼そのもの、彼が傍でくれる匂いが、きっと、好きなのだ。―――
「でも本当、いい香り」
身体の力が一気に抜けていく。金木犀には、主に含まれるリナロールという成分によって、緊張を解すリラックス作用があるそうだ。夜に匂いを共にすれば、ストレスや緊張感から解放され、必然的に睡眠の質も向上するらしい。彼に易しく抱き寄せられている
『名前さん、眠い?』
「ん、少しね。コスモくんにぎゅってされると、なんだか眠くなっちゃうのよ。安心しちゃうのかしら」
『うーん、嬉しいけど、俺は逆かなあ』
「…逆って」
落ちかけた瞼を上げ、彼と瞳を合わすのだ。瞬間、穏やかな眠気は
『生殺しはナシ、だよね』
硝子のよう煌々とした眼が、私を視線に捉える。風呂上がりで火照った身体は、天井を知れずと、熱く、熱く、この身を焦がすのだ。もう十分な大人で、問われた意味くらいはっきり解る癖。羞恥からどうしても、はぐらかしたくなってしまうのは、まだまだ私が幼い証拠。きっと、彼の方が、余っ程大人な気がしてきた。私は紅潮した頬を背け、視線から彼を消す。しかし、それでも。彼から香る仄か甘い匂いに、つくづく、駄目になってしまうのだ。―――前述、金木犀にはリラックスを促す作用がある所。恐らく一概に、全くそうではなさそうで。
「なんの、話し」
『解んない?』
「解ん……、ない」
『へえ』
―――思い出した。金木犀の花言葉は、“陶酔”。導かれるよう寄せた唇が、静かに触れていく。安らぎは何処、神経の昂りを感じた。夜が満ちる、音がする。