ケンガンアシュラ
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刃牙vs拳願でのお話し
東京ドーム地下。其処に人知れず存在する異質な空間―――“地下闘技場”。約三百年前である。戦いと言う自己表現を失い荒れ狂う武芸者の為と、後楽園に造らせた闘技場の後継が始まりとされる。歴史は続き受け継がれ、今尚、闘技者による仕合が粛々と行われている。謂わば闘いの聖地。しかし、皮膚に絡みつくような異様さは、地下六階と言う肌寒さだけでは無さそうだ。聞く所によると、ルールは武器の使用以外を許容とする大雑把な物。仕合に必要な審判もおらず、相手のギブアップかKOのみ。
「英先生、そろそろ始まります」
『そうだね』
闘技場を映すモニターを前。第三戦までの組み合わせを予 め用意された資料で確認する。眼を通しただけで、思わず冷たな汗が浮かぶほどの死闘になりそうだった。
「裏格闘技とは訊いていましたけど、ファイトマネーが出ないのも珍しいですね」
―――本日ここ、地下闘技場で対抗戦が行われる。なんでも、主催は片原滅堂と徳川光成と言うのだから驚きであるが。大凡 、酒の席で娯楽の話しとなった際、勢いのままに至ったと考えば、案外簡単に実現しそうな事だ。モニターから伝わる緊張感に、口内が乾きを帯びるなか。いつも通り平然を主とした、彼の落ち着きある声が届くのだった。
『それが相手側のルールだからね』
腕に憶えのある者が企業の代表となり、勝者だけが利益を売る拳願会。対し、己を磨き強さのみを追求する地下闘技。いずれにしても、弱肉強食の括りとしてしまえば大して差はない。
「そう言えば以前、地下闘技場の方が拳願仕合に来られたとか」
『嗚呼、来ていたよ』
短な返答だと言うのに、彼の表情と来たら怪訝なものだった。何か彼と因縁のある闘技者、はたまた医療関係者が脚を運んで居たのだろうか。記憶を遡っても、あの怒涛と成された拳願絶滅トーナメントの最中、只でさえ混沌として居たのだ。来訪者に眼を向ける程の余裕など恥ずかしながら皆無。そのため、彼が脳裏に映した人物が誰であるのか、まるで想像に及ばなかった。
『だから、今回は僕たちがアウェイと言う事さ』
英は些 か退屈そうな面持ちで、銀色に光る自前のメスをただに眺めている。アウェイであっても、業務に偏りはない。もしも怪我人が出たなら処置するし、場合によっては手術だって行う。しかし。
「どちらにしても彼ら闘技者にとって。英先生が手隙である事が一番です」
自ら好んで怪我をする人間は居ない、それでも真剣勝負に付き物である負傷。それぞれの闘技者が安全に自己の脚で帰れる事が一番いいのだ。だからこそ、彼の出番は無い方がいい。すると英は、以前トーナメントで施した手術の情景、返り血の匂いを蘇らせたのか。それは妖艶な瞳を魅せ、内に秘める好機を露出する。
『そうかな、僕はむしろ好都合だよ。地下闘技場の戦士たちを片っ端から解剖できる絶好のチャンスじゃないか』
「先生ってば」
『早く死んでくれないかな』
「もう、縁起でも無いったら」
そうだった、英はじめとは こう言う人間だった。よもや優男の風貌の所為 で忘れ掛けていたが、彼はれっきとした解剖魔である。仕合が始まるのも束の間、ふと。ドアのノック音が三回響いた。仕合はまだ始まって居ないし、怪我人ではないだろう。しかし、仮に観戦者や主催の急病であれば大変だ。そう私が小走りでドアへ向った瞬間である。背に応えるは、英の億劫たる一言。
『名前くん、出なくていい』
「…でも」
振り返り、彼と視線を合わせると。それは、ドア向こうに立つ人物が何者なのかを既知とする眼であった。先ほど絶滅トーナメントの話しになった際、怪訝な表情を浮かべた時とまるで同じ面持ちである。だとすれば、彼が示す相手は、もしかして―――。次に繋ぐ言葉を詰まらせいると、眼の前のドアがゆるりと開くのだ。そうして思わず見上げてしまう体躯の良さは、まさに闘技者のそれ。
『“出なくていい”とは、これまた酷いな』
「鎬 先生……! ご無沙汰しております」
『やあ、名前ちゃん。元気そうでなりよりだ』
彼、鎬紅葉 。英とは医学生時代からの旧友と訊く。英の助手を務めるにあたり、何度か顔を合わせた事があったが。こうして対面、まともに話すのはこれが初めてになるだろう。
『例のトーナメント以来かな』
「え、鎬先生、いらしてたんですか」
『嗚呼。ドクター英が闘技者として出場すると訊いてね、奴が死んだ時用の医者として一応。まあ、ほぼ観戦になってしまったけれど』
「そうだったんですね…、その節は、ご挨拶もままならず失礼を」
例による混沌の所為、全く気が付かなかった。まさか英の言う来訪者、怪訝を浮かばせる人物が鎬とは。トーナメントでは特段余裕がなく、ただ患者の処置に精一杯で。挨拶どころか、彼が脚を運んでいた事へすら気に及ばなかった。自分の力量の狭小さに羞恥さえ覚えるほどに。節の事へ、私が深々頭を下げると、鎬はその大きな掌を伸ばし。この肩へと触れるのだ。温かかった。
『気にしないでいい、頭を上げなさい』
「はい…。ちなみに、こちらへいらしたと言う事は鎬先生も。万一、闘技者が怪我をした時の為に」
『そんな所だ。けれど先日、君とゆっくり話せなかった分。今日は名前ちゃんとの会話がメイン、かな』
「………え、」
触れられたままの分厚い掌から、確かな熱が伝わってくる。見上げると、吸い込まれそうな瞳が此方を覗いていた。掌が離れ、固い指先が首筋を辿り、そうしてこの顎を捉えようと成す所。それは、もう一人の冷たな手により払い落とされるのだった。肌を弾けば、瞬時に響くは空気の揺れ。同時と背に走るは、凍りのよう、漢の冷徹な視線である。
『僕の物に、触らないで貰いたいな』
「は、なふさ、先生」
『名前くん、君もだ。そうやって安々と触らせるんじゃない』
「え、………あの、すいません…」
それ以上の言葉は続かなかった。鎬の手を払った彼の眼は、狂気を越えた恐怖。普段見せる笑みは消え、在るのはただ激昂の手前。途端、濁った空気が身体を這う。部屋の中に居ると言うのに、まるで濃い霧に囲われたような居心地の悪さ。体格差こそあるものの、漢二人が視線を交わす様は、仕合前のそれ。
『そもそもドクター紅葉。“僕が死んだ時用の医者”ってのは、甚 だ冗談が過ぎる。気分が悪い』
『へえ、可笑しいな。俺が知る君は、そんな冗談を真に受ける程、必死になる漢だったか』
明らかに平常を欠く鎬の言葉。しかし、英がこうも躍起になるのも珍しい。例え煽られたとしても、挑発には乗らずに居る事が常だ。その掴みどころのない性格さ故、人は翻弄される。それが今はどうだろう、神経を逆なでされたよう満ちる怒りは絶えず溢れたまま。いつもの調子で躱 して居れば良いものを何故、赫怒を露出させるのだ。すると、先まで嫌と肌に感じていた霧。その霧が掠れ、視界を明るにさせるのは、次に発せられた鎬の言葉にあった。
『ドクター英。君はさっき、彼女を“自分の物”だと言った』
『何か間違いでも』
『単なる助手としてならそうだろう。しかし、女性としてならどうだ』
『どう言う意味かな』
『俺は彼女とゆっくり会話がしたい。“医者の助手”としてではなく、一人の女性としてね』
霧は、晴れた。そして理解した。英が怪訝を浮かべるのも、躍起になるのも、あからさまな挑発に乗ってしまうのも。しかし。―――待って、待って、待って。怒りを顕にする理由が私である事に、未だ脳内の処理は追いつかない。この状況は一体、何がどうなっているのだ。段々に駆け足となる心臓が、痛くて仕方がない。
「あ、あの…!、英先生、鎬先生。もう仕合が始まりますから」
兎にも角にも、今は対抗戦の時。本来在るべき自身の仕事を放る訳には行かないのだ。それに、二人が殴り合いの喧嘩をしたならば、収集がつかないのは明白。それどころか大惨事である。そう二人の間に割って入り、どうどう、両者の胸板を押す。当たり前に動くはずもないが。―――すると瞬間に。胸板に充てた腕が、双方の掌によって捉えられてしまったではないか。英の手は、血の通いを感じられぬ冷たな皮膚。鎬の手は、今にでも燃えるよう熱を持つ皮膚。困った事にどちらも良い匂いがする所為、焦燥の中だと言うのに、頭がどうにかなりそうだ。
『さてドクター紅葉。ひとつ君に良い事を教えてあげよう』
割って入ったのも無意味と。怒りの最中、英のこめかみには青い血管が浮き出ててゆく。無言で首を傾いだ鎬に、彼は続けた。
『事実、女性は六千万人居る。引く手数多 な君なら、他を当たった方が効率がいい。違うかな』
『悪いがその言葉。そっくりそのまま返すよ、ドクター英』
駄目だ、もはや収集がつかない。じりじりと詰め寄るように。押しているはずの胸板に挟まれてしまいそう。声色は元に戻るも、未だ激昂の手前にいる英。体躯の良い身体で見下ろすよう、余裕綽々 でいる鎬。―――六千万人だか何だか知らないが、私は誰の物でもない、それが事実だ、事実を。事実を伝えなければ。
「英先生、鎬先生、私は…」
誰の物でもない、そう続く声はまたもや無意味。二人の漢に遮られるは、応えの出ない口説き文句。
『名前くん。君になら、まだ誰も知らない僕の改造部を特別に魅せてあげよう。勿論、二人きりで』
『名前ちゃん、俺の自家用ヘリでハワイに連れて行こう。魅せたい夜景があるんだ、どうかな、二人きりで』
胸板に押しつぶされそうな頃には既、仕合は始まりを告げていた。モニターへは、暫く眼が向けられぬ事だろう。誰か助けて欲しい。
東京ドーム地下。其処に人知れず存在する異質な空間―――“地下闘技場”。約三百年前である。戦いと言う自己表現を失い荒れ狂う武芸者の為と、後楽園に造らせた闘技場の後継が始まりとされる。歴史は続き受け継がれ、今尚、闘技者による仕合が粛々と行われている。謂わば闘いの聖地。しかし、皮膚に絡みつくような異様さは、地下六階と言う肌寒さだけでは無さそうだ。聞く所によると、ルールは武器の使用以外を許容とする大雑把な物。仕合に必要な審判もおらず、相手のギブアップかKOのみ。
「英先生、そろそろ始まります」
『そうだね』
闘技場を映すモニターを前。第三戦までの組み合わせを
「裏格闘技とは訊いていましたけど、ファイトマネーが出ないのも珍しいですね」
―――本日ここ、地下闘技場で対抗戦が行われる。なんでも、主催は片原滅堂と徳川光成と言うのだから驚きであるが。
『それが相手側のルールだからね』
腕に憶えのある者が企業の代表となり、勝者だけが利益を売る拳願会。対し、己を磨き強さのみを追求する地下闘技。いずれにしても、弱肉強食の括りとしてしまえば大して差はない。
「そう言えば以前、地下闘技場の方が拳願仕合に来られたとか」
『嗚呼、来ていたよ』
短な返答だと言うのに、彼の表情と来たら怪訝なものだった。何か彼と因縁のある闘技者、はたまた医療関係者が脚を運んで居たのだろうか。記憶を遡っても、あの怒涛と成された拳願絶滅トーナメントの最中、只でさえ混沌として居たのだ。来訪者に眼を向ける程の余裕など恥ずかしながら皆無。そのため、彼が脳裏に映した人物が誰であるのか、まるで想像に及ばなかった。
『だから、今回は僕たちがアウェイと言う事さ』
英は
「どちらにしても彼ら闘技者にとって。英先生が手隙である事が一番です」
自ら好んで怪我をする人間は居ない、それでも真剣勝負に付き物である負傷。それぞれの闘技者が安全に自己の脚で帰れる事が一番いいのだ。だからこそ、彼の出番は無い方がいい。すると英は、以前トーナメントで施した手術の情景、返り血の匂いを蘇らせたのか。それは妖艶な瞳を魅せ、内に秘める好機を露出する。
『そうかな、僕はむしろ好都合だよ。地下闘技場の戦士たちを片っ端から解剖できる絶好のチャンスじゃないか』
「先生ってば」
『早く死んでくれないかな』
「もう、縁起でも無いったら」
そうだった、英はじめとは こう言う人間だった。よもや優男の風貌の
『名前くん、出なくていい』
「…でも」
振り返り、彼と視線を合わせると。それは、ドア向こうに立つ人物が何者なのかを既知とする眼であった。先ほど絶滅トーナメントの話しになった際、怪訝な表情を浮かべた時とまるで同じ面持ちである。だとすれば、彼が示す相手は、もしかして―――。次に繋ぐ言葉を詰まらせいると、眼の前のドアがゆるりと開くのだ。そうして思わず見上げてしまう体躯の良さは、まさに闘技者のそれ。
『“出なくていい”とは、これまた酷いな』
「
『やあ、名前ちゃん。元気そうでなりよりだ』
彼、
『例のトーナメント以来かな』
「え、鎬先生、いらしてたんですか」
『嗚呼。ドクター英が闘技者として出場すると訊いてね、奴が死んだ時用の医者として一応。まあ、ほぼ観戦になってしまったけれど』
「そうだったんですね…、その節は、ご挨拶もままならず失礼を」
例による混沌の所為、全く気が付かなかった。まさか英の言う来訪者、怪訝を浮かばせる人物が鎬とは。トーナメントでは特段余裕がなく、ただ患者の処置に精一杯で。挨拶どころか、彼が脚を運んでいた事へすら気に及ばなかった。自分の力量の狭小さに羞恥さえ覚えるほどに。節の事へ、私が深々頭を下げると、鎬はその大きな掌を伸ばし。この肩へと触れるのだ。温かかった。
『気にしないでいい、頭を上げなさい』
「はい…。ちなみに、こちらへいらしたと言う事は鎬先生も。万一、闘技者が怪我をした時の為に」
『そんな所だ。けれど先日、君とゆっくり話せなかった分。今日は名前ちゃんとの会話がメイン、かな』
「………え、」
触れられたままの分厚い掌から、確かな熱が伝わってくる。見上げると、吸い込まれそうな瞳が此方を覗いていた。掌が離れ、固い指先が首筋を辿り、そうしてこの顎を捉えようと成す所。それは、もう一人の冷たな手により払い落とされるのだった。肌を弾けば、瞬時に響くは空気の揺れ。同時と背に走るは、凍りのよう、漢の冷徹な視線である。
『僕の物に、触らないで貰いたいな』
「は、なふさ、先生」
『名前くん、君もだ。そうやって安々と触らせるんじゃない』
「え、………あの、すいません…」
それ以上の言葉は続かなかった。鎬の手を払った彼の眼は、狂気を越えた恐怖。普段見せる笑みは消え、在るのはただ激昂の手前。途端、濁った空気が身体を這う。部屋の中に居ると言うのに、まるで濃い霧に囲われたような居心地の悪さ。体格差こそあるものの、漢二人が視線を交わす様は、仕合前のそれ。
『そもそもドクター紅葉。“僕が死んだ時用の医者”ってのは、
『へえ、可笑しいな。俺が知る君は、そんな冗談を真に受ける程、必死になる漢だったか』
明らかに平常を欠く鎬の言葉。しかし、英がこうも躍起になるのも珍しい。例え煽られたとしても、挑発には乗らずに居る事が常だ。その掴みどころのない性格さ故、人は翻弄される。それが今はどうだろう、神経を逆なでされたよう満ちる怒りは絶えず溢れたまま。いつもの調子で
『ドクター英。君はさっき、彼女を“自分の物”だと言った』
『何か間違いでも』
『単なる助手としてならそうだろう。しかし、女性としてならどうだ』
『どう言う意味かな』
『俺は彼女とゆっくり会話がしたい。“医者の助手”としてではなく、一人の女性としてね』
霧は、晴れた。そして理解した。英が怪訝を浮かべるのも、躍起になるのも、あからさまな挑発に乗ってしまうのも。しかし。―――待って、待って、待って。怒りを顕にする理由が私である事に、未だ脳内の処理は追いつかない。この状況は一体、何がどうなっているのだ。段々に駆け足となる心臓が、痛くて仕方がない。
「あ、あの…!、英先生、鎬先生。もう仕合が始まりますから」
兎にも角にも、今は対抗戦の時。本来在るべき自身の仕事を放る訳には行かないのだ。それに、二人が殴り合いの喧嘩をしたならば、収集がつかないのは明白。それどころか大惨事である。そう二人の間に割って入り、どうどう、両者の胸板を押す。当たり前に動くはずもないが。―――すると瞬間に。胸板に充てた腕が、双方の掌によって捉えられてしまったではないか。英の手は、血の通いを感じられぬ冷たな皮膚。鎬の手は、今にでも燃えるよう熱を持つ皮膚。困った事にどちらも良い匂いがする所為、焦燥の中だと言うのに、頭がどうにかなりそうだ。
『さてドクター紅葉。ひとつ君に良い事を教えてあげよう』
割って入ったのも無意味と。怒りの最中、英のこめかみには青い血管が浮き出ててゆく。無言で首を傾いだ鎬に、彼は続けた。
『事実、女性は六千万人居る。引く手
『悪いがその言葉。そっくりそのまま返すよ、ドクター英』
駄目だ、もはや収集がつかない。じりじりと詰め寄るように。押しているはずの胸板に挟まれてしまいそう。声色は元に戻るも、未だ激昂の手前にいる英。体躯の良い身体で見下ろすよう、
「英先生、鎬先生、私は…」
誰の物でもない、そう続く声はまたもや無意味。二人の漢に遮られるは、応えの出ない口説き文句。
『名前くん。君になら、まだ誰も知らない僕の改造部を特別に魅せてあげよう。勿論、二人きりで』
『名前ちゃん、俺の自家用ヘリでハワイに連れて行こう。魅せたい夜景があるんだ、どうかな、二人きりで』
胸板に押しつぶされそうな頃には既、仕合は始まりを告げていた。モニターへは、暫く眼が向けられぬ事だろう。誰か助けて欲しい。