ケンガンアシュラ
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刃牙vs拳願でのお話し
確固たる“勝利”であった。勝つと信じて疑わず、最後にその金属をも凌駕する鋼の腕を天掲げ。そうして、いつ耳にしても煩 わしい、吠える闘魂をこの東京ドームの地下へ響かせるのだと。そう、好敵手の勝利を信じて疑わなかった。―――しかし、現実はそう甘くはない。この世には、金属を割って熔かすような毅 さがあるのだと、そう、知った。
「サーくん、惜しかったわね」
『仕方あるまい、上には上が居る、それだけの事だ』
この日、東京ドーム地下で行われた地下闘技者らとの対抗戦。まさかドームの地下にそのような場があったとは驚きだったが、疑ったのは場所だけではない。拳願会側では勿論、幾千もの勝負を重ねた実力者たちを集めたはず。我が好敵手 を始め、呉一族の末裔、呉雷庵、二虎流を極めた十鬼蛇王馬を投じた。途中、謎の生物ピクルと名を耳にした野人が現れる予測不能の事態もあったが。さして問題ではないよう思えた。強きが勝つ、それだけだなのだから。しかし、結果は五分。最終戦では、観戦側に居たアダム・ダットリーが姿を消したままであったが、正直そんな事はどうでもいい。どうでもよくないのは、その結果である。
『ただ、例え好敵手 が敗れたとて、こちら側が勝利すると思ったがな』
「ガオラン、朝からそう言ってたものね」
『………』
好敵手 の強さは、厭というほどこの眼で視、既に了知。だのに、五分という結果が自身の中でどうも腑に落ちない。それは、己の強さを図った上での意。負けるはずがない、そう芯に馳せて居たのだ。
『まあ今回に限っては、貴様の読みが正しかったという訳だ』
「たまたまよ、勝敗が着くと思えなかったんだもの」
夕刻、東京ドームを背に二人並んで帰路へ着く。痛い光の橙色が、眼に染みた。―――まだ陽が真上にあった朝である。対抗戦の勝敗について、拳願会側が全勝する、賭けてもいい。そう自身から口にしたのだ。堂々胸を張る俺に、始めは彼女も同様の応えだったが。次第、相手の情報を得るや否や「勝敗は着かないかも知れない」と五分の結果を投げ掛ける物だから、苛立ちも募る。そんな気分の悪い結果になったら堪った物じゃない。そこで、彼らの勝利のみを信じた俺はもう一度、彼女に言い訊かせたのだ。―――拳願会側が全勝する、“賭けたっていい”と。彼女は、半ば意固地を張った子を眺めるような眼でやれやれ、と苦笑していたが、俺の気は変わらず。全く 間抜けめ、そうたかを踏んで居たのも束の間。読みが甘かったのは、大概、自身のようだった。
『正しい事に変わりはない。……それで、貴様は何を欲する』
「え、」
『間抜けを晒すな、俺はあの勝負に己のプライドを賭けたのだ』
「え、嗚呼、そう、だったのね。…また大袈裟な」
『戯 け。プライドを賭け敗れた』
痛いほどの橙色が、少しずつ薄くなり。夕空は段々と青黒く染まっていく。光の充たる角度が、緩やかに影を動かして。光と影を同時に浴びる彼女はまるで、いつか視た彫刻のよう、奇麗であった。
『その意味が解らん貴様では無い』
奇麗な彫刻は、その滑らかな白色の肌にひとつ、唇という赤を乗せる。淡い、柔らかな赤を。彫刻は理解する。プライドを賭け敗れたが最後、それは、己を差し出す意。―――咄嗟、冷たい汗を背中に感じた。こう言う場合、野生、所謂 人間の本能である勘はよくよく働く物だ。隣を歩く彼女へ眼を配れば、何やらバッグから財布を取り出すではないか。何だ、金か。今日は生憎カードしか持ち合わせて居ないと言うのに。後である。彼女はすっかり陽の落ちた暗空の下、俺を見上げながら呟くのだった。
「それじゃあ、家に着くまででいいわ」
『ほう、なんだ』
「私の事は、“名前たん”って呼ぶ事」
『貴様、とうとう頭が沸いたか』
吐き気、時々、頭痛。なんて、天気予報でもあるまい。唐突に襲う寒気に、風邪かと勘違いする程に。俺は、財布の中身を確認する彼女へ半ば軽蔑の視線を送った。すると、その視線を返すよう、彼女もまた、白い頬を膨らませて応えるのである。
「酷い、あなたが言い出したんでしょう、それともなに、賭けたプライドはその程度だったって事」
『む…、』
「さて、スーパーでお夕飯の食材買ってから帰りましょう。嗚呼、ポイントカード、あった、あった」
もはや有無を云わせぬこの様。否、致し方無い。賭けたプライドに誓って、ここは己を突き通すまで。なに、どうせ帰路に着くまでなのだ、どうって事はない。だが、なかなかどしうしてくだらない。嗚呼、くだらない。まあいい、言えば良いのだろう、言えば。ええい、言ってやろうではないか。
「ねえ、ガオランは、お夕飯なに食べたい」
『……………名前たん』
「…えっ、あの、………」
―――間違った、盛大に。
「や、やだ、えっと、嬉しいんだけれど、今はね、お、お夕飯の話しを……してて、それで、」
なにを勘違いしているのか、彼女と来たら耳まで紅く染め上げている。違う、確かに喰らいたいと言われれば、違わないとも言えよう、だがしかし、今のは断じて違うのだ。焦燥に駆られた脳内は、すぐ緊急的に回路を繋ぎ合わせ、代わりの言葉を見繕い始める。
『た、たん、担々麺が喰いたいと言ったのだ』
「たっ、担々麺ね、ご、めんなさい、私ってばてっきり……」
無理矢理にも程があるが、今はこれが精一杯だ。薄暗の空下、陽はとっくに陰ってしまったと言うのに、身体が異常に熱い。まるで、炎天下の太陽に晒されたよう、じりじりと、熱くて、熱くて、仕方がない。
『…すまない、悪いのは俺だ、恥をかかせたな』
「そ、そんな事ないわ。私が、あなたの言葉を変に解釈しただけよ」
歩幅を合わせて歩く夜。涼しいのに、何処か熱い。ふと、案外近場だろうか。薄い煙の匂いと共、花火の音が訊こえて来る。麺繋がりだ、担々麺も、焼きそばも、そう大して変わらぬ。―――約束は“帰路に着くまで”と言ったか。なら、少しばかり寄り道でもして行こう。
『花火、観ていくか。ついでに、飯は屋台で喰おう、作らず済む』
「……いいわね、それ。暑かったし、丁度ラムネが飲みたかったのよ」
『行くぞ、名前たん』
「ねえ、やっぱり、もう、いいってば」
眉を八の字に笑う彼女と指を絡める。さて、屋台飯を喰うのはいいが、其処でカードは使えるだろうか。少々不安になり彼女へ眼を配ると、その奇麗な瞳は、向かう光の花の霞を。ただ、真っ直ぐに映している。まるで、彫刻だと、そう思った。
確固たる“勝利”であった。勝つと信じて疑わず、最後にその金属をも凌駕する鋼の腕を天掲げ。そうして、いつ耳にしても
「サーくん、惜しかったわね」
『仕方あるまい、上には上が居る、それだけの事だ』
この日、東京ドーム地下で行われた地下闘技者らとの対抗戦。まさかドームの地下にそのような場があったとは驚きだったが、疑ったのは場所だけではない。拳願会側では勿論、幾千もの勝負を重ねた実力者たちを集めたはず。我が
『ただ、例え
「ガオラン、朝からそう言ってたものね」
『………』
『まあ今回に限っては、貴様の読みが正しかったという訳だ』
「たまたまよ、勝敗が着くと思えなかったんだもの」
夕刻、東京ドームを背に二人並んで帰路へ着く。痛い光の橙色が、眼に染みた。―――まだ陽が真上にあった朝である。対抗戦の勝敗について、拳願会側が全勝する、賭けてもいい。そう自身から口にしたのだ。堂々胸を張る俺に、始めは彼女も同様の応えだったが。次第、相手の情報を得るや否や「勝敗は着かないかも知れない」と五分の結果を投げ掛ける物だから、苛立ちも募る。そんな気分の悪い結果になったら堪った物じゃない。そこで、彼らの勝利のみを信じた俺はもう一度、彼女に言い訊かせたのだ。―――拳願会側が全勝する、“賭けたっていい”と。彼女は、半ば意固地を張った子を眺めるような眼でやれやれ、と苦笑していたが、俺の気は変わらず。全く 間抜けめ、そうたかを踏んで居たのも束の間。読みが甘かったのは、大概、自身のようだった。
『正しい事に変わりはない。……それで、貴様は何を欲する』
「え、」
『間抜けを晒すな、俺はあの勝負に己のプライドを賭けたのだ』
「え、嗚呼、そう、だったのね。…また大袈裟な」
『
痛いほどの橙色が、少しずつ薄くなり。夕空は段々と青黒く染まっていく。光の充たる角度が、緩やかに影を動かして。光と影を同時に浴びる彼女はまるで、いつか視た彫刻のよう、奇麗であった。
『その意味が解らん貴様では無い』
奇麗な彫刻は、その滑らかな白色の肌にひとつ、唇という赤を乗せる。淡い、柔らかな赤を。彫刻は理解する。プライドを賭け敗れたが最後、それは、己を差し出す意。―――咄嗟、冷たい汗を背中に感じた。こう言う場合、野生、
「それじゃあ、家に着くまででいいわ」
『ほう、なんだ』
「私の事は、“名前たん”って呼ぶ事」
『貴様、とうとう頭が沸いたか』
吐き気、時々、頭痛。なんて、天気予報でもあるまい。唐突に襲う寒気に、風邪かと勘違いする程に。俺は、財布の中身を確認する彼女へ半ば軽蔑の視線を送った。すると、その視線を返すよう、彼女もまた、白い頬を膨らませて応えるのである。
「酷い、あなたが言い出したんでしょう、それともなに、賭けたプライドはその程度だったって事」
『む…、』
「さて、スーパーでお夕飯の食材買ってから帰りましょう。嗚呼、ポイントカード、あった、あった」
もはや有無を云わせぬこの様。否、致し方無い。賭けたプライドに誓って、ここは己を突き通すまで。なに、どうせ帰路に着くまでなのだ、どうって事はない。だが、なかなかどしうしてくだらない。嗚呼、くだらない。まあいい、言えば良いのだろう、言えば。ええい、言ってやろうではないか。
「ねえ、ガオランは、お夕飯なに食べたい」
『……………名前たん』
「…えっ、あの、………」
―――間違った、盛大に。
「や、やだ、えっと、嬉しいんだけれど、今はね、お、お夕飯の話しを……してて、それで、」
なにを勘違いしているのか、彼女と来たら耳まで紅く染め上げている。違う、確かに喰らいたいと言われれば、違わないとも言えよう、だがしかし、今のは断じて違うのだ。焦燥に駆られた脳内は、すぐ緊急的に回路を繋ぎ合わせ、代わりの言葉を見繕い始める。
『た、たん、担々麺が喰いたいと言ったのだ』
「たっ、担々麺ね、ご、めんなさい、私ってばてっきり……」
無理矢理にも程があるが、今はこれが精一杯だ。薄暗の空下、陽はとっくに陰ってしまったと言うのに、身体が異常に熱い。まるで、炎天下の太陽に晒されたよう、じりじりと、熱くて、熱くて、仕方がない。
『…すまない、悪いのは俺だ、恥をかかせたな』
「そ、そんな事ないわ。私が、あなたの言葉を変に解釈しただけよ」
歩幅を合わせて歩く夜。涼しいのに、何処か熱い。ふと、案外近場だろうか。薄い煙の匂いと共、花火の音が訊こえて来る。麺繋がりだ、担々麺も、焼きそばも、そう大して変わらぬ。―――約束は“帰路に着くまで”と言ったか。なら、少しばかり寄り道でもして行こう。
『花火、観ていくか。ついでに、飯は屋台で喰おう、作らず済む』
「……いいわね、それ。暑かったし、丁度ラムネが飲みたかったのよ」
『行くぞ、名前たん』
「ねえ、やっぱり、もう、いいってば」
眉を八の字に笑う彼女と指を絡める。さて、屋台飯を喰うのはいいが、其処でカードは使えるだろうか。少々不安になり彼女へ眼を配ると、その奇麗な瞳は、向かう光の花の霞を。ただ、真っ直ぐに映している。まるで、彫刻だと、そう思った。