ケンガンアシュラ
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時計の針が、天辺を指した所だった。都度、空いたビール缶なんて片付けはしない物。夕刻から飲み散らした跡が、テーブルを隙間なく埋めている。酔いが回ってか、それともただの眠気か。傍にいる二人の大漢たちは既、フローリングに背を預け とっくに夢の中へと引き
「コス、モくん……駄目ったら」
若槻宅へは車で運転して来た事もあり、酒はただの一滴さえ口にしていない。勿論、大概泊まる予定などなかったし、日付が変わる前にはとっくに自宅で熱いシャワーを浴びているはずだった。しかし、久しい集い。ふいに視線を配べた時計の進み具合に、目が丸くなるのも無理はない。そうして私の他にもう一人、
『平気だよ、相当飲んでたみたいだし。オッサンと若槻さんなら、朝まで起きないって』
「わ、私、帰らないと、」
小柄ながらも日々に鍛え抜かれた
『どうして』
「……どうしてって」
『どうして俺が居るのに帰るの』
「……」
『名前さんに置いて行かれたら寂しいな、俺。泣いちゃうかも』
まるでアルコールを含んだ時に出てくるような言葉のそれだ。しかし彼はまだ未成年、当たり前だが酒など口にはしていない。それでも、素面の状態に無意識と口説きを成す所なんか、付き合い始めた当初からこの頭を悩ませている。仕合中だって、遠くから観戦する女性客が黄色い声を上げる程。それが近距離、甘いベビーフェイスに埋まる 硝子玉のような瞳から“寂しい”なんて引き止められたら。気に反して、彼の元を離れる方が難しいだろう。
『ね、だから帰らないで。一緒に居よ』
「……居る“だけ”なら良いけど、これ以上は駄目……っん、…」
再び重なった唇は、僅かだが。少し前に彼が飲んでいた、フルーツジュースの残り香が霞む。仮に彼が成人して居たとしよう、きっと横たわる大漢たちに加えフローリングと化していたはず。そんな状態なら、散らかったテーブルを適当に片し 三人を置き去りに、車のキーを手。一人先に自宅へ帰っていた事だ。――彼の胸板を押す理由は、何もセックスが嫌な訳じゃない。身体を重ねると常、アルコールを含んだような甘い言葉を 何度も耳にしてくれるし、行為もまた。年齢の為か、体力が余り有り、一度果てても直ぐに求めてこの身を善くしてくれる。単純に言ってしまえば、彼との繋がりは好きだ。しかしながら、問題は場所である。
「本当に駄目、…するなら、…く、…車、車出して、私の部屋に行くから、ねえってば、」
恋人との繋がりを わざわざリスクある友人宅で成そうとは思わない。仮に彼らへ情事を目撃されたなら、瞬間で酔いなど何処へやら、簡単に目醒めてしまう事だろう。当の彼は『平気だよ』と繰り返すが、全くを以て平気じゃない。車を飛ばせば、家までそれ程時間は要さないし、肌を合わせるならせめてシャワーを浴びたい物。
「お願い、言う事訊いて、」
そうして目一杯の力で厚い胸板を押すが、途端。視界の揺らぎを感じ取る。訳が解らず瞬きすると、いつの間だろう。瞳が捉えるは、広い、広い、天井。どうやら押したつもりが、逆に押し倒されて居たようで。
『はい、“登頂完了”』
仰向けの私が抜け出せないよう、馬乗りに絡まった脚は、ぴくりとも言う事一つ利かず。見上げた彼と言えば、その肌に張り付いたTシャツを脱ぎ捨てている。逞しい隆々の筋肉が、明るな部屋で
『ごめんね、俺、不良だからさ。お利口さん出来ないや』
「……コスモくん、私、声我慢出来る自信、ないってば……」
『いいね、凄く興奮する』
「そうじゃなくて、二人が起きちゃうじゃない」
伝えた傍。綺麗な金色の髪の毛が落ち来た。覆い被さられた瞬間、感じるは、彼の濃い匂い。常、首元から少し重たく甘い匂いを纏わせるのだ。香水なのか、自然な皮膚のそれかは定かでない。ただ一つ確かな事は、彼の放つそれに、身体の芯、下腹部が熱く疼いてしまう事実。これだけは、到底、どうしようも逆らえないのだ。そうして耳元に囁かれるは、甘い、甘い、果実のような欲望の滴り。
『――ね、して欲しい事言ってみて、俺何でも言う事訊くよ。ほら、お利口さんだから』
「さっき自分で、お利口さんじゃないって言った癖に」
私の言葉に、唇から赤い舌を出して見せ、意地の悪い瞳を浮かべている。そんな最中でさえ、なんて眼の綺麗な事。それは月の引力のよう、見つめられれば無意識と 喉奥から声が溢れ出てしまうのだった。互いの息遣いを肌へ感じる距離。月光に導かれた私は、静かに燃ゆる、瞳の熱に心を寄せた。
「キスして」
『どんな』
そんな物は決まっている。この状況下だ、天井から吊るされた照明も、時計が進む秒針の音も、固いフローリングも、傍で寝る漢たちさえも、全て。全て、周りが見えなくなってしまうような。まるで、真夜の安寧をここに。
「コスくんしか考えられなくなるような、キス」
『いいよ、口開けて、舌も頂戴』
震わせ、薄く開いた唇に、彼の熱い舌先が触れ。体液同士が交わると、短く漏れた吐息の端で、深く、深く貪られるよう、熱情顕に
「……ん…、あっ、………」
分厚い広い掌が、髪を
『なんかさ、今』
それは、愛おしさを以た、柔らかな眼。寸分も外される事なく、直前に注がれている。――穴が開いてしまいそうだ。
『世界に二人きり、みたいじゃない』
絡まり、強く繋がった指先。天井から吊るされた照明の煌した光も、時計の秒針が進む僅かな音も、背にある固いフローリングの痛みさえ。全てが砂のよう、