ケンガンアシュラ
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明るいシャンデリアの細かな光が上から注ぐ特等席。クローズ後の為、その重厚な空間に居るのは彼と私の二人だけ。“大宇宙”、ここは義伊國屋グループ出資のバー。カウンターに立つのは、義伊國屋書店所属闘技者で、ジークンドーの達人である彼である。鍛えられ盛り上がる肉体に、真っ白のシャツと黒色のベストを纏う様は、女性なら思わず声を掛けてしまう程。この日も幾度か、頬を赤に染めた女性らに誘いを受けては、大概素である営業スマイルで女性に恥をかかさぬよう、紳士にそれを
『名前ちゃん、この後どうする』
天井から落ちて来る照明の光が、反射するよう綺麗と拭き上げられたグラス。少し前まで私が唇を充てていた、ソルティドッグが在ったカクテルグラスだ。グラス縁に乗っていたのは最高級、竹塩という事もあり、正直もう少し味わいたい気もしたが。
「涼が良ければ、このままお泊りしたいな」
『いいよ。距離的に俺のが近いけど、生憎、女性用品は置いてなくてさ。今日は名前ちゃん家の方がいっか』
細かな所まで気遣える、彼のそんな性格が好きだ。恐らくは先日会った際、丁度月の物だった為 鎮痛剤を服用している姿を瞳の端で捉えていたのだろう。しかしまあ、気を遣えるからと言って、女性用品を家に置いていて居る、なんて言われても複雑だが。何せ どの角度から覗いても、非の打ち所が無い程に整った端正な顔立ち、それに加え男女構わず距離を詰めるのも上手いと来た。彼がその気になれば大抵の女性は連絡先を喜んで教える事だろう。
「ありがとう、“それ”はもう平気」
『あ、そうなんだ。じゃ、俺ん家でいいの』
「ん」
『了解、グラス片付けたら終わりだから、もう少し待ってて』
「急いでないから、ゆっくりで良いわよ」
初めの印象は、少しばかり軟派であった。仕事帰り、アルコールを
『いや、俺が早く帰りてえからさ』
「今日、ラストまで混んでた物ね。接客も大変だったでしょう、綺麗なお姉さんとか、綺麗なお姉さんとか」
『なに、妬いてる』
「別に」
『可愛い』
『前も言ったけど、女の連絡先は名前ちゃんしか居ないぜ。さっきの人たちにも番号聞かれたけど、断ってるし』
「別に聞かれたなら教えてあげたっていいわよ」
『そんな事言うなって。俺もう同じ墓に入るなら名前ちゃんて決めてんだからさ』
「さり気なくプロポーズ
馬鹿なんだから、と苦笑と共 溜め息を着いて見せれば。彼もまた連れて白い歯を覗かせるのだった。そろそろグラスも拭き終わる所、あとは身に纏うシャツとベストを肌から離し、私服へ着替えて共に帰路へ着くだけだ。ふと、くすみ一つとないグラスをスタンドへ戻した彼が、何かに気付いたよう、私の口元に視線を寄越しては。
『…唇、何か付いてる』
「やだ、嘘」
咄嗟、手持ちのハンドバッグから コンパクトミラーとハンカチを出そうとした手前。それはカウンター越しに伸びて来た彼の手により遮れる。
「涼、」
瞬間、見上げると共、彼の太い指が 私の顎先に触れ。重なった視線と同時、銀色の瞳に吸い寄せられるよう褐色の肌に熔けていく。触れゆく冷たな唇は、アルコールで火照った熱を覚ますに丁度良く思えたが。途端、唇の隙を割って入り込む濡れた舌に、熱が覚めるどころか、芯の火照りが上昇する。
『……
恐らくは、前述、唇に付いていたのは先に含んだソルティドッグのグラス縁に散りばめられた塩である。飲み終えたあと、ミラーで口元を確認し、口紅を塗り直したのだが。天井から振る細かなシャンデリアの照明が、小さな塩粒を光らせたのだろう。
「涼、……んっ、待って、もう、取れたでしょう」
皮膚を
「涼ってば、……っ、」
『不思議だよな』
「……」
『塩っぱいと思ったら、凄え甘いの、名前ちゃんの舌』
付き合って暫く経つのに、未だこうして口説いてくるのは 彼の性格なのか何なのか。時が過ぎるに連れ慣れると思っていた甘い言葉は、囁かれる度、底知れない何処かへ
「ねえ、」
『ん』
唇が離れると、先まで濃厚と絡んでいた舌先から透明の体液が互いを繋いでいた。既、自身でも解る程に
私が盛り上がる胸板に指先を滑らせると、微か、彼の眉が震えるのだった。ベッドの時もそうだ、前戯、彼の躍動打つそれを口に咥えると、普段漏らす甘い言葉は何処かへ消え。代わり、その眉を僅かながらに上下させる様。それが、堪らなくこの胸を熱くさせる。
「早く帰って、…したいな」
『俺は帰るまで、待てそうにないや』
再度、重なった唇が、その先を待つ事はなかった。黒のベストを肌から離した彼の吐息は、今すぐ脳が蕩けてしまいそうな程に甘くて、甘くて、甘い。濃厚なキスの最中、彼の携帯の通知が鳴るが、今はそんな事構いはしない、そう思ったのだが。視線を配った先の画面に映し出された待受が、いつの日かの私になって居た事に。今日一番の驚きを覚える。
――いつか、『俺、そんな信用ねえかな』そう言われた世界線に、時を戻せるならば。その時は、うんと可愛い気を以て首を横に振りたい物だ。先程の嫉妬は何処へやら。急に良くなった機嫌を悟られぬよう、彼の首元に腕を回す。