ケンガンアシュラ
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『良いって、別に。エッチなしで』
「………でも」
自身が思うより、特段反応は薄くて。それでもそれが、本心を悟られぬようにと言う 目に見えない彼の気遣いならば、尚更胸が痛む。何だか申し訳が立たず俯いて居ると、眉間に寄った皺を平らに伸ばすように、太い指が伸びては この額を馴らして行くのであった。『皺、増えちゃうよ』そう、いつもと変わらぬ笑みで覗かれれば、とうとう耐えれず。その逞しい首筋に両手を回していた。
『おっと、危ね、ビール、ビール溢れる』
抱きついた厚い身体は、常、私に温もりをくれる優しい体温。唐突に寄せた身は、大きな彼の掌によって、壊れ物を扱うように包まれていく。彼にとっては柔らか過ぎる程の缶ビール、恐らく、ほんの少し指先で引っ掻いてしまえば、すぐにでも奇麗に穴が開く事だろう。そうして、まだ底に炭酸が余るビール缶を 目の前のローテーブルへ置き。今度は両手で この背を包んでくれるのだった。なんて、温かい。――この日、多忙を極める彼が久しく時間を作れるとの事で。私も切り良く仕事を終えたあと、半ば浮かれたその足で、彼宅へ向かったのだ。ふと、最後に家へ上がったのはいつだったか、そう記憶を思い起こすのだ。確か、うんと寒い日の夜に金田と氷室、それに大久保も混じえ鍋をしたのが記憶に新しい。新しいと言っても、手帳を開けばだいぶ前の事だと知り、唖然としてしまう物。互いの都合が難しければ、中々二人で過ごせる日も少ない、そんな貴重な夜に、彼もその後を期待してくれて居た、はずなのだ。
『俺、全然、気にしてないぜ』
「でも次、理人と二人で会えるの、いつになるか分からないわよ」
『別にエッチしたいから会ってる訳じゃねえよ。名前ちゃんに会いたいから会ってる。それに俺は良く分かんねえけど、ほら、腹とか痛てえじゃん』
違和感は、彼の家へ着いた際だ。ふい、下着に触れる気持ち悪さに まさか、と嫌な予感がした。着いて早々、端ないと思いながらも 久方ぶりの挨拶も適当に、手洗いへ向かえば大きく肩が落ちた。それは、予定より幾分早く訪れた月の物。何もこんな浮かれた日の夜に来なくたっていいのに、まるで狙ったかのようタイミングで来る物だから、落胆も大きい。久しく会える手前、前日の夜は入念に保湿をしたり、産毛を抜いたり。今日の朝だって、春先にパッケージを開けようと楽しみにしていた新しい口紅を引いて来た。自分でも笑ってしまうような気の上がり。
『また次にしよう、な』
仄かに香るアルコールの匂い。飲んだばかりと言う事もあり、まだそれほどきつくない。大きな掌で背を擦られ、宥められるよう居ると、安堵なのか、何なのか、不思議と素直になれてしまうので、案外困り物である。
「……私は、…し、…したかった」
『……』
「この前は皆も居たけど、今日は二人きりだし、…会うのも久しぶりで、勝手に期待してて」
『名前ちゃん…』
家に着いて手洗いを借りた後、月の物になった事を伝えれば、『湯たんぽあるぞ』『いつ買った分かんねえけど、痛み止め飲むか』と忙しなく世話を焼いてくれて。この日の為と、
「でも、ごめんね、理人は身体の心配してくれてるのに。私ばっかり気持ちが先走っちゃってて、何か、恥ずかしい」
その通りなのだ。会えば肌を合わせる、なんて、盛の良い高校生や大学生でもないのだ。彼も仕事で疲労しているに関わらず、身体の心配しては、いそいそ世話をしてくれ。それなのに、軽はずみな私の声は、彼の善意を台無しにしてしまう事に他ならない。目の前の厚い胸板に顔を埋め、もう一度、短く「ごめんね」、そう口にした時だった。耳元で、大きな溜め息が聞こえてくる。それもそうだ、欲を
『だあ、もう、やめてくれよ、せっかく紳士ぶってんのによお』
二度目の溜め息の後、彼は抱き締めるその腕を解いては。私の眉間の皺が移ったのか、眉を八の字にしている。重なった瞳、籠もった熱の意は単純で、明らかで、易しい。
『んな事言われたら、やりたくなっちまう』
先に口へ含んだアルコールの
「………てっきり、私だけかと思ってた」
『訳ねえって。スーツなら諸バレだろうけど、勃ってるからね、俺』
「嘘、やだ、いつから」
目を丸くして問えば、彼は『内緒』、そう短く応え。照れ隠しなのか、テーブルに置いていた缶ビールを手に取り、勢い良く喉奥を潤していった。私が家へ着いた頃には既、仕事着は肌から離れていて、部屋着のスウェットに袖を通していた。ゆとりがある生地の所為で中々気付かなかったが、彼も私と同じよう、今日と言う日を愉しみにしていてくれたのだ。そう思うと、自然に胸が熱くなる。
『でも、エッチは“それ”終わってからにしようぜ、あんま良くねえじゃん』
「ん、そうね」
『あ、次までオナ禁しとくからさ、凄え量、期待しとけよな』
「もう、本当、馬鹿」
おかしくて、愉しくて、思わず笑ってしまう。先程ビールを一気に流し込んだ為か、彼の唇からは濃いアルコールの匂いがする。本来、月の物が前倒しで来なければ、アルコールも、セックスも。どちらも夜を明かして過ごつもりだったのに。その二つ、物の見事振られてしまうなんて。それでも、こんな宝物扱いにしてくれる人など、そうそう居ない物だ。紳士でも無ければ、清潔感がある訳でもない、デートに出掛ければ他所の女の尻さえ堂々追うような、どうしようもない馬鹿で、馬鹿で、本当、馬鹿なのに。
「ね、一郎」
『ああ?』
「…好き」
『…………』
もう、どうしようもない程に、彼が愛おしくて仕方がないのだ。短な声を伝えれば、彼は一瞬その身を固まらせるも。『俺は、大好きだけどな』と自慢気に胸を張るのだから、おかしいったらない。そうして、少しの沈黙を置いたあとだ、彼の指先が伸び、行先はこの唇へ。
『キスして良い』
「ん、沢山したい」
真剣な瞳に覗かれたのを合図、瞼を下ろして。
『……口紅、いつもと違う』
とても些細な事だ。なのに、こんなにも嬉しい。気付いてくれたんだ、そう開きかけた唇は、瞬間さえ待たずに。彼のそれに充てられてゆく。