ケンガンアシュラ
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『あれは一体、何なのだ』
三十二の企業と闘技者が集まり、権利を賭けた企業の代理戦争がここ、願流島で幕を開けた。“拳願絶命トーナメント”と称された大規模に手配された舞台。一見華やかな格闘試合に見えるものの、それは人目を避け 密かに、そして粛々と行われる。この日本経済をも揺るがす
「あれって」
一日目の仕合が無事終わりを告げた夜。パーティかの如く用意された盛大、かつ豪華な食事の数々。酒をあおる者も居れば、肉を食らう者も居て。そうした食事だけに留まらず、整備された温泉施設で疲労を回復する者も多々。とにかく皆、仕合が終われば各々に。戦いを忘れ自由な時間を楽しんでいるよう思えた。そんな折り、適当に食事を摘まんだあと『騒がしい』と溜息を着いた彼は 盛り上がるその場から足を退き、早々と自身の控室に戻っていた。控室のソファに腰を掛けてすぐ、重い二度目の溜息を漏らす否や。
『御雷だ。何なのだ、あれは』
御雷と言えば、ゴールドプレジャーグループ所属であり、雷心流の当主。一回戦目は 根津と交え勝利したはずだ。勝利を手中に収めた相手へ“何なのだ”とは、どういう意味だろう。戦い方に穴や粗さがあったとは思えないし、わざわざ御雷へ悪態を着く理由が見つからない。彼の言葉に首を傾げ、その細い眉が作った眉間の皺を覗けば。
『仕合以外、女にかまけてばかりではないか』
「ああ、御雷選手。ずっと倉吉社長に膝枕してるものね、仲が良いったら」
『気に喰わん』
眉間の皺はより一層濃くなり、窪みに影を見せ始める。確かにあの二人は、傍から見ても雇用主と闘技者の関係を超えた何かを感じる節があり。しかし、それを他人がどうこう言う事でもないだろう。男女である以上、二人の間に何も起こらない保証などない物だ。
『そもそも。そんなに女が好きなら、血生臭い
ソファに腰掛け、無意識に組もうとした彼の長い足を 隣で制した。これは、大事な話をする時は 足や手を組まないで、と以前から伝えている為。私の仕草を察した彼は、何故これか大事な話なのかと半ば 理解に苦しむ様子で、嫌嫌ながらも組みかけの足を床に戻す。
「そんな風に言っちゃ駄目。ガオランにも戦う理由があるように、御雷選手も同じなの」
『……む』
「もしかしたら、御雷選手用の特別な疲労回復方かもしれないし、集中力を上げる為の儀式か何かかもしれない。人それぞれよ、ね」
戦いの理由など わざわざ声を上げて叫ぶ物でもない。それを聞くのは
『ん』
そうして短い返事と共に、彼は自身の脚を指差す。話は終わったのだ、足を組んでもいいだろう、と冷えた瞳で訴えられた。
「どうぞ」
言葉のあとで今度こそ長い足を組み。先程 食事の会場から持って来た、グラスのワインを口にした。何故だろう、アルコールを口にしているにも関わらず、未だ神経の
「ねえ、ガオラン」
『なんだ』
時計の秒針と息遣いしか響かない 静かな控室。仮定であるが、辿り着いた答えを小さく空気に乗せてみた。
「膝枕したいの」
『寝言は寝て言え、言いたいことは明日言え、馬鹿も休み休み言え、冗談は顔だけにしろ』
物凄い勢いで巻くし立ててくるではないか。これは殆ど図星と言っていい。彼が唐突に不機嫌になったのは 先の食事会場だ。サーパインと話していたのを 視線の端に映したが最後、急に機嫌を損ねたと思えば『騒がしい、部屋へ戻る』と、私へ声を掛けて来た事を思い出す。間違いでなければ 恐らく。今しがたの話同様、会話の流れで御雷の件をサーパインに話したのだろう。その証拠に、耳を
“お前、羨ましいんだろお!”
そのあとだ。彼が鬼の形相の如く 目を釣り上げ不機嫌を決め混んだのは。隣にちらと視線を配れば、彼がグラスに入った残りのワインを喉奥へ流し込み。アルコールの
『しかし、まあ。…貴様がどうしてもそのような真似事をしたいと言うなら 話は別だ』
いくら何でも明け透け過ぎではないか。それでも、彼がこうして甘えを見せるのは久しく。…――絶命トーナメントと言うくらいだ、考えたくはないが 死者が出る可能性も否めない この場所で。不必要な駆け引きこそ無意味である事は あまりに明白。口角が緩んでしまうの抑え込み、私は膝に乗せていた手を避けた。
「不思議。私が倉吉社長の真似がしたいだなんて、何故分かったの」
『は、貴様の事なら大概 推し量れる』
言葉の最後で体勢を崩したのち、彼の頭が膝に乗る。さらりとした髪の毛が 薄いスカートの生地を通り越して ちくり肌に触れた。流し込んだアルコールを含んだ唇が、太ももを
「どう」
こんな事を聞いたら 恥ずかしがって
『…………匂いがする』
「何の」
『……いつも』
指先で髪を
『俺の、一番近くにある匂いだ』
次に指で髪を掬った時。さすがに鬱陶しくなったのか。太い腕が伸びて来て、私のその手を捕まえる。そうして瞬間に振り解かれると思った指先へ、穏やかに熱が絡まった。