ケンガンアシュラ
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なんて肌触りの良いシーツだろう、乗せられた毛布が少し薄いものの、部屋の暖房が控え目に効いているお陰か、少しも寒くない。普段、喉の乾燥から風邪を引く事を見越して 暖房は切って就寝する身だが。起き掛け、唾を飲んでも特段違和感が無いのは、加湿器が十分に部屋を潤してくれているからだ。――…昨日の土砂降りとは打って変わって晴れた朝、カーテンの隙間から細く溢れる陽射しが 心地良い。そんな爽やかな朝、目覚めの良い朝、心穏やかな朝、しかし。どうしたって、一つ気になる事、それは。
『おはよ』
そう、ここが、自身の家では無いと言う不可思議な事実。未だ醒めない頭を精一杯回転させ、状況を把握しようも 簡単に理解は追いつかない。気持ち良く目覚めたと同時、枕の代わりは、彼の白色が際立つ腕枕。いつからこの頭が彼に支えられていたかなんて、ほとほと知る由もないのだ。加え、まさかと思うが身に寄せられた毛布の中を恐る恐る確認する。そんな事をしなくとも、シーツに身体が擦れる感覚で、何となく察しは付いていた。感覚よりも明らかは、自身の目で直接確かめる現実、やはり。どちら共、生まれたままの姿がそこには在って。
「英先生、……私たち、その」
恥ずかしながら、まるで昨日の記憶がない。仕事帰りだ、帰路に着く途中の駅前で、偶然と彼に会った。拳願絶滅トーナメント以来、初めて目にする彼は。闘技場で観戦した時と比べ物にならない程、ただの優男に見えた物。久しく会った事もあり、積もる話に華を咲かせて居た所、この日の天気予報が大外れ。雲行きが怪しくなったと思えば、辺り一帯、突然のスコールに見舞われて。そのあとだ、異常気象と言わんばかり。季節外れの
『その様子じゃ、昨日の事、すっかり覚えてないみたいだね』
「……ごめんなさい、お酒の
段々に覚めて来た脳内だったが、それでも記憶が掴まらないのだ、これ以上遡って思い出す事は出来ないだろう。私は、いつからか下敷きにしていた彼の腕枕から離れ、毛布に包んだこの身をゆるりと起こす。頭痛は、特にない。すると、未だ気持ち良さそうと その綺麗な白色の裸体をベッドに預けながら。彼は悪戯な細い瞳で笑うのであった。
『残念だよ。昨日 僕の上に
空腹の所為か、はたまた別の理由か定かでない。それでも、血の気が引く感覚に、軽い貧血を覚える。加湿器の回る部屋でさえ、唇が乾燥する程。酷く動揺を
『冗談だよ』
「…………冗、談、」
裸の男女がベッドで共に横たわり、先まで腕枕すらして居たにも関わらず、何がどこまで冗談なのか。脳内は、混沌を繰り返す。
『ごめんね、君の慌てる様子が可愛くて、つい。意地悪しちゃった』
彼は彫刻のような、白色の美麗な裸体を起こし。同じくベッドへ腰を据える私へ 瞳を合わせた。
「じ…じゃあ、私たち、本当になにも」
『安心しなさい。そもそも、同意無しで性交渉する程、女性に困ってないから』
普通なら嫌味にも聞こえよう言葉だが、彼の妖艶たる声の中であれば、特に虚言とも思えず、自然に納得してしまう。――…そうして、今在る事態に関し、彼が言うには次の通りだ。昨日の夜、カフェバーにて拳願仕合の話しにアルコールを
『外も変わらず土砂降りでさ、終電も逃しちゃったから。近くのホテルに君を担いで寝かせたって訳』
「…そんな、私、先生になんて事…」
『あ、因みに。服はルームサービスに出して綺麗にして貰ってるから、そろそろ届けてくれると思うよ』
恐らくは、カフェバーのみならず 彼の服まで汚してしまったに違いない。二人共、服を纏わない理由に合致がいった私は、前述、自身が疑った事への不躾な物言いに 深々と頭を下げるのだった。
「英先生、ご迷惑お掛けして、本当にすみませんでした。ホテル代とクリーニング料、全部、私が払いますから」
介抱して貰った挙げ句、財布の紐まで解かせる訳には行かない。ふと、時計に視線を配る。まだ早朝というのが不幸中の幸い、彼だって仕事がある身だし、私も、職場へ急がなければ。
『気にしないで良いよ。ホテルとクリーニング代も。全部精算済みだから』
「……そんな、なら、せめて昨日のお食事代だけでも」
『要らないってば、ほら、着替えて出社するんでしょ』
首を縦に振らねばならない現実に、情けなくも「すみません」と返せば、彼は何だか愉快と笑っていて。私に気を遣わせないよう、そんな配慮かと思うと。嗚呼、なんて情けない。まさに、“穴があったら入りたい”、がこんなにもしっくり
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せめてもの償いと、再度頭を下げては。ホテルに併設されているカフェでコーヒーを馳走する事で話しが片付いた。全く以て割に合わないのは了知だが、彼の頷きに私もようやく肩が落ちる。
『それじゃ、僕はここで適当に着替えるから。君はバスルームを使っておいで』
「ありがとうございます」
初めに買った時より艶が増したブラウスとジャケットパンツ。下着も併せて預かり、バスローブを纏わせた身をバスルームへ走らせた。先に着けた腕時計に目を配ると、出社までは余るほどに時間がある。これならば、慌てずに彼とコーヒーを飲む事が出来るだろう。溜め息を一つ、そうして、肌を覆っている白のバスローブを肌から離した、そんな時だった。
「――…待って、嘘」
鏡の前、自身の裸体を反射し映せば。胸元には、きつく、きつく、付けられた赤い跡。どれ程きつく唇を充てれば そんなにもはっきり形が残るのか。ふと、彼の言葉を思い出す。
――…“冗談だよ”
解らない、何処までが冗談で、何処からが本当なのか。しかし一つだけ解るのは。彼が常人の思考を持ち合わせて居ない真実。――…バスルームの端に PTP包装シートを見つけた、けれど、何の錠剤が入って居たかは見なかった事にする。