ケンガンアシュラ
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――激痛。身体の節々が、何本もの鋭い槍で貫かれたかのよう。歪んだ筋肉に埋まる骨らは、この感覚だと何本か折れて駄目になってしまっている。記憶を辿り 最後に思い出せる光景は確か…。山下商事の社長と、所属闘技者である十鬼蛇に担がれながら、医務室へと向かう最中まで。その後は痛み止めの点滴かなにかで眠ってしまったらしいが、効き目の途切れたタイミングで ぶり返す全身の痛みに嫌でも目が覚めた。
「さ、沢田、沢田…っ…」
ふと 血生臭い自身の胸元で、人肌の温もりが張り付いている事に気付く。ベッドに横たわる私へ、覆いかぶさるよう顔を寄せる彼女。薄い肩が 小刻みに震えていた。
『……名前……』
こちらは既に砕けて痛みも感じない。血液が拭えていなかったのが少々気掛かりで、一度腕を伸ばす事を
「沢、田……よ、良かった……脚、折られたって聞いたからっ……う、腕……腕は、動くの……」
『生憎。感覚、ないけどね』
絶命トーナメント一回戦目。ユリウス・ラインホルトとの仕合は、雇用主の棄権により不戦勝を余儀なくされた。あとに知れば、仕組まれた臭い物があると
「生きてる、ちゃんと……心臓、動いてる…良かった…本当に良かった」
『アンタを置いて逝く訳ないでしょう、馬鹿ね』
苦笑するだけで身体が
「やだ、駄目だってば…!…今、英先生を呼んで来るから、追加で痛み止め出して貰おう」
慌てて腰を浮かせ、医務室を出ようとする彼女の、白く細い腕を掴む。感覚を失ってもなお、彼女を繋ぎ止める意識だけは健在らしい。
『平気よ。どうせまたぶり返すわ。それに、アンタが思ってるより頑丈な造りなの、男って』
「……沢、田」
全く
『おいで』
「…痛いんじゃないの」
『平気だって言ったでしょう。……まあ、汚れるのが嫌じゃなければ、だけど』
「………嫌な訳ない」
ふわり、甘い香りと共に彼女が胸に落ちて来た。さらさらと流れる髪が頬を
「……沢田」
『なに』
「…好き。………本当、お願いだから……どこにも行かないでね」
『……心配性ね。どこにも逝かないわよ』
私も好きよ、と呟けば 彼女の静かな吐息が乱れる音がして。同時に 触れる肌から熱を感じるものだから、胸に顔を埋めるその先へ問うと。
『何よ、急に黙っちゃって』
「………ちが、…いや、違わないんだけど……沢田の……」
『……』
詰まった言葉のあとは 言われずも何となく理解した。自分でも下腹部に熱が溜まっているのを ひしひしと感じていた所。しかし、直接に指摘されると こうも羞恥な物なのか。
『怪我してるからね。生命の危険を感じると、子孫を残そうと本能で 海綿体が膨張する物なの』
なんて、理屈っぽく答えてみると。
「……そっか。てっきり…わ、私と くっついてるからかなって、……やだ…勘違いしちゃった…」
言葉の最後の方は、糸のように細い声になっていた。埋めていた顔は 良く見えなくも、恐らく赤に染まっている事だろう。どうしたって意地の悪い台詞を吐いてしまうのだ。自身の心配の為に泣いてくれる者など、この世の何処を探したとして、彼女しかいないと言うのに。胸の温もりに瞳を向ければ、いつも変わらずそばに居る、“生きる理由”。
『名前』
「…ん」
『悪い、嘘ついた。全然、勘違いじゃない』
ふと 顔を上げた彼女と視線が重なる。熱く絡む瞳が、さらに身体の芯を悶えさせた。
『…頭、沸いちまうくらい。お前に惚れてる』
もう、ぴくりとも動かせない格好悪い身体。そんな身体に、身を起こした彼女の方から 唇を寄せてくれる。互いの息遣いが交わる程の距離、あと数ミリで
「沢田っ!大丈夫か!? 足、へし折られたって聞いたぞ!」
勢い良く開けられた医務室の扉からは、ノックもせず 息を荒げ転がって来る 理人の姿。奴とは犬猿の仲とも言えるが、本来は人情味溢れ、いざとなれば頼れる人間と認めている。……認めているが、それは絶対に今じゃない。
『理人、テメェ…何 邪魔してくれてんのよ…!』
「邪魔とは聞き捨てならねえな! こっちはお前の心配して来てやったのによ!……つうか何だ、全然ピンピンじゃねえか、
『………オイ、コラァ………誰がホモだってえ!…オ゙オ゙!?』
彼女には申し訳ないが、今は奴と、変わらずの喧嘩をさせて欲しい。埋め合わせは また今度。誰にも邪魔されず、堂々と。愛を語れる素敵な場所で。