ケンガンアシュラ
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乾いた肌が重なれば、次第、熱を以ち。寄せては返す 奥が触れゆく感覚に、ただにこの手を回しては、少し足りとも離れぬよう抱き締めるのだ。火照りを帯びた皮膚は時間を掛け 互いの体液に濡れ。
「……ガオラン」
いつの間、彼の胸で眠りに付いたと思っていたのに。温もりと感じて居たそれは、重なる体温ではなく、カーテンの隙間から射す陽の光であった。当、散らばる髪の毛の下には、腕の代わり。シルクのカバーで覆われた枕にすり替わって居る。まだ完全に覚めぬ目を擦り、ベッドサイドに置いた携帯へ手を伸ばせば、途切れた記憶が蘇るのだ。しまった、昨日の情事後、すっかり充電を忘れ眠りに落ちている。憂鬱に伸ばした指の先、携帯が充電器に挿さる
「…まだ六時なのに。ランニングかしら」
最近は日の出も早く、早朝六時には大抵明るくなる物だ。折角の休日、仕事に追われる一週間もようやくと乗り越えた、たまには昼頃までベッドへ身を置いて居たい、と言う欲は 人類共通で良いだろうか。そうしてもう一度、彼の匂いが染み込んだ毛布へ身体を包ませた時だった。何処からともなく、甘い、甘い、匂いがして。途端、前述の欲は 掌を返すよう食欲へと変換されゆく。我ながらなんて都合の良い脳内なのだと苦笑が溢れた。口内の唾液腺から湧いた唾を 喉奥へ押しやって、都合良く覚めた身を起こしては、ベッドを背にリビングへ向かうと。
「おはよう」
『……まだ六時だぞ。寝てれば良い物を』
「それはこっちの台詞」
盛り上がった胸筋で、今にも張り裂けそうなシャツの上に、エプロン姿でキッチンへ立つ彼。どうやら、甘い匂いの源はここらしい。先程よりも高まる食欲と興味に、キッチンで作業する彼の真横へ身を寄せてみる。
『……近い、寄るな。寝間着が汚れる』
「ね、何作ってるの」
『
「え…」
噛み合わない会話へ問えば、彼のシャツ袖がずるり落ちて居て。大袈裟に片腕を動かしては“
『助かった』
「ありがとう、のキスは」
『………貴様と言う奴は、何かに付けて。何故いつもそうなのだ』
愚痴愚痴、愚痴愚痴。眉間の窪みを深くしながらも、最後は常。小さな舌打ちの後に薄い唇をくれる。それが、何とも心地が良い。夜もそうだ。善い場所を探しては、烈しさの中 十分過ぎる程の熱で、この身を大事としてくれる。普段のキスも、たまには夜のよう情熱的でも嬉しいのだが、伝えればきっと 深い溜め息を着かれる様子が目に浮かぶ。
「それにしても、本当、良い匂い。お腹空いて来ちゃった」
『着替えて来い、時期に焼ける』
「分かった。休みだし、ルームウェアで良いわよね、あなたはいつも通りシャツだけど」
休日くらい窮屈な服へ袖を通さずとも何ら
『しゃんと着替えて来い、出掛けるぞ』
瞳を丸くした私へ、彼は同様にもう一度『身なりを整えて来いと言ったのだ』と、断固。気が休まるルームウェアは却下とされた。何処へ出掛けるか聞こうとも思ったが、既、三度目の『着替えて来い』がすぐそこまで控えている。控えの声が届く前に、洋服へ着替える事としよう。それにしても、早起きする程 気合を要する行先となれば、だいぶアクティブな場だろうか。次のデートで着ようとアイロンを掛けて置いたワンピースは、また次回。
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「ガオラン、着替えて来たわよ」
動き易さも兼ね備えたお洒落着に袖を通した。口紅も、普段使い用ではなく、彼とのデート用。以前だ、この色を着けた際 柄にもなく『似合ってるいる』と言われた日から、これは二人で出掛ける時専用の口紅としていて。これであれば、愚痴愚痴、文句は着けない事だろう。ダイニングテーブルへ着くと、同時。焼けたばかりの甘い香りを漂わせたフレンチトーストと、ホットミルクが運ばれる。
「わ、美味しそう。作ってくれて ありがとう、頂きます」
『喰っていろ』
「あなたの分は」
カラトリーを両手に。ふと、フレンチトーストも、ホットミルクも 在るのは一人分だけで。首を傾しいで気付く、彼の手には当然のよう どう言う訳か、レンタカーのカードが握られているのだ。
『先に済ませた』
「ええ、一緒に食べたかったのに」
『車を回してくる。貴様が喰ったら、そのまま出掛けよう』
「ねえってば、一体、何処へ出掛けるの」
甘い匂いに堪らず、唾液腺から潤いが溢れる。会話の途中で行儀が悪いが、空腹も限界。問いかけの最中、熱々のフレンチトーストにナイフとフォークを入れた私の姿に、彼は細い溜め息を着き。そうしてそれは、何とも。口へ運ぶまで及ばぬ程に、この指を止まらせる物。
『胸元が張り裂けそうなシャツでバック駐車する姿が見たい、だの』
「……」
『海辺で俺がシャドーボクシングする様を見たい、だの』
「……え、と」
『俺の一人カラオケをマラカスを持って邪魔したい、だの』
「……ちょっと、…待って、」
『待つも何も、全て貴様の嗜好だろう』
確かに。確かに以前から、そんな事が出来たらと想い描いて声としていたが。まさか、本気に捉えるとは思わないだろう、相手は誰でもない、彼だ。伝えたとして、鼻で笑われたのち 軽くあしらわれるのが容易に想像出来る。しかし、どうだろう。笑う所か、そんな真剣たる眼差しを送られれば、目の前に湯気立つフレンチトーストも、半ば自惚れと思える程に。
「………き、…急にどうしたの。浮気でもした」
『何故そうなるのだ、馬鹿馬鹿しい。それと』
カーシェアへ出掛ける手前。彼がふと、思い出したかのようキッチンへ向かっては。白い、白い、細かな
『ダイニングには、白い花を飾りたい、とも言っていたな』
小さな沢山の花弁は、綺麗と包装され、青いリボンに纏められている。花は、恐らくスノーフレークだろう。鈴蘭に似て、細かで可愛いらしい。そうして今度こそ。彼は車を回しに玄関へ向かうのだ。
「……ガ、ガオラン……これって」
冷めぬうちに食べなければ。熱々のフレンチトーストは、出来立てが一番美味である。しかし、未だ驚きの余り カラトリーを両手にしたまま手付かずの私へ。彼は特に振り返りもせず、ただに。その広い背中で語らうのだった。
『せいぜい、今日は自惚れていろ』
声色の、何と機嫌が良さそうな事。ふい、彼が充電してくれていた携帯へ目を配る。日付を確かめ、ようやく何の日か知った。――…ホワイトデー。何気ない小さな望みを今日一日で消化しようなんて、面倒なのか、マメなのか。それでも、早い足取りで既、家を後にする彼の様子に、何だか嬉しくて笑ってしまう。目の前のフレンチトースト。盛られたバターを平らに伸ばした。