ケンガンアシュラ
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Valentine’s Staccato. の続き
自身の肌にぴたり嵌 ったドレスだったが、離せば途端に荷が下りたよう力が抜ける。バレンタイン当日、予想打にしていなかった彼からのプレゼントは驚きに眼を見開く物であった。さながら、レッドカーペットを優雅に歩く何処かのセレブを彷彿とさせる物。
「ホテルからの景色、凄く奇麗だったな」
都内某所、拳願会御用達と言う高級ブティックへ、レンタルしたドレスを返却し。彼のサプライズにより予約されたホテルを後とする最中。ふい、独り言のよう、夢心地で小さく呟けば、隣。ランボルギーニ、モデル・アベンタドールを走らせる彼が、それは嬉しそうに微笑むのだ。
『気に入って貰えて良かったわ、けど』
彼が用意していたのは、都内を一望出来る事で有名な高級ホテル。ベッドルームに常備された大理石のバスルームは、非日常的空間の演出に十分過ぎる程。初めてのスチームサウナも、乾燥する肌の肌理 を整わせるに最適であった。大体、身体を暖めたあとは、物珍しいブランズウィックのビリヤード台で下手なゲームメイクに笑い、大き過ぎるホームシアターでは 柔らかなソファに身を預け、外国物のロマンス映画を夜まで愉しんだ。そんな未だ夢と思える特別な日は、この先忘れられぬ想い出の一つになる事だろう。すると、赤信号で停止したスーパーカーから、独特のマフラー音が消え。幾分聞き取りやすくなったその声を、この耳へ届けるのだ。
『アンタの作ってくれたガトーショコラに比べたら、どれも霞んでたけどね』
「沢田…」
するり、ハンドルから離した繊細な指先が伸びては、頬を滑らかと触れてゆく。温かくて、なんて心地良い。指先は、壊れ物を扱うよう輪郭をなぞり ホテルを出る前に塗り直した口紅乗るそこへ辿る。伝わる確かな熱は、先まで共にしていたロイヤルスイートに在るベッドルームでの熱情。抱えられるように押し倒された皺一つない白色のシーツの上で、何度も何度もキスした情景を想い出す。仄かに香るは、私が彼へ渡したガトーショコラのそれ。半ば大袈裟と言えよう感動の表情で口へ運んだ甘味は。空気により一層甘さ以たせる。指先が、昂 り溢れた場所を辿れば いとも容易く善くなって。十分火照った肌の奥へ、彼自身を受け入れるのである。覆いかぶさる彼を見上げれば、鮮明に蘇る、余裕消えた揺れる瞳。そんな些細な一瞬を想う、それだけで。今触れられているこの唇に、熱い抱擁とキスの感触を纏わせていくのだった。
『…名前』
呼ばれた声色は、甘く、酷く解り易い。そうして捉えられた輪郭の先は、彼の指に優しく引かれるのだ。緩やかに睫毛を下ろす途中、こんな時に限って変な気掛かりを起こす。前髪おかしくないかしら、アイライン縒 れてないかしら、考え出したら切りが無い。それでも常、『可愛い』『奇麗よ』『私の恋人ったら最高』なんて褒めてくれるのだから、こそばゆくも嬉しさが勝ったりもする。
『愛してる』
熔けるような囁やきへ心を傾け、瞳から光を完全に遮る時だった。
「沢田、信号」
『え、』
「青よ」
私の声に丸くした眼は、目の前の信号へ向けられる。空気は一変、彼は大きな溜め息を付いたあと、これまた解り易くクラッチを繋ぐ。『ここの信号短いのよね、やんなっちゃう』と、漏らした不満と共、スポーツカーに搭載される特有の大出力エンジンを唸らせる。乱暴に見えるも タイヤのグリップはそのままに、特に空転する事なく前進するのだから、その繊細さは無意識による物なのだろう。あからさまに唇を尖らせる彼を隣、私はいよいよおかしくなって、吹き出すのだった。
_____________________
「送ってくれてありがとう」
汚れ一つない、洗車したてのランボルギーニから重たなエンジン音が止むと。ついに、いつも通りの日常へ引き戻されたような気がして、静寂な空気に寂しさを覚える。彼が白色の車を停めたのは、私のマンションに在る地下駐車場だ。このドアを開け、ハンドルを握る彼に手を振れば。あっという間、重音と共に車はこの場を去るだろう。多忙の身である事は了知、それを差し引いても一緒に居たいと願ったのは私なのだ。だからこそ、引き止める、なんて野暮な事はしたくない。
「それじゃあ、またね。あ、そうそう、写真沢山撮ったから、あとで携帯でアルバム作るね」
携帯のメッセージアプリに二人で撮った写真をアルバムとして残して置きたい。仕事で疲れた日、何となく嫌な事があった日、会えなくて淋しい日。そんな気持ちの空白を埋めるよう、今日の楽しい時間を記録して置こう。そうと決まれば、部屋へ着いた後 早速作ってしまいたい、そう車のドアに指を掛けた時だった。
『待って』
瞬間に伸びた腕が、私の肩を捕まえる。咄嗟、運転席をふり向けば、私の瞳をしかと捉えて離さない。直線的 眼差し。私が次の言葉を繋ごうと唇を開くと同時、それは彼の声により制されて。
『帰したくない』
「…………」
『送って置いて何言ってんの、って思うかもしれないけど……まだ、帰したくない』
触れられた肩から、全身に熱が広がっていく。真剣で、ほんの少し余裕の無くした視線は、ホテルでの情事を思わせるに容易くて、平明で、それでいて、熱くて、熱い。
「……沢田」
今度こそ、先の信号待ちでは出来なかった口吻を。唇が優しく掠れ、啄 むようなキスから、段々に。舌を絡ませる濃厚な物になっていく。すると、下腹部が事をを思い出したかのよう、鈍く疼いてしまうのだから、単純な身体の作りに苦笑くらいするだろう。するり、髪を分けられ 後頭部へ回された手。離さんとす彼の忠実な欲望にも、芯を掻き立てられてしまうのだ。
「……っ、…待って、……――っ、さわ、沢田、や、ここ車」
『家ならいい良いんだ』
「……意地悪」
私が細い視線を充てると、彼はおかしそうに小さく吹き出して。後にその逞しい身体で私をきつく抱き締める。寄せられた首元へ鼻を掠めると、落ち着いた香りに安堵と共。彼と同じ気で在る事に胸が茹だるのだ。
「ねえ、続き、私の部屋でしない」
『――…』
「勿論、嫌じゃなければだけど」
『馬鹿ね、嫌な訳ないでしょう』
帰したくないって、さっき言ったじゃない、そう掛けられた声は。甘く、この耳を刺激していく。そうして、きつく抱かれた腕が解けると、彼は極々少ない手荷物だけを纏めるのだった。その様子に、まだ彼の肌で眠れる実感が湧き、単純な嬉しさに仕方がなくなる。
『はあ、アンタの部屋でセックスするの久しぶりよね、何だかドキドキしちゃう』
「やめてよ、馬鹿、破廉恥、」
『ごめん、ごめん』
頬を紅潮させる様 に、彼は愉しく笑うのだ。今日二度目の細い視線を送りながら、車のドアを開け身を外に降ろす。彼もまた、運転席のドアに指を掛け、体躯の良い身体を潜らせた時だった。――きっと、立ち上がった際にでも、スーツのポケットから溢れたのだろう。彼の携帯が座席の上に転がっている。気付きと瞬時、ドアを閉める直前の彼へと声を掛けるのだ。
「沢田、携帯忘れてるわよ」
矢先。瞳に映った物は、ただの携帯なのに。些細な驚きへ、この眼を丸くさせられる。
『あらやだ、見られちゃった』
「それ……」
『言ったでしょう、名前の作ってくれスイーツに比べれば、どれも全部霞んでたって。私の特別な思い出。宝物よ』
そう言って、座席に手を伸ばした彼。携帯とその透明のカバーに挟まれていたのは、私が彼に渡したガトーショコラの包装紙。いつの間だろう、奇麗で丁度良いサイズに収められている。全くこの漢は、どれだけ私に愛をくれる気でいるのだ。些細な物で考えれば、それはすぐにでも両手じゃ利かなくなるに違いない。
「沢田」
『なあに』
「愛してる」
『知ってる』
ドアを閉めた白色の車。離れた場所から鍵を充てれば、ライトが煌と点滅する。
自身の肌にぴたり
「ホテルからの景色、凄く奇麗だったな」
都内某所、拳願会御用達と言う高級ブティックへ、レンタルしたドレスを返却し。彼のサプライズにより予約されたホテルを後とする最中。ふい、独り言のよう、夢心地で小さく呟けば、隣。ランボルギーニ、モデル・アベンタドールを走らせる彼が、それは嬉しそうに微笑むのだ。
『気に入って貰えて良かったわ、けど』
彼が用意していたのは、都内を一望出来る事で有名な高級ホテル。ベッドルームに常備された大理石のバスルームは、非日常的空間の演出に十分過ぎる程。初めてのスチームサウナも、乾燥する肌の
『アンタの作ってくれたガトーショコラに比べたら、どれも霞んでたけどね』
「沢田…」
するり、ハンドルから離した繊細な指先が伸びては、頬を滑らかと触れてゆく。温かくて、なんて心地良い。指先は、壊れ物を扱うよう輪郭をなぞり ホテルを出る前に塗り直した口紅乗るそこへ辿る。伝わる確かな熱は、先まで共にしていたロイヤルスイートに在るベッドルームでの熱情。抱えられるように押し倒された皺一つない白色のシーツの上で、何度も何度もキスした情景を想い出す。仄かに香るは、私が彼へ渡したガトーショコラのそれ。半ば大袈裟と言えよう感動の表情で口へ運んだ甘味は。空気により一層甘さ以たせる。指先が、
『…名前』
呼ばれた声色は、甘く、酷く解り易い。そうして捉えられた輪郭の先は、彼の指に優しく引かれるのだ。緩やかに睫毛を下ろす途中、こんな時に限って変な気掛かりを起こす。前髪おかしくないかしら、アイライン
『愛してる』
熔けるような囁やきへ心を傾け、瞳から光を完全に遮る時だった。
「沢田、信号」
『え、』
「青よ」
私の声に丸くした眼は、目の前の信号へ向けられる。空気は一変、彼は大きな溜め息を付いたあと、これまた解り易くクラッチを繋ぐ。『ここの信号短いのよね、やんなっちゃう』と、漏らした不満と共、スポーツカーに搭載される特有の大出力エンジンを唸らせる。乱暴に見えるも タイヤのグリップはそのままに、特に空転する事なく前進するのだから、その繊細さは無意識による物なのだろう。あからさまに唇を尖らせる彼を隣、私はいよいよおかしくなって、吹き出すのだった。
_____________________
「送ってくれてありがとう」
汚れ一つない、洗車したてのランボルギーニから重たなエンジン音が止むと。ついに、いつも通りの日常へ引き戻されたような気がして、静寂な空気に寂しさを覚える。彼が白色の車を停めたのは、私のマンションに在る地下駐車場だ。このドアを開け、ハンドルを握る彼に手を振れば。あっという間、重音と共に車はこの場を去るだろう。多忙の身である事は了知、それを差し引いても一緒に居たいと願ったのは私なのだ。だからこそ、引き止める、なんて野暮な事はしたくない。
「それじゃあ、またね。あ、そうそう、写真沢山撮ったから、あとで携帯でアルバム作るね」
携帯のメッセージアプリに二人で撮った写真をアルバムとして残して置きたい。仕事で疲れた日、何となく嫌な事があった日、会えなくて淋しい日。そんな気持ちの空白を埋めるよう、今日の楽しい時間を記録して置こう。そうと決まれば、部屋へ着いた
『待って』
瞬間に伸びた腕が、私の肩を捕まえる。咄嗟、運転席をふり向けば、私の瞳をしかと捉えて離さない。直線的 眼差し。私が次の言葉を繋ごうと唇を開くと同時、それは彼の声により制されて。
『帰したくない』
「…………」
『送って置いて何言ってんの、って思うかもしれないけど……まだ、帰したくない』
触れられた肩から、全身に熱が広がっていく。真剣で、ほんの少し余裕の無くした視線は、ホテルでの情事を思わせるに容易くて、平明で、それでいて、熱くて、熱い。
「……沢田」
今度こそ、先の信号待ちでは出来なかった口吻を。唇が優しく掠れ、
「……っ、…待って、……――っ、さわ、沢田、や、ここ車」
『家ならいい良いんだ』
「……意地悪」
私が細い視線を充てると、彼はおかしそうに小さく吹き出して。後にその逞しい身体で私をきつく抱き締める。寄せられた首元へ鼻を掠めると、落ち着いた香りに安堵と共。彼と同じ気で在る事に胸が茹だるのだ。
「ねえ、続き、私の部屋でしない」
『――…』
「勿論、嫌じゃなければだけど」
『馬鹿ね、嫌な訳ないでしょう』
帰したくないって、さっき言ったじゃない、そう掛けられた声は。甘く、この耳を刺激していく。そうして、きつく抱かれた腕が解けると、彼は極々少ない手荷物だけを纏めるのだった。その様子に、まだ彼の肌で眠れる実感が湧き、単純な嬉しさに仕方がなくなる。
『はあ、アンタの部屋でセックスするの久しぶりよね、何だかドキドキしちゃう』
「やめてよ、馬鹿、破廉恥、」
『ごめん、ごめん』
頬を紅潮させる
「沢田、携帯忘れてるわよ」
矢先。瞳に映った物は、ただの携帯なのに。些細な驚きへ、この眼を丸くさせられる。
『あらやだ、見られちゃった』
「それ……」
『言ったでしょう、名前の作ってくれスイーツに比べれば、どれも全部霞んでたって。私の特別な思い出。宝物よ』
そう言って、座席に手を伸ばした彼。携帯とその透明のカバーに挟まれていたのは、私が彼に渡したガトーショコラの包装紙。いつの間だろう、奇麗で丁度良いサイズに収められている。全くこの漢は、どれだけ私に愛をくれる気でいるのだ。些細な物で考えれば、それはすぐにでも両手じゃ利かなくなるに違いない。
「沢田」
『なあに』
「愛してる」
『知ってる』
ドアを閉めた白色の車。離れた場所から鍵を充てれば、ライトが煌と点滅する。